上下
『上には上がいる』
実につまらない言葉
いい絵が描けたと思って人に見せた時、聞いた
テストでいい点を取って親に見せた時、聞いた
仕事で素晴らしい成績を残した時、聞いた
頑張って貯金をして家を建てた時、聞いた
名声を得て大げさに騒がれた時、聞いた
穏やかに暮らしていた時、聞いた
『上には上がいる』
喜んでいる自分に水を差す、嫌な言葉
満足している自分に迷いを与える、憎たらしい言葉
上がいるのだから、立ち止まるなという激励なのか、それとも
上がいるのだから、やっても無駄だという傲慢なのか、それとも
上がいるのだから、大したことはないのだという侮蔑なのか、それとも
上がいるのだから、驕ることのないようにという戒めなのか、それとも
『上には上がいる』を真正面から受け止めてしまうことは、非常に…危険
『上には上がいる』を意識すると、自分の人生が…かき乱される
自分の上にたくさん誰かがいることを認識すると、自分自身が揺らぐ
自分の上にいる誰かを超えることを目標にすると、自分自身に疑念がわく
自分の上に誰もいなくなることをゴールにすると、自分自身を見失う
誰かを目指す、それは悪くない
誰かと比べる、それは悪くもなりうる
誰かに勝つ、それは悪くはない
誰かを蹴落とす、それは悪くもなりうる
『上には上がいる』
分かっている
『上には上がいる』
判っている
『上には上がいる』
解っている
上には上がいる…、そんなことは、わかっている
自分がいつのまにか…、『上』の存在する場所に投げ込まれたことが、嘆かわしい
私は、この場所で…まっすぐ前を見て、自分の道を進みたいだけなのに
『上には上がいる』
なぜ…上を見ようとする?
なぜ…上にいる誰かを見ようとする?
目の前に私がいるのに、目の前にいない誰かを見ようとするのは…なぜ
どこにいるのかわからない誰かを見上げて、目の前の私を見ようとしないのは…なぜ
……同じ目線で、目を合わすことのない人など…、私の人生には、必要ない
『下には下がいる』
実につまらない言葉
納得のいかない絵を描いてしまって捨てようとした時、聞いた
テストで思いがけず悪い点を取って自暴自棄になった時、聞いた
仕事でつまらないミスをしてへこんだ時、聞いた
もっと大きな家を建てたかったと愚痴った時、聞いた
セミナーを開いて20人しか参加者がいなかった時、聞いた
つつましい食生活を披露した時、聞いた
『下には下がいる』
悔やんでいる自分に水を差す、嫌な言葉
嘆いている自分に迷いを与える、憎たらしい言葉
下がいるのだから、大したことがないという慰めなのか、それとも
下がいるのだから、それよりはましだという同情なのか、それとも
下がいるのだから、まだ大丈夫だという偏見なのか、それとも
下がいるのだから、贅沢を言うなという叱咤なのか、それとも
『下には下がいる』を真正面から受け止めてしまうことは、非常に…危険
『下には下がいる』を意識すると、自分の人生が…かき乱される
自分の下にたくさん誰かがいることで、自分自身が揺らぐ
自分の下にいる誰かに惑わされて、自分自身の在り方を無くす
自分の下にたくさん誰かがいることに安心して、自分自身を見失う
誰かを見る、それは悪くない
誰かを見下ろす、それは悪くもなりうる
誰かに負ける、それは悪くはない
誰かを打ち負かす、それは悪くもなりうる
『下には下がいる』
分かっている
『下には下がいる』
判っている
『下には下がいる』
解っている
下には下がいる…、そんなことは、わかっている
自分がいつのまにか…、『下』の存在する場所に投げ込まれたことが、嘆かわしい
私は、この場所で…まっすぐ前を見て、自分の道を進みたいだけなのに
『下には下がいる』
なぜ…下を見ようとする?
なぜ…下にいる誰かを見ようとする?
目の前に私がいるのに、目の前にいない誰かを見ようとするのは…なぜ
どこにいるのかわからない誰かを見下ろして、目の前の私を見ようとしないのは…なぜ
……同じ目線で、目を合わすことのない人など…、私の人生には、必要ない
『上には上がいる』
『下には下がいる』
つまらない考え方を備えてしまうと、人生が…くすむ
上を見て自身の未熟を知る
……おかしなこと
下を見て自身の成長を確認する
……こっけいなこと
己の努力を他人ありきでしか認識できない
……愚かなこと
『上には上がいる』
『下には下がいる』
私には……、必要のない、言葉