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Geburah:対決、決闘と襲撃

事の始まりは前回の戦闘が終わってすぐの事である。

マルコと蓮は学校近くの路地裏で降ろしてもらい、なんとか時間内に登校する事が出来た

いつも通りの日常、昨日からどこか狂ってしまったけどいつも通りの学校の光景を見てマルコは安堵していた。


「おはおーマルコー♪」「おはよぉ、美香」


隣同士の席であるマルコと美香は挨拶を交わす。


「どうしたのー?なんか疲れてるっぽいけど…あ、解った!」


「にゃ!何!?」


よもやもうばれたのではないか、そう思ったマルコは身をこわばらせるが


「マルコ、昨日の早起きで朝のジョギングに目覚めたでしょお!!

健康的だけどねぇ、あんまり朝早すぎにジョギングするのはやめといた方がいいよぉ?ジョギングの発明者は朝のジョギング途中に心臓発作起こしたんだってよー?」


「あ、あはは…気をつけるよぉ」


額にいやな汗を浮かべつつ苦笑いするマルコを、美香は悪戯っぽい笑みで見る。


「で?何だか早くもジョギング仲間が出来てるみたいだけど?」


美香の視線の先で蓮は教室の端で相変わらず面倒臭そうに頬杖をついて窓の外を見ている。


「相変わらずとっつきにくそうなのに、何気にマルコフラグ体質だよねぃ?」


「な、なにフラグってぇ?」


マルコは顔を赤くして蓮を見る。

―でも本当に蓮くんって私達にはあんまり自分から話そうとしない気がする…メイさんとはあんなに話してるのに

まじゅつしってことも、まだ一日目だけど…仲間なのに解らないことだらけだ…―

そう連を見ながらぼーっと考えていると、美香が小悪魔の笑みでニヨニヨとマルコを見ている事に気付きさらに顔を赤くする。


「な、何ぃ?」「いやぁ~、脈ありなんだねぃ~?」


「ちがうってばぁ」


とマルコが恥ずかしそうに言っているのを、さらに美香を挟み隣の席に座る男子が聞いていた

…昨日蓮に投げられ逃亡されあまつさえ放置されていた不運の男、太一である。

いや、それの事は既に太一はほとんど忘れかけていた

自称番長である以上、無闇に過去を根に持つのは彼の矜持に反するし、何より太一はうたれ強く何があっても翌日には平気な顔をして登校している、そんな少年なのだ。

しかし太一は今日ばかりは、小学生の使用者を対象とされた強度の机がひび割れんばかりに怒りを拳に込めていた。


「…っざけんじゃねぇぞ、転校生ぇぇえ…っ!!」


そう、太一はマルコに好意を寄せているのである。

それはもう趣味代わりのケンカを辞め、彼女の敵であるならば上級生だろうが中学生だろうがねじ伏せ

彼女に例え気付いてもらえなくとも猛烈にアタックを続ける程にマルコの事が大好きなのである。

そんな彼が今のマルコを見て、嫉妬の怒りに震えない事が果たしてあろうか、いやない、反語。

チャイムが鳴る直前に、太一は絶妙なコントロールで教室端に向かってある物を投げた。


「…何のつもりだ、あいつ…?」


蓮は机の上にジャストで乗った物体を怪訝な顔で見る。

何故か、蓮の机の上に洗いたての靴下が乗っていた。




「それじゃあ葛葉、この問題解いてみろ」


算数の時間に太一が指される事は多い、それは彼の思考が常にマルコの方へと偏っているためである。

もちろん授業などほとんど聴き飛ばしているも同然なのだが、ここに美香のサポートが入るわけである。


「マルコに見直させるチャンスかもねぃ♪」


その一言を聞いた太一は、黒板に向かうまでに何気なく教科書の今周囲が開いているページを開く。

通常、勉学と言う者は何度も練習し勉学を重ねることでちゃんとした知識へと昇華する。

そう、予習復習をちゃんとしてこその勉学なのだ…しかし、それを太一は凌駕した。


「答えは、3分の2だ!!」「せ…正解だ、やればできるじゃないか葛葉!!」


愛とは時に奇跡を起こす、それがたとえ理不尽な者でも想いの力に勝るものなど無いのである。

太一はものの見事に問題の答えを言い当てて見せた、途中式まで確実に。

それも太一の類稀な集中力が美香の発言によってへんなスイッチへと切り替わっただけなのだが…


「じゃあ次の問題をそうだな…神賀戸やってみろ」「はい」


至極面倒くさそうな返答をし、席を立つ蓮だが…黒板への道のりにすれ違い太一は蓮をものすごい形相で睨んでいた。

蓮はそれに会えて気付かないふりをして問題を見て、ため息交じりに答える。


「…5分の3」「…神賀戸、途中式も書くように」


先生の返答を受け蓮は途中式を描く、通常の途中式に加え証明の為の数式を幾つも幾つも…


「すみませんでした、完敗です」


やがて黒板が埋まったところで先生が土下座した、どうやら先生なりに引っ掛けを加え難解にした問題だったようだ。

さらに証明式のレベルが小学校レベルから最早一個につき黒板の半分を埋めるような高等数学の域まで達している。

理解不能の事態に太一は顎が外れんばかりに口をあけていた、周囲もまた唖然とする。


「……って頭いいんだなぁ…」


マルコは、「魔術師って頭いいんだなぁ…」と言ったのだが、呆然としていた太一にはそれが後半しか聞こえなかった。

「神賀戸君って頭いいんだなぁ…」と脳内補正をかけてしまうのは、ライバルを持った恋する少年の性か

太一は机のひび割れをさらに深くした。



続いて体育の時間…バスケットボールの試合となり、案の定太一と蓮は敵同士のチームとなる。


「くくく…ちょっとは驚いたが、眼鏡をかけてる時点で頭いいっていうのはだいたい予想が付いてたんだよ

今度は晶水の視線、いただくぜ!!」


「思考が駄々漏れだねぃ♪」

背後に廻っていた審判の美香の言葉を無視しつつも、蓮と太一はジャンプボールを取る為に相対する。


「今朝のアレは何の意味があるのか教えてもらおうか…?」


ここにきても眼鏡を外さない蓮の問いに、太一は胸を張って答える。


「決闘の申し込みだ!」「それなら手袋を投げろ」


挿絵(By みてみん)

蓮の至極冷徹なツッコミを受け、太一はこめかみに青筋を浮かべる。


「伝わりゃいいんだよ…この試合、勝たせて貰うぜ」


太一の溢れる熱意と、蓮の氷の視線が混ざり合い、小学生のバスケらしからぬ緊張感が周囲に生まれる。

・・・・・・・・・・・・・・・美香が、高らかに宣言した。


「すたーとっ!!」


美香がボールを天高く放り投げ、二人は跳び上がる。


「・・・・・・っ!!」


太一が驚いたのは、連が予想以上に高く跳びあがった事だった…恐らくは体力において小学生離れした太一にも匹敵するであろうジャンプ力である。

しかし、背丈は太一の方が上だった。

…バシィ!!

太一が弾いたボールは、的確に自分のチームの少年の手元に向かって空中を走る!!


「取れ安田(仮)ぁ!!」


「えっ!あ!?」


二人の全力飛翔に呆然としていた安田(仮)少年は慌ててボールをキャッチするが…パシっという音と共に何者かに奪われてしまう。


「え…?」


安田(仮)少年が振り返ると、そこには既に蓮が居た。


「…速ぇ!?クソッ…完璧超人かてめぇは!!」


太一は大急ぎで蓮に迫りボールを奪おうとする…しかし蓮は最小限の動きでそれを回避、ドリブルしながら敵ゴールへ向かう。


「さっきの言葉、そのまま返すぞ」


太一と離れる瞬間にそう言った蓮は、ゴールから5m離れた位置からボールを投げ…的確に3pシュートを決めてしまった。





「……あ~、ココアがうまいわぁ」


翼で起用にコップを持ちココアを煽るエリヤの横で、明は楽しそうに笑う。


「しかし、蓮くんもややこしい事に巻き込まれてないかしらねぇ?」


「はぁ?あのおっさん魔術師がマルコに持って来たようなものでしょうが、こんなややこしい事態」


エリヤの言葉に、明は首を横に振る。


「違うの、彼37歳とか言ってるけど…それはあくまで生きた年月

彼の本質からするに、きっとずっと9歳のままで成長が止まっているのよ」


「ふぅん、だから?」


明はにっこり笑って答える。


「負けず嫌いの子供のまんまなのよ、彼も」




「…やるじゃねぇか、ビンゾコ」


「それはこの眼鏡の事を指してるのか、靴下男?」


ボールを手にして威嚇する太一を前に、蓮は挑発するように言う。

太一はアイコンタクトで周囲のチームメイトに指示を送る。


「チームワークで征そうとしても無駄だ、僕とお前ならともかく…戦力差が大きすぎると思うぞ?」


しかし、太一は大きくボールを振りかぶる。

―所詮子供か、ゴールに近い奴に投げようが…取ればいいだけの事…―

そう思い蓮が最小限の動きでそちらに向かおうと足の形を整えたのを、太一は見逃さなかった。


「…考えが足に出てる…ぜっと!」


太一は不自然に振りかぶった体制のまま、手首のスナップだけで一番近いチームメイトにボールを渡した。


「なっ…!?」


蓮は急いで太一の場所へ向かおうとするが、急激な変更に体制が追い付かない。

あくまで蓮の機動力という売りは、『的確かつ最小限の動き』で成り立っている。

それが整えられないままの蓮は、普通の小学生のそれと同じ機動力のまま走り始めてしまったのだ。


「しまっ…!!」「お先に!!」


対する太一は鍛えた体力に、仮実行委員としてクラスメイトと付きあって来たチームワークがある。

まさに太一は昔からその座を譲らない3年3組の砲塔なのである。


「入れぇぇぇぇ!!!」


「「いっけぇぇ太一ぃぃぃ!!!」」


太一はゴールからコートの半分以上も離れた位置からがむしゃらにボールを放った。

しかし太一のコントロール力は、皮肉にも蓮が今朝の試合で既に確認していた

ボールはゴールの環にぶつかりほぼ垂直に跳ね上がり、吸いこまれるように輪の内側へと入っていった…


「…決まったーっ!!これは離れすぎです、最早4p!!壮絶の4pシュートですよぃ!!」


あまりにも奇跡的な事態に興奮した美香がテレビの試合の司会よろしく解説し、太一のチームに4p加算する。

ピピピピぴピピピピ!!


「試合終了ぉー!!」


「「「うおぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!」」」


観客も見学も太一のチームも、果ては負けた蓮のチームメイトさえ感動のラストに打ちふるえた。





「すごかったね、太一君♪」


「や、やーそれほどでもないぜ本当に、あっはっはっはっは!!」


感動したマルコの一言が太一の心を昇天間近まで癒しているところに、蓮がやってくる。

「…。」蓮は何処か納得できないように俯いているが、太一はその肩を叩いて言う。


「なーに落ち込んでんだよビンゾコ、良い勝負だったじゃねぇか」


「………君は僕の事を毛嫌いしていたのではなかったか?」


蓮の問いに太一は、空気中の何かを捨てるように手を大きく振る。


「かっ、もうそんなこたどうでもいいんだよ。俺だって昨日あんなにぼろ負けしたんだしな

だけどよ、俺は過去の負けはどうでもいいってのが信条でね。

それに、俺が授業でここまで全力でやって勝ったのは久しぶりだぜ?今はもうすげえとさえ思うぜ。」


そう言って握手しようと手を差し出す太一の言葉に暫くキョトンとした蓮だが、ふっと笑ってその手を取る。


「…まったく、頭軽いな君は…靴下男。」「うるせぇ、ビンゾコ」


青空を背に、戦友たちは握手を交わす。


「あぁ、スポーツ万歳だねぃ…」


感動の涙を流しつつ、美香はおもむろにそう言った。





「そろそろかしらねぇ、マルコちゃんが戻ってくるのはね?」


「……あのね、メイ」


明が背伸びをしてこれからの仕事に備えようとしているところを、エリヤは呼びとめる。

それは、明とエリヤにとって呼び呼ばれ慣れた呼び名だった。


「…メイ、本当に止めなくてよかったの?

少なくともあの子は、あの時の事を覚えてる…いや、忘れていないと言った方がいいかしら…

あの子には、それだけでもこれからつらい事になる…それは、貴方にとっても…」


「…エリヤ、私とあなたの仲じゃない…解ってるのなら言わないでよねぇ

少なくとも私とあなたにとってはお互い了承済の事でしょうに、ね?

貴方は嘘は言ってない、必要な事を言っただけ…感謝するわ、それと…」


言いかけたところで明はぴくりと眉を動かし、何もない宙を見る。

その先にある異質な存在を感じ取ったのだ。


「おっと、いいタイミングで現れたわね、割と大物も…ね」


「いっけない!速くいかないと…」


明の言葉と共にエリヤもそれを感じ取り、急いで玄関口とへと飛び制止する。


「ねぇメイ」


「ん?」



「私達、まだ…相棒かな?」


エリヤの問いかけに、明は微笑んで俯く。


「…ごめんなさい、相棒」






一方で、マルコ達は体育の時間の事を語らいながら帰路についていた。


「神賀戸くんもすごいねぃ~、まさか投げるだけじゃなく太一と互角の勝負までするときた」


「でも、太一君のシュートもすごかったよ?」


「いやぁ~ははは、そんなことあるぜ!」


マルコのほめ言葉に感極まって鼻を伸ばす太一に、冷徹な目で蓮が口を開く。


「修行不足だな。靴下がもう少し鍛えてさえいれば、ポテンシャルの面で僕が負けるよ」


靴下、靴下男は、蓮が太一を呼ぶ時の呼び方として定着してしまっていた。


「なっ…負けたやつが何を言ってんだビンゾコこんにゃろう!」


太一はむっとして蓮をはがいじめにしようとするが、するりとかわされて後ろを取られる


「ふん、一回の勝ちで図に乗るなよ靴下男」「く、上等だビンゾコ!明日も決闘だかんな!」


「ぅゃ、やめてよ二人ともぉ」「やっはっは、面白いコンビだねぃ~♪」


何気ない会話を楽しみながら歩いていると、ピクリと眉をひそめた蓮がマルコに視線を送る。


「…!!」


マルコもまた、ある存在を感知し身ぶるいする。

有機的で痛々しくさえ感じる感覚、ブランクだ…そしてもう一つの強い力


「何?…この感覚…」


≪マルコ、今どこに居る!? Byエリヤ≫


目の前に自動筆記が現れ「ひゃっ」と声を上げたマルコは、すぐに頭の中で返事を描く

今は太一と蓮、そして美香…友達と下校中である。


≪えと…今は家に帰ってる途中だよ?通学路! Byマルコ≫


≪急いで…え?この感じ…マルコに近づいてる!!

魔術師…いや、魔法使いだ!!すぐそこに居る!! Byエリヤ≫


エリヤの自動書記を読み、周囲を探る時にはもう遅かった。

空を覆うのは数多くの刃、無数の蛮刀である。

それが雨のように降り注いでいる事を知覚した時には、既に刃はマルコ達の通う通学路に殺到しようとしていた。


「…………!!」


マルコがキュッと目をつぶる。


ガギギギギキキキキキキン!!!!!!!


多くの刃同士がぶつかり合う音が響き、友達の存在感が消える。

マルコが恐る恐る目を見開くと、マルコと周囲の人間だけを避けるようにあちこちの地面に蛮刀が突き刺さっていた。

周囲は濃い霧に包まれ、美香達はビデオの一時停止のように動かない。

唯一動いているのはマルコと、蛮刀の出所を睨む蓮だけである。


「これって、一体?」


「非観測地帯、魔術関係者のみ入る事を許される魔法使いの張る結界の一種だ。」


蓮はマルコの問いに答えると、さらによく目を凝らす。


「邪魔しないで、エノク」


少女の声が、灰色になった空に響いた。


「方法を考えろ、ジュリ…結界を張る私の身にもなれ」「…関係無い。」


空からマルコ達を見下ろす二つの影は、二つとも空を飛んでいた。

片や剣先の無い剣が浮遊しており、片やで背中に生えた広く黒い翼で飛ぶ少女の文句を返している。


「魔法使い…私と同じくらいの子…?」


「…ジュリア・F・ヘンデルの名において告げる、この手に集え威光の剣束」


少女が唱えると地面に突き刺さった蛮刀がその手に集い、刃で形作られた巨大な手となる。


「ジュリアだと?…やばいマルコ、奴の狙いは僕たちだ!!」


「待って!!えっと…ドラウプニル、座標固定!」


マルコは本能的な知識で自分と蓮の周囲にドラウプニルの環を出現させる。


「転移!!」


マルコがそう叫ぶと、非観測地帯の内一通りの少ない場所に別の環が生まれ

瞬時にその環の場所と自分達の場所が入れ替わるように転移した。


「これで、巻き添えは少なくなる…かな?」


「上出来だ、後はあの魔術師…いや、魔法使いだ」


蓮がにらんだ先には、二人を追って来た少女が刃の腕を振りおろそうとしている。


「っ…風を!!」


とっさに手を伸ばすマルコと少女の刃の間に大規模な環が広がり、少女に向かい高密度の風が吹き荒れ刃を腕を受け止める。


「マルコ!避けろ!!」「え…」


蓮に呼ばれてマルコが気付いたときには、少女はマルコの眼前に降り立って構えていた。

巨大な翼は形を変えて外套となり、その手のひらには眩い魔力の光

光から引き抜くように一般的に知られる形状の長剣が塚から刀身へと光が収束するように形作られていく。


「きゃぅ!?」


半ば倒れるように辛うじてマルコは少女の剣撃を避ける、刃の触れた髪が切れて二人の間に舞う。

そのわずかな間に蓮は少女の顔を見て、その正体に確信を得る。

挿絵(By みてみん)


「…異端騎士ジュリア・フリードリヒ・ヘンデル!?何故こんな処に、何故僕らに剣を向ける!!」


蓮が声をあげると、ジュリアと呼ばれた少女は動きを止めて驚愕の瞳で蓮を見る。


「教会騎士…知られたからには、殺さないと…」


ジュリアはゆっくりと蓮の方に向きを変え、剣を持ち直す。


「待つんだジュリ!!」


するとジュリアの周囲に浮いていた剣先の無い剣から、凛といた女性の声が放たれる。


「殺しちゃだめだ、そんなことしたらもう戻れない!!カインのところに!!」「…っぐ!!」


剣がそういうと、ジュリアの手に持たれた剣と空中に支える力を失って地面に落ちていた蛮刀が光の粉となって四散する。


「んぅ、ぅあ…にゃぁ…あぁっ!!」


ジュリアは締め付けるように頭を押さえ悶え苦しむ。

すると再び外套を翼に変化させるとその翼で全身を包み、砲弾のような速度で上空彼方へと飛び去った。


「ジュリ!」「待て!…メタトロンなのか!?」


ジュリアを追いかけて行こうとする剣を呼び止め、蓮は問い詰める。


「…頼む、騎士団には知らせないでくれ…もう少しなんだ!!」


メタトロンと呼ばれた剣は凛とした女性のような声を残すと、高速でジュリアの後を追い飛び去った。


「はぁ、はぁ…お姉ちゃん!?」


今になって追いついたエリヤも飛び去った剣を視認するが、メタトロンは何も返す事無くはるか空の彼方へと飛んでいった。

倒れたマルコは、ただ皆の声を聞き飛び去った二人を見ていることしかできなかった。


「ジュリア…ちゃん?」



新たに現れた魔法少女


そして、彼女から感じたブランクの気配


それに言いようもない不安と疑問を感じながら


ただマルコは空に手を伸ばし、『敗北』を噛みしめた。

非観測地帯【魔術】

己をはじめとしたあらゆるものの観測があってこそ、物体はそこに存在する。

これは科学的に解明された事象であり、魔術にも幅広く採用される理論である。

しかしこの裏を返せば観測されないものはこの世に存在しないか、それもあり得ない。

理論上観測されていない状態の物体は漠然としたエネルギーに近いものでありそこで想像し得るものは総て起こり得る物理事象である。

この場合の非観測地帯は、あえて非常識的な術式を張り巡らせる事で周囲から観測されず、干渉されない空間を作り出す結界である。

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