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Binah:問答、美学と事情

「蓮くんが明さんの従兄弟だったなんてー、じゃあ今朝に教えてくれたってよかったんじゃないの?」


ココアを一口煽ってから、美香が文句を垂れる。


「あらー、だって折角の謎の転校生じゃないのぉ、黙ってた方が面白いでしょう、ね?」


「な…謎のって…くっ」


お茶目に頬に指をあてて首をかしげる明の出したあまりにもあんまりな理由に蓮は呆れたような顔で抗議しようとするが

明に一睨みで黙らされれる。当然、蓮が明の親戚である筈がない。

総て明のついた嘘だ、それも詳細も知らない非日常の存在を名乗る少年をこのような形でフォローするのはひとえに

『可愛いものは正義』という明の持論のみで判断された事であって、それに対して救われた蓮は何も言う事は出来なかった。

しかし、ここで対応に遅れたがゆえにどうしようもなくなった哀れなマスコットが居た事も忘れてはならない。


「………っ!!………っっ!!!」


美香の手元でひたすらふにふにされている白い竜やら鳥やらのような不思議生物は、ただ必死にぬいぐるみのふりをして耐えている。

美香は特に、不思議な材質でできた仮称天使の鱗の感触が気に入ったのだろう

鱗を一枚いじり揉まれるたびにその影の薄さから先ほど自己紹介する事さえままならなかった哀れな大天使長補佐は

悲鳴を上げそうになり鋼の精神でそれを押さえていた。


「このシルクのような真珠のような肌触り、今日一番乗りで喫茶店に入ったマルコへのプレゼントにしたって

明さんはやっぱり太っ腹だよねぃ~♪早く私の分もできないかなぁ…」


「~~~~~~~~~~~~~っ!!!ぐへぁ…」


美香は手作りぬいぐるみと言われた天使を力いっぱい抱きしめる。

いくら天使とは言えそのサイズは小動物、肺の中の空気が一気に押し出され天使はぐえぇと言いそうになるが

それ以前に肺の中に空気がないため辛うじて発音せずに済んだ。


「み…美香、そろそろそのぬいぐるみ…」


マルコが美香におずおずと尋ねる。


(た…助かった、特例で人間に選ばれた魔法使いとはいえさすが私に祈ったにんげ…)


「その、まだ私もあんまりもふってないの…。」


「あいよ~♪」


マルコの頬を赤らめたその上目づかいは状況を知らない人、或いはそれに慣れていない人であれば

思わず理由も何も問わず財布の中の諭吉さんを問答無用で渡してしまうほどの威力を誇るだろう。

しかし、天使にとってはそれが自分を拘束し拷問する二人目の悪魔の挙動にしか見えなかった。



死にかけた天使の体がカウンターの上に置かれた頃、美香は門限の時刻に差し掛かった為

マルコも今日は天使を鞄に入れてそのまま帰る事にした。

明の従兄弟と言う事になってしまった蓮はそのまま明の喫茶店に残る事になってしまったが

そもそも美香の家は門限や規則には厳しいため今日の早起きや早登校は許されたのだろうかとマルコは思う。

しかしそんな疑問は些細なことだ。

美香と一緒に帰路を辿る道中、力尽きて地面に寝る太一の姿があったが美香の提案であえて放置。

それも些細なことだ。

マルコはただ今日…それもついさっき遭遇してしまった非日常の事件の事が再び頭を埋め始めていた。

目が覚めたばかり、明の話を聞いているときは正直夢うつつな感じで

魔法使いとして二人のブランクを助けた事は頭のどこかでリアルな夢だと思っていた。

マルコはこの日、自分が寝起きが悪いという事を自覚した。

いや、それにしても明も美香も喫茶店を含めた町の様子も何もかもが変わらな過ぎて…


(まるで初めからそれが当たり前だったかの様になってて…明さんは一体どうして…)


「…ルコ?マルコー?」


「はぅ!…な、なに?」


美香が心配そうに話しかけている事に気付き、マルコははっとして美香に返事をする。


「しっかりしないと駄目だよマルコ~、今日から私達晴れて『公式』実行委員会なんだから♪」


美香がそう言って、ばしばし肩をたたく。

美香は何時だってそうだ、いつだって自分の美学に正直な女の子なのだ。

鬼ごっこをしたいと思ったら、正直にグラウンド中から声をかけて周り大規模に鬼と人間の戦争を始め

重い荷物を持ったおばあちゃんを見て助けたいと思ったら、総ての荷物を一身に背負って家まで送る。

やりたいことを一番やりたい形で実現する事こそ美香の美学なのだ。

そんな美香の姿と、ブランクを助けたいと思った時の自分の姿は何処かかぶっていたような気がした。


(あぁ、たまには私も我儘が言えたんだなぁ…)


美香を見て、いつもパートナー役やサポート役に廻ることの多いマルコはそう思った。


『≪魔法の力については後で話しましょうね。

私も、とっさにあなたに渡しちゃったから後悔はしているのよ…

魔法も魔術も、本来マルコちゃんの世界には必要のないモノだから

必要ないと思ったら明日の朝にでも私に返しに来て…ね?≫』


明がマルコに読ませた自動筆記の最後はそんな文章で締めくくられていた。


「美香…私人助けしちゃったんだ、今日」


「うん?」


マルコの言葉に美香は耳を傾ける。


「助けたいって思ったから、我儘でもそう思ってむりやり助けちゃったんだ。」


「…ふむぅ、それで?」


美香は何処か成長した感じを見せた幼馴染に、いたずらっ子な笑みを浮かべて問いかける。

マルコもマルコで、その笑みにいい笑顔で答えた。


「なんだか、我儘を押し付けたみたいで…すっきりした」


「癖になるだろぅ♪」


美香の…回答ともとれる問いに、マルコは笑顔でうなずいた。

なんだか押し付けになってしまうかもしれない、或いは自分勝手だ

でも、それでいいと正直に思えたのは自分がそんな正直で、そういった我儘が上手な友達に恵まれているからだと思う。

あのブランク…意味を奪われた人々は、そしてその原因たる魔術師はまだこの街に居るのだろう。

ならばマルコは明に再び我が儘をする、それだけの決意と理由をマルコは持っていた。



「で、『この町』に来た魔術師ということは君も何か知っているんでしょう、ね?

私以外からこの町の魔術的意義が知り合い以外にばれることはただ一人の弟子を除いて有り得ない

それに私はあの弟子に関しては少なくとも私の師匠以上に信じているつもりだから通常それは 有り得ない しね?

だとするとO∴H∴社か十字新派の騎士団から来たってところかしらね?」


「後者だ、流石は反の魔法使い

自分の周囲を守るためのコネクションは確立されているってことか」


思考する余裕ができたとはいえ、蓮の顔はいまだ赤かった。

何故なら未だ蓮はぬいぐるみよろしく明に抱きつかれたまま設問されているからだ。

明は普段コートで着やせ着膨れはしているがそれでも解るほどの造形的に見事なスタイルを持っている。

少なくとも後ろから抱き疲れている蓮の後頭部には枕のような二つの塊が押し付けられているのだから

たとえ魔術師を名乗るものであっても人間の男としては意識せずにはいられないのは必然である、絶対に。


「かーわいぃねぇ♪」


「うぐうぅぅ…」


明は構わず…というよりむしろその様子を楽しんでいるようだ。


「言っておくが、外見がどうであれ僕はこれでも37歳…少なくとも君より年上だぞ?」


「知ってる、ちなみに私は二十歳よん…ね」


この屈辱的な状況を打破するため、半分はのぼせ上がった脳で導き出した最後の手段…というより秘密だったのだが

あまりにもあっさりと即答されてしまった。


「魔術の対価に年齢を差し出す魔術師がいるっていうのは聞いたことがあるけど、その類?

…何かそれって小説や漫画で出てくるような若返り目的で魔法に手を出すやからが喜びそうな白ものよねぇ」


ぐぅと観念したように…しかし魔法使いに対して魔術のプロとしての性質か、正確なところを述べる


「…正確には魔力の絶対量を得るために肉体年齢のみを魔力に変換しているんだけれど

したがってテロメアや寿命の絶対量も増えることはない、それこそ魔法の域だ…ぬあぁ!?」


「ムキになっちゃってか~わいぃ~ねぇ♪」


明の抱きつき攻撃に、問答無用の撫で回し攻撃が追加される。

しかし撫で回し攻撃は中断され、明は蓮の顎を持ち顔を寄せる。

それこそ、人間を誘惑する魔女のように…


「さて、新しい魔術理論についての情報を得るのもいいのだけれど

そろそろこの町に何がいるのか…何が行われようとしているのか言いなさい?

早くしないと、『獣666(アレイスター)』の間接権限で騎士団を脱退させた上で本当に私の従兄弟として日本に戸籍を置かせるわよ?」


「団長…カイン・A・C…先代の反の魔法使いの直弟か…。」


その名前を聞いたとき、明の目が糸から鋭い針のように薄く開かれる。


「お互い隠し事には向かない性分じゃない、ここは情報を共有した上で互いについて語りましょう?

その為にあの偽善者は貴方をよこした、違うかしら、ね?」

【青銅欄式鬼ごっこ】(儀式?)

美香考案の究極的鬼ごっこ。

美香がこれをやりたいなーと思いある程度の人数が集まりこの儀式が発動した瞬間

グラウンドに居る全員が強制的にこのゲームに参加させられてしまう。

参加者は鬼と人間の量派閥に分けられ鬼長と人間長が一人づつ選ばれる。

鬼にタッチされた人間は負けというルールではなく

鬼は人間を、人間は鬼を捕え本拠地へと連れ去り鬼長、人間長にタッチさせる。

そしてどちらかの長ににタッチされた者は敵の手に落ちて鬼もしくは人間になってしまう

鬼長人間長のタッチ効力はアジトと決めた数メートル範囲しかなく

終了時にどちらの数が多いか、もしくはどちらかの長が敵の手に落ちたかによって

片方の種族の実が生き残るという大規模サバイバルゲーム。

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