Daath:終幕、少女と…
さてさて、皆様いかがでしたでしょうか
魔法少女達の想いに魔術師たちの思惑が交錯するこの物語。
至らぬところも多く、賢明なる読者の皆様にさえよく解らぬような
『説明不足』と言える所がまだまだ多いことでしょう。
結局この案件の黒幕であるところのグラディ=マクマートリーは写し身を倒した処で『いまだ健在』でしょうし
彼の後ろにもまだまだ彼の言う『お姫様?=神の入口? 騎士?=犬?』等幾人かの思惑があるところを見ると
『ブランクに関わる事件もまだ終わってなどいません』、ね。
そもそも『私と下院の関係』は?私は下院に対して何を『赦していない』のでしょうね?
そもそもこの街が私の『楽園』とは、一体いかなることなのでしょう?
…はい、白々しい?当然です、この物語の『語り手はあくまで私』なのですから、ね?
ただ、いつかは『語り手を降りる時も来る』でしょう、ね。
此度はそれぞれのエピローグを終える事で、一期の絞めとさせていただきましょうか、ね。
ジュリアちゃんを巡る戦いから3日後、ブランクが街から発生しなくなる事はなかった。
聞いた話によると、ジュリアちゃんにとり憑いていた魔術師―魔法使いでもあったらしい―は
あくまで分身みたいなもので、本体は未だどこかに潜んでいるそうだ。
それからも私は、魔法少女を続けながら普通の小学三年生として生活してる…蓮君も。
でも、ジュリアちゃんは…
「ジュリアちゃん、あれからどうなったかなぁ…?」
そう呟いた私に、後ろから誰かが私の顔を覗きこんで言う。
「外国の子?」「うひゃぁ!!美香ぁびっくりさせないでよぅ」
「にひひ~ごめんねぃ」
と、美香は笑ってはなれる。
でも、私は美香の問いに答えたくて…所々はしょって話すことにした。
「…友達になりたかったんだけど、悪い事しちゃってて話す前に何処かにいっちゃった」
「うむぅ、それは中々にへヴィな話だねぃ」
美香が顎に手を当てて考える。
「でも、会った事はあったんだ…どんな子かも知ってて、彼女を助ける手伝いもしたの」
「…それでマルコが会いたいって願うなら、きっと会えると思うよ」
え…と振り返ると、美香はいつもの明るい笑顔で言う。
「私もマルコに割と助けてもらってるもの、実行委員を作れたのもマルコの機転のおかげだし
私の髪こんなんだから、マルコがいなかったら学校でも一人だったと思うんだ
昔は寂しくって人形でも作ろうかって思ってたしねぃ」
美香は恥かしそうに指でその綺麗な金髪をくるくるしながら言う。
「でも、助けてくれた恩があるから…じゃないんだ
助けあう事が楽しいから、マルコと一緒にいるんだよ私も
だから、きっとそのジュリアって子も来るよ…友達になりにねぃ♪」
美香がそう言うと…にゃぁ、と黒猫が私たちの隣の塀を通り過ぎて行った。
美香は私の手を繋いで、ぎゅぅと握る。
「その時は、その子も実行委員メンバーにしようねぃ♪」
「………うんっ♪」
私は笑顔で美香に応えた…応えたんだけど…………
「えぇ~、突然ですが急遽こちらに転校してきた新しいお友達を紹介します」
「ジュリア=ヘンデルで~すっ、よろしくねっ!」
教卓のすぐ隣で、白く光る銀髪に黒い制服姿のジュリアちゃんが元気に挨拶をする。
私は突然の転校生に驚きを隠すことなく呆然としていた。
≪え~~~~~~っと…
操られていたとはいえ彼女は色々問題起こしたから
暫くの間は|薔薇十字騎士団日本支部で預かることになったんだって。
団長から『元気すぎるくらいの子だけど、ジュリをどうかよろしく』だってさ
(--;) By蓮≫
教室の端を見ると、神賀戸君は眉間を手で押さえてため息をついていた。
でも…
「何してんのマルコ、早く紐引っ張って!」
「ふぇ?え…これ?」
と、美香が横から小声で言って来たから引っ張って見たら。
パァン!
というクラッカーの音とともに
『ウェルカムトゥ青銅欄第三小学校!!』『ようこそウェルカムジュリアちゃん!』
『いらっしゃいませ実行委員!!』
と書かれた張り紙が、前よりも進化した装いで教室の壁に垂れ下がった。
「何時の間にしかけたんだろう…」
「おれがー、昨日の夜のうちに―、忍び込んで―…」
下を見ると、太一君が疲労で地面に突っ伏していたことにようやく気がついた。
「あぁ、太一君…おつかれさま」
「にっひっひー、この金奈美香の情報網を甘く見たらいかんよー?
ジュリアちゃんって名前なのはさっき聞いたんだけれどねぃ♪」
美香はジュリアちゃんに向かい大きくサムズアップする。
「あっ……」「あ…」
その時、こっちを向いたジュリアちゃんと私の目が会い…緊張で胸が高鳴った。
「あっ…あの……」
と、私がどぎまぎしている間に…ジュリアちゃんは笑顔を向けて
「これからよろしくね、マルコ♪」
と、元気な笑顔で言ってくれた。
何でだろうか、その時に心配だの何だのは全部すっかり消えていて
「……うんっ、よろしく…ジュリアちゃん!!」
私は、新しく白い魔術師の友達を迎えた。
白と黒の魔術師は、私の生活を急激に変えちゃったけれど…二人とも、今は大事な仲間です。
王国の魔法使いと、白と黒の魔術師を巡る物語…
ひとまずは、ここでおしまい。
どこまでも続く、星のちりばめられた宇宙の闇
その闇と蒼い月のような光が、その空間を支配していた。
そこは、灰色の砂漠が広がっていた。
誰もいない…否、黒いコートを着た同じく黒い長髪の女性があるいてきている…明だ。
そこは、月と呼ばれていた。
何故、どうやって明が月に居るのかは解らない。
しかし彼女に不可能はない、何故なら彼女も魔法使いだからだ。
総てを否定する、反の魔法使い…明・綾乃。
彼女は月の裏側まで歩いていき、やがて一つの物体を目にして近づいていく…
明がそれに近づいたその時、ようやくその正体は掴める…本だ。
暗い月の裏側で、明が近づいていくと…いつの間にかその本をまた別の女性が大事に抱えている事が確認できた。
流れるような銀髪に、悲しみに濡れたような紅い瞳…彼女を包む雰囲気は、人間のそれを大きく外れていた。
余りに彼女を包む悲しみの密度が違うのである。
「や、久しぶりねぇ♪こんな何もないところだけど、異分子のせいでずっと放置していたわね…
最近どう?」
受け渡された本を読みながら、明は女性に問う。
「ずっと見ていたよ、退屈はしなかった。しかしその内に3246回仔が生れ、その内総てを殺した
暴走が起きなくて良かった…」
「御免なさいねぇ…」
明は申し訳なさそうに目を閉じてパタンと本を閉じる。
「んっ…いいさ、これでまた暫くは暴走の危険もないだろう?それに、仔を殺すことにはもう慣れた」
そう言って女性は煙草を咥え、ライターで火をつける。
真空である宇宙ではそもそも火もつかない筈なのだが、そのような摂理など二人には無意味なのである。
「それにしても、随分とサービスが良い
本当は、ジュリアという子のサポートなんてしない心算だったでしょう?」
「ん、必要なのはマルコちゃんだけだったからね
でも…まぁ気まぐれよ」
明もまた歩き出して言う。
「必要なのはより強いマルコの力…その為にグラディにはもっともっと悪役になってもらわないと困るものねぇ?
彼の内側を探って見たら、まだ他にイレギュラーはあったみたいだしね?」
明が活き活きと言うと、女性は煙草を吹いてそれに返し問う。
「ハァ……マルコの更なる成長か、それも賭けでは?」
「そう…ね」
明は地面に闇色の魔法陣を発生させて、その上に乗る。
「完全な確率と結果だけを求めるなら、神はだた一編の物語を書けば良い
もしあの子が…私達の真相に気がついてしまったならば、その時は……」
明は、振り返って女性と悲しい瞳同士を向け会った。
「その時は、私とあの子の戦いが待っている…それだけよ」
明が魔法陣と共に消えた月の上の世界は、何処までも静かで
それでも何処か神秘的な魔力に包まれていた。
女性は宇宙の闇に向かい、その両腕を広げて願う
「あぁ、願おう…その時が来ない事を
その時は、私は貴女の最悪の武器となる
願わくば、苦しみのない終焉を
私達の望みは、ただそれだけなのだから…」
女性はそう言うと、悲しい瞳の目を閉じて
弱い重力の宇宙空間に輝く涙の滴を浮かばせた。