真っ暗なお城の中で(2/3)
「……最後のナゾナゾの答え、『フクロウ』だよね?」
ツグミはテディが言っていたことを一つ一つ思い出していきます。
「エコバッグは『袋』。双眼鏡は『とおめがね』。干支の中で十番目がネズミになるのは『ウサギ』……つまり『ウ』。この二つを合わせると、『フクロウ』になる」
ツグミが言い終えると、ビーストの体からモヤが晴れていきます。その全身が現われました。
牛の顔と馬の足、そしてフクロウの胴体と翼。ビーストは、ナゾナゾの答えに出てきた全ての生き物をつなぎ合わせたような見た目をしていました。
けれど、これだけではビーストの本当の正体を当てたことにはなりません。ツグミはさらに続けます。
「あなたはぬいぐるみでしょう? それも……私が今まで作ってきた。……ううん。『作ったけど途中でやめた』が正しいかな」
ツグミは理想のナイトを作る過程で、いくつかの「失敗作」も生み出していました。それが、フクロウと馬と牛のぬいぐるみだったのです。
「姫なら、いつかきっと気付いてくださると思っていました!」
ビーストの喜びは最高潮に達していました。細い馬の足をばたつかせます。嬉しがる彼とは対照的に、ツグミの気持ちは冷たくなっていきました。
「何でこんなことしたの? 作りかけでやめちゃった私を恨んでたから?」
ビーストが自分をしつこく狙う理由。ツグミがどれだけ頭を捻っても、それは仕返しのためだとしか思えなかったのです。
けれど、ビーストは「まさか!」と大きく目を見開きました。
「ワタシが恨んでいるのはサー・テディだけ。あの忌々しいテディベア。たった一人だけ姫にお仕えすることを許されるなんて……」
ビーストは大きな歯をガチガチと鳴らします。
「姫はワタシを作りかけのままクローゼットにしまってしまいました。そして、サー・テディを作った。それを知った時、どれほど嫉妬したか! ワタシは名前すらもらえなかった! だというのに、あのクマは……!」
ビーストは低く唸ります。それでも、後に続いた声は落ち着いていました。
「けれど、もういいのです。そんなことはどうでもいい……。だって、あのクマはもういないのですから。これで姫にお仕えできるのはワタシだけ。さあ、姫。早くご命令を! ワタシにナイトとしての仕事をお与えください!」
ビーストには悪意の欠片もなく、ただ自分のナイトとして傍にいたかっただけ。予想もしていなかった真相に、ツグミはどう反応していいのか分かりません。
けれど、彼とはどうやっても分かり合えないということだけははっきりと理解できました。同時に、こんなことになってしまったのは完全に自分のせいなのだと気付き、唇を噛みます。
どうすればこの罪を埋め合わせることができるでしょう?
ビーストと一緒に、ずっとこの暗いお城にいてあげること?
姫として、彼の頼みを聞いてあげること?
(……違う)
ツグミは大きく息を吐き出しました。
(確かに私は悪いことをしたけど……。ここにいたって、何の解決にもならない)
ツグミはビーストに気付かれないように辺りを見回しました。
ビーストの言うとおり、最強のナイトであるサー・テディはもういません。ツグミは頭をフル回転させます。考えていたのは、自力でここから脱出する方法でした。