真っ暗なお城の中で(1/3)
「テディ!」
ツグミはテディを抱き起こします。けれど、テディはピクリとも動きません。その目からは光が消えていました。
「ど、どうしよう……! 早く直さないと!」
「あはははは! 無駄無駄! 無駄ですよ、姫!」
慌てふためくツグミに対し、ビーストは上機嫌になっています。真っ黒なモヤを弾ませながら、辺りを飛び回っていました。
「サー・テディはもう動かない! やった! やった! 邪魔者が消えた!」
「そんなことない! どんな怪我をしたって、私が直してあげるんだから!」
ツグミは気丈に言い返しましたが、ビーストは「できませんよ」と笑います。
「心臓は一つしかない! 壊れたらそれでおしまい! さようなら、サー・テディ! あはははは!」
「何を言って……」
ツグミは混乱しましたが、ふとテディの言葉を思い出します。
――この綿と糸でできた体にも、心臓が宿るでしょう。
勲章について話していた時のことです。ツグミはテディの胸元を見ました。
彼の勲章は真っ二つに割れていました。背中から突き刺さった触手が、テディの左胸を貫いていたのです。
「そ、そんな……」
テディが「心臓」と表現するくらいだから、勲章はきっととても大切なものだったはずです。
ツグミはビーストが言った、「壊れたらそれでおしまい」という言葉が嘘ではないのだと理解しました。
「憎いナイトはいなくなった! これで……これで姫はワタシのものだ!」
辺りが暗闇に包まれます。その内に何も見えなくなり、ツグミはどこまで続いているのかも分からないような、真っ暗な空間に閉じ込められてしまいました。
ツグミはその様子を、動かないテディを抱きしめながらぼんやりと眺めます。
(どうしてこんなことに……)
ツグミはテディの頬を撫でます。
(助けて、テディ。あなたは私のナイトでしょう……?)
けれど、答えは返ってきませんでした。
「姫、まだそんなものに肩入れするのですか?」
不満そうな声を出しながらビーストが近寄ってきます。
「それはもうただの綿の塊なんですよ。姫のお役には立てないんです」
ビーストはツグミの腕の中からテディを引ったくりました。ツグミは「返して!」と声を荒げますが、ビーストは無視します。
ビーストの体が少しの間消えました。しばらくして戻ってきた彼が触手に絡め取っていたのは、ツグミの家のリビングに置いてあったゴミ箱です。
ビーストはまるでツグミに見せつけるように、そのゴミ箱の中にテディを乱暴に捨ててしまいました。
「テディ!」
ツグミは金切り声を上げます。ビーストは「落ち着いてください、姫」と優しく言いました。
「姫にはワタシがいるではありませんか。さあ、何なりとご命令を」
「じゃあ、テディを返してよ!」
ツグミはビーストを睨みました。
「それで、私をここから出して!」
「姫、ここはワタシの城です。ここにいれば姫は安全なのですよ。あのクマにはこんな芸当、できないでしょう? お分かりですよね。もう姫を守れるのはワタシだけだということを」
「……守る? 何言ってるの……?」
ビーストの言い分がまるで理解できず、ツグミはうなだれます。彼は自分と敵対していたはずなのに、一体何を考えているのでしょう。
知れば知るほど、ビーストはツグミにとって理解不能な存在となっていきます。
それでも、ただ戸惑ってばかりいるのはどうにも気に食わないので、ツグミはビーストに挑むような目を向けました。




