最後のナゾナゾ(1/1)
「さっきと変わってないね」
ビーストはいなくなったのだから、てっきり家の中は普段通りになっていると思ったのですが、そうではありませんでした。
相変わらず窓の外は真っ暗ですし、天井には黒い染みがついています。テレビや戸棚などの家具も変な形に曲がったままでした。
「しぶといやつめ……」
どうやら、まだ完全にビーストを倒せたわけではないようです。テディは忌々しそうに呟きました。
そこに声がします。
「アハ! 強かったねぇ、テディ卿」
「お祝いに、ナゾナゾを贈ってあげる~」
「……またか?」
テディは手下たちを睨みました。彼らは「これが最後だよ~」と言います。
「これと」
「これ!」
手下たちがどこからともなく取り出してきたのは、ツグミのママが買い物の時に使っているエコバッグと、パパが持っている双眼鏡でした。
「じゃあ、頑張ってね~」
手下たちは消えていきます。ツグミは「ええっ!?」と声を上げてしまいました。
「これもビーストの正体に関係しているのでしょうか。とは言え……今までで一番よく分からないナゾナゾですね」
テディの言うとおりです。エコバッグと双眼鏡を使って、一体何をしろというのでしょうか。
「特に変わったところはないようですが……」
エコバッグの中を調べたり、双眼鏡を覗き込んだりしながらテディがぼやきます。
ツグミは今までのナゾナゾを書いたメモを見返しました。
「一問目の答えは『牛』。二問目は『馬』。……どっちも動物だね」
「では、この答えも動物なのでしょうか。エコバッグと双眼鏡が?」
テディは二つの品を色々な角度から見つめます。
「エコバッグ……カバン……袋……」
「袋のある生き物? ……カンガルーとか?」
「では、この双眼鏡はどうなるのでしょう?」
「うーん……。これにも別の言い方があるのかも。エコバッグが『カバン』とか『袋』になるのと同じようにさ」
「双眼鏡の別の言い方ですか。『オペラグラス』とか、『遠眼鏡』とかでしょうか」
「難しい言葉だね」
ツグミはメモ帳に「オペラグラス」「とおめがね」と書き足しました。それを見たテディが横に小さな字で書き添えます。
「姫、『とおめがね』というのは『遠眼鏡』という漢字を……いや……」
テディは軽く首を振ります。
「とおめがね……とおめが……ね……。……『ね』?」
ブツブツと呟きながら、テディはメモ帳に動物の名前を書き始めました。ネズミ、牛、トラ、ウサギ、竜……。
どこかで見た並びです。もしかして、とツグミは思いました。
「これ、干支?」
「はい」
最後の「イノシシ」まで書き終わったテディが頷きました。
「姫、『とおめがね』です。『とおめ』つまり、『十番目』です」
「確かに、十のこと、『とお』って言うもんね。……じゃあ、『とおめがね』は十番目が『ね』ってこと?」
確か、干支の中ではネズミが「ね」と呼ばれていたはずだとツグミは思い出しました。でも、それではつじつまが合いません。
「テディ、ネズミは一番目だよ。十番目はええと……『鳥』でしょ?」
「それは、『ネズミ』を最初に数えた時の話です。『ネズミ』が十番目になるためには、どの動物から数えればいいと思いますか?」
「う、うーん……」
ツグミはテディが書いた動物の名前を見ながら必死で数を数えます。しばらくして、答えを導き出しました。
「ウサギ! 『とおめがね』の答えはウサギだ!」
「正解です。では、初めから考えてみましょう。エコバッグが示しているものと、双眼鏡が現わしているもの。これらを合わせると……」
「あっ……」
ツグミは強い衝撃を受けます。
それは、ナゾナゾの答えが分かったためではありませんでした。三つの問題。その正解となった三匹の動物について、ツグミには心当たりがあったのです。
(それじゃあ、ビーストの正体って……)
ツグミは口元を押さえて黙り込みます。その時、テディの後ろの空間が揺れ、そこからビーストが出現しました。
ナゾナゾを解くのに夢中になっていたテディと、嫌な予感のせいで上の空になっていたツグミは、すぐには異変に気付けません。
「油断したな!」
ビーストが叫んだ頃には、何もかも手遅れになっていました。黒い触手が背中からテディに突き刺さり、胴体を貫通します。
ビーストが触手を引っこ抜くとテディは床に崩れ落ち、そのまま動かなくなりました。