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74話 死闘

 世界で最も広大な島は、中央大陸北東部に位置している。その島内にある平原で、3人は話し合っていた。


 ティリアは、すぐ傍にある寝台で眠っている。強固な結界に囲まれた寝台を守るのは、魔法で召喚した10体のゴーレムだ。


「私とアリサは島外へと赴き、魔物共から民を守らねばらん」

「はい」

「転送魔法の行使やら民の避難誘導やらで、其方らに気を回す余裕はないからな」


 ライルは神妙に頷いた。瘴気を得た魔物に対して、ライルが世界規模で攻撃魔法を放つ。すると魔物の憎悪はライルと縁の深いティリアへ向けられ、この島におびき寄せられるという作戦だ。


 時間的に到着しそうにない魔物は、魔女達の転送魔法でこの島に送り込まれる手筈となっていた。


「不眠不休の戦いが続くからな。油断は元より、剣と魔法の使い分けを見誤るなよ?」

「はい」


 おそらくは死闘になるであろうライルに向けて、シーダ姫は他にも注意点を挙げていった。


「ライル君」


 アリサはライルの肩に手を乗せてから探索魔法を使う。凶悪化した魔物達の位置情報が、ライルの頭の中に流れ込んできた。


「ありがとうございますアリサさん」


 深呼吸をして前方を見据えると、古代上位魔法の詠唱を始める。


隕石(メテオ)

「えっ!?」


 瞬間――世界中の魔物に向かって無数の小さな石が降り注ぐ。

 本来は1つの巨石を降らせる禁忌の魔法だが、ライルは魔導構成式を組み直して、膨大な数の小石を降らせる魔法に替えてしまった。


「古代上位魔法を……独自アレンジねぇ。しかも全弾命中? 私、魔女やってく自信無くしそう」


 アリサは世界の状況を確認すると、小声でボヤいた。


「ほら行くぞアリサ。シャキッとしろ」

「はぁーい」


「じゃあなライル。健闘を祈る」

「頑張ってねライル君」

「シーダ姫殿下。アリサさん。よろしくお願いします」


 二人が目の前から消えると、ライルは眠っているティリアへと目を向ける。


「……ティリア様」


 それからライルは静かな時を過ごした。


 △


 2日後。


「来たか」


 島の端に到着した漆黒の存在。先陣となる魔物達は、狂気を孕んだうねりとなって迫り来る。


(聞いていた通りだな)


 瘴気を得た魔物は海を渡る事すら可能となっていた。


「溺死でもしてくれれば楽だったんだが」


 ライルはこの2日の間、長期戦を見越して様々な魔法トラップを仕掛けていた。ティリアから供給される魔力は膨大だが、長期戦ともなれば魔力不足に陥る可能性もあるからだ。


「やるか」


 ライルは魔物達を見据え、


「――!」


 魔法トラップの解除キーとなる言葉を発した。すると魔物達がひしめいている地面が光り輝き、


炎聖大爆法(フレアストラーゼ)


 魔力解放の言葉と共に、設置式の魔法トラップが起動する。

 数千にも及ぶ炎球が地面から現れ、魔物の群れへと向かって殺到した。


 瞬間――数千の魔物が一瞬にして業火に呑み込まれる。

 灼熱の突風が魔物達を呑み込み、断末魔と共に戦いは開始された。


「《身体能力強化(フィジカルブースト)》《印詠省略(ロジックカット)》《威力増幅(ダメージブースト)》 《聖属性付与(ホーリーエンチャント)》」


 ライルは加速しながら魔物の群れへと突っ込み、


「はぁっ!」


 眼前に迫る魔物へと剣を振るった。

 聖属性が付与された剣は容易く対象を切り裂き、勢い余った衝撃波が次々に他の魔物を葬っていく。


「はぁっ!」


 上空への斬撃で魔鳥人の集団を纏めて死滅させ、


風刃(ウインドカッター)


 風刃の魔法が魔物を斬り飛ばす。辛くも難を免れたウェアウルフ3体がティリアへと向かうが、


氷槍(アイスランス)


 ウェアウルフ達へと氷の槍が突き刺さる。氷槍を躱そうともゴーレムや強力な結界もある為、ティリアの守りは完璧に近い。


『ガァアアアアアア!』


 魔物達は怯むことなく、次から次へと襲い来る。巨馬も悪魔もトロルも鬼も、あらゆる魔物がティリアを目指して止まらない。


 斬ッ!斬ッ!斬ッ!斬ッ!斬ッ!


 煌めく剣閃が敵を屠っていった。


「お前等の相手は俺だ!」


 ライルは一喝して前へ出る。灼熱を纏った剣技が敵中で暴れ狂い、放った風の刃が首を斬り飛ばし、氷塊が敵の胴体を圧し潰した。


「ティリア様に近付けると思うな!」


 気を吐いて数十、数百、数千もの敵を葬っていく。剣技と魔法を組み合わせて戦う姿は、勇者と呼ぶに相応しい奮戦ぶりだった。


「はぁあああああああああああ!」


 ライルは敵を狩り続け、剣技の一閃・魔法の一声だけで何十何百と纏めて消滅させていく。


 ティリアを害そうと進む魔物達は、ライルに対しては注意力散漫だ。だからこそ比較的楽な戦いが続いていたと言っていい。しかし、


「なっ!?」


 数時間後、バラバラだった魔物達の動きが突如変わった。ライルが剣を振り上げた瞬間を見計らって、一斉に反転してきたのだ。


「くっ!」


 足元に風の魔法を放って上方へ跳ぶ。そのまま宙返って地面を見据えた。


雷撃(サンダーボルト)


 高範囲魔法を放って敵を纏めて痺れさせ、


 斬ッ!


 着地と同時に風魔法を纏わせた剣で横一閃。周囲の魔物が成す術もなく消滅した。


(好都合だ)


 ライルは笑った。むしろ望むところだからだ。

 洗練された動きで刺突を喰らわせ、剣で巻き込みつつ回転の勢いで周囲の魔物を斬り伏せる。


「俺を殺してみろ!」


 ライルは挑発するように剣を振るうと、疾走して乱れ突きを放つ。


氷柱アイシクル


 横から襲ってきたフレイムイーターの群れは、魔法で纏めて屠った。


(後ろ!)


 振り向きざまに身体強化された回し蹴りを叩き込み、


「はぁっ!」


 新たな集団には斬撃の嵐を見舞う。凄まじいスピードで敵が消滅していくが、それを上回る新たな敵が、後から後から押し寄せてくる。


(増える一方か)


 手が足りなくなってきていた。


(俺一人では無理か)


「光騎士召喚!」


 光の粒子を集めて騎士を造る魔法だ。騎士はライルの思念で操作する必要がある為、精神的負担が大きく増す事になる。


 轟ッ!


 光騎士が大剣を振るうと、数多くの魔物が消えていく。ライルは光騎士を操りながらも自ら剣を振るい、様々な魔法を唱えて戦場を掌握していった。


 鋭く力強い剣撃と攻撃魔法を適宜使い分け、10mほど後方にいるティリアには絶対に敵を近付けさせない。


(ティリア様。必ず貴女を守ります)


「はぁああああああああああ!」


 魔法で吹き飛ばし、鋭い剣技で斬り捨てる。

 邪妖精の羽を焼き、虎の化物の頭を難なく切り落とした。


 そして死力を尽くしてありとあらゆる魔物を屠り、3日戦い続けた頃に戦況に変化が訪れる。

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