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59話 初心者講習会

 数日後の朝。


「ティリア様。行って参ります」

「行ってらっしゃい」


「ライル。あんまり張り切るんじゃないよ。アンタは初心者であって初心者じゃないんだからね?」

「はい」


 神妙な顔でヴェイナーに返事をすると、ライルは冒険者ギルドを出発した。今日は街の外で、駆け出し冒険者の為の初心者講習会が行われるからだ。


 冒険者になって1年未満の人間は、定期的に開催される初心者講習会に参加する義務があった。


 天気は快晴。見晴らしも良く、実地訓練を行うには絶好の講習日和と言える。軽い革鎧を装備した戦士や、細いロッドを持った魔法使いなど。冒険者に成り立てといった風情の数十人が、街を囲む城壁へと集まった。


 顔ぶれは若い冒険者が大半となっている。彼等彼女等は、まるで遊びにでも行くかのような感じだ。私語をしながら、浮ついた雰囲気で講習会に臨んでいる。


『お集りの皆さん。こちらにご注目ください』


 ざわついていた者達は、声の主を一斉に見た。


『只今より初心者講習会を開催いたします。まずは――』


 冒険者総括協会の男性職員が、拡声魔法を使って注意事項を告げていく。冒険者としての心構えに始まり、危険な予兆や避けるべきポイントについても、熱弁を振るいつつ語られていった。


『それでは只今より、実戦に移りたいと思います』


 これから始まるのは、街の周囲にいる小型の雑魚魔物狩りだ。雑魚魔物が増えると、それらをエサとする強い魔物も増えてしまう。なので、積極的な雑魚魔物狩りが常に求められている状況だ。


 しかし雑魚魔物は討伐しても大した報酬にはならない為、好んで狩る者などほとんどいない。


 それならいっその事、駆け出し冒険者の訓練にでも利用してしまえというのが、このイベントが始まった経緯だ。


 様々な好結果がもたらされるようになった為、今では世界各国で初心者講習会が実施されている。


『慌てないで魔物に対処してくださいね。それでは、いきますよ――』


 男性職員が呪文を唱えて魔物寄せの魔法を使うと、弱い魔物が周囲に集まり始めた。


「おい!? 竜族がいるぞ!?」

「うあぁあああああああ」


(竜族? 大き目のサンショウウオですが?)


 一抱え程の大きさのブラックサラマンドを、ライルはズバッと斬り付けた。


「巨大スライムだ!? 溶かされるぞ!?」

「きゃああああああ」


(今度はスライムか。平和だな)


 ライルは剣を横薙ぎにして、小型犬程度の大きさしかないスライムを討伐する。今は《身体能力強化(フィジカルブースト)》の魔法は使っていない。


 実力者であるライルが魔物を倒し過ぎるのは、冒険者を育てる為というイベントの趣旨に反するからだ。


 大騒ぎしながら対処する者もいるが、それでも1時間が経つ頃には慣れてきて、誰もが黙々と魔物を討伐するようになっていた。


「へっ。お前、全然大した事ねーじゃん。噂なんてあてにならねーなぁ」


 ライルに悪態を吐くのは、髪を逆立てた同年代の男だ。男はライルと同数程の魔物を討伐しており、駆け出しの冒険者にしては上々の実力を持っているようだった。


「お前より俺の方が絶対に強いだろ。なぁ?」

「……」


 ライルは男に構わずに、黙々と魔物の討伐を続けていく。


「おい! 聞いてんのかよ!」

「聞こえてる」


 答えつつも、ライルは剣を振る腕を止めない。ライルの目線も魔物にしか向いていないので、男の機嫌は見る見るうちに悪くなっていく。


「無視すんのか? 上等だよ!」


 いきり立った男は、魔物の討伐ペースを上げていった。


 ~1時間後~


「まだ終わらないのか?」

「なんか、いつもより多くないか?」


 むしろ魔物の数は、討伐開始時よりも明らかに増えていた。


 ~更に1時間後~


 ライル以外の冒険者は、全員が体力の限界に達していた。立っている者は誰もおらず、ライルだけが黙々と魔物を狩り続けている。


 それはライルに難癖をつけてきた男も同様だった。座って木に寄り掛かりながら、荒い息を吐いている。男は悔しそうな顔で、ライルの剣技に見入っていた。


 《身体能力強化(フィジカルブースト)》の魔法を使っていないライルの剣技には、特筆するような鋭さはない。ソードスキルも使えない為、目を見張るような威力もない。


 だがライルには正確無比でブレない剣筋と、バテる事のない強靭なスタミナがあった。それらは極限まで修練を積んで得たもので、おいそれと手に入るものではない。


「くそっ!」


 格の違いを見せつけられ、男は木の幹に拳を打ち付けた。

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[一言] 鍛錬は裏切らない。
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