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55話 王都からの帰還

「ただいま戻りました!」


 ライルは、意気揚々と冒険者ギルドの扉を開けた。


「お帰りなさいライル」


 作業の手を止めて、ティリアが満面の笑顔で出迎える。


「ティリア様!?」


 目を見開いたライルは前のめりに倒れた。意識が暗転して気を失ったからだ。


「きゃぁあああああライル!?」

「なんだ!?」

「どうした!?」


 冒険者達が殺到する。ゼンじいも2階から駆け降りてきて、魔法で診断を試みた。


「ふむ。健康体じゃな」

「ですがゼン様。ライルは急に昏倒したのですが……」


 ティリアは狼狽えながらライルを抱き抱える。だがゼンじいは至って冷静だ。


「全く問題ないから心配するな。それより、ここで一体何があった?」

「分かりません。声を掛けた直後に、ライルが倒れてしまって」


 ティリアは不安そうにライルを見つめる。


「ふむ。ちなみに、お前は笑顔で声を掛けたのか?」

「はい」


 貴族だった頃とは違い、ティリアは自然体で接するように心掛けている。


「なるほどな。時にティリア。そのスカートはどうした?」

「スカートですか? これは私の服の持ち合わせが少ないのを見かねて、ルーシーさんがくださったのです」


 ティリアは薄手のトップスにミニスカートといった装いだ。


「公爵家にいた頃から、そのような恰好をしておったのか?」

「いいえ。その……昨日からになります」


 恥ずかしそうにミニスカートの裾を握り、ティリアは頬を染めている。数日前までは、足首まであるスカートにロングブーツを履いて、素足を見せないようにしていたからだ。


「その髪はどうした?」


 ティリアは生涯初のポニーテールとなっている。


「働く時は、髪をくくるのが一般的だとルーシーさんが仰いましたので、このようにしていただいたのですが。おかしいでしょうか?」

「いいや。間違ってはおらんな」


 ティリアは髪型や服装についても、なるべく市井に合わせようとしていた。


「なんというか、刺激が強過ぎたのだろうなぁ」


 煽情的なミニスカートを履いたティリアが、見慣れない髪型となって笑顔で出迎えた。ライルの理性を破壊するには十分だ。


「まあ何度か倒れれば、その内慣れるだろうて」


 ギルドメンバー達は「やれやれ。人騒がせな」と言って、ライルを奥のベッドに運んでから解散する。だがティリアだけは、ライルの昏倒理由が分からないままだった。


 △


「ライル。起きたのね」

「ティリア様?」


 身を起こしたライルの傍にはティリアがいた。それを見たライルは、一瞬息が止まりそうになる。


(数日しか経っていないというのに、ティリア様の美しさは留まる事を知らないな)


 そんな事を考えながら、ライルは居住まいを正す。


「ティリア様。無事に帰ってまいりました」

「ええ。お帰りなさい」


 しばらく見つめ合っていると、ティリアはフイッと顔を逸らした。


「どうかされましたか?」

「ライル。私、変じゃない?」

「と、言いますと?」

「この服装や髪型だけどね。本当は少し恥ずかしいの」


(お綺麗です)


 と口を滑らせかけて、ライルは咄嗟に別の言葉を口に出す。


「非常にお似合いです」

「そう?」

「はい」

「街の娘さんみたいに見える?」


(まったく見えません)


「街で見掛けるお嬢さん方と同じ格好ですから、ティリア様の装いに違和感はありません」

「ルーシーさんに教えてもらったのよ」

「そうですか」


 街娘と同じ装いだと言っただけで、街娘に見えるとは言っていない。上手く誤魔化せた事に、ライルは内心で喜んだ。


「ここ数日、何か困った事はありませんでしたか?」

「何もないわ。ヴェイナーさんも他の方達も、とても良くしてくれたのよ」

「それは安心しました。後で俺からも、皆さんに礼を言っておきます」


 ティリアは「よろしくね」と言って微笑む。


「ライルは怪我をしたりしなかった?」

「無傷で終わらせました」

「そう。良かった」


 立ち上がったティリアは、軽く背伸びをした。スラリと伸びた細い足が、ライルの理性を刺激する。


(目のやり場に困る。これは釘を刺しておかないとな)


「ティリア様。今のティリア様には、数多の男を惹き付ける魔性の魅力が備わっております。ですので、そのお姿で街に出てはなりませんよ?」

「どうして? ルーシーさんは『これが普通の恰好』と言っていたわ」


(やはりティリア様は、ご自身の事を理解しておられないか)


「ルーシーさん。ティリア様に服装のアドバイスをするのであれば、市井の危険についても併せて教えてあげてください」


 ライルが呼び掛けると、部屋の外でガタガタと音がした。


(3人か。ここには好奇心旺盛な方が多いようだ)


 ライルは立ち上がり、部屋のドアにゆっくりと近付いた。そしてドアノブを掴んで一気に扉を開く。


「きゃあっ!?」

「ちょっ、押さないでよ馬鹿!」

『きゃぁあああああ』


 ギルドメンバー達がドドッと部屋に雪崩れ込んで来た。団子状態になって倒れた女性達を見ながら、ライルは溜息を吐く。


「立ち聞きとは、あまり感心出来ませんね」

「あはは。ティリアちゃんが心配だったからさぁ」

「そうそう」


「聞き耳を立てるような事は、今度からは止めてくださいよ?」

『はーい』


 ギルドメンバー達は「ごめんねぇ」と言いながらそそくさと退散した。


(あれは絶対にまたやる顔だ)


 悪戯が見つかったくらいにしか思ってなさそうだった。だがライルは、それでもいいと思っている。


 ティリアが王太子妃教育に忙殺されていた頃や、貴族令嬢同士の足の引っ張り合いに巻き込まれていた頃とは違う。


 ティリアにも気が許せる仲間が出来たという事だからだ。

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