46話 チョロいティリア
「瘴気の始末を俺がやるんですか? アリサさんと一緒に?」
「それがさぁ、業界の規制が厳しくてね。魔女が必要以上に手を貸すと、上がギャアギャア言ってくるんだよね。こうやって君にちょっかい掛けるのも、グレーゾーンって感じだし。だからライル君の力だけで、この件を何とかしてほしいの」
どうしたものかと思って、ライルはティリアを見る。
「ティリアちゃん。貴女もそう思うよね? 私って可哀そうだよね? 助けてあげたくなるよね?」
「は、はい。そうですね」
「でしょう? じゃあ、そういう訳だから。お願いねライル君」
(ティリア様……)
ちょっと迫られただけでアッサリ陥落したティリアに、ライルは不安を覚えてしまう。ちなみに言いくるめに成功したアリサは、勝ち誇った顔だ。
「私が言うのも何だけど、ティリアちゃんってチョロいよね。高価な壺とか簡単に買わされそう」
「えっ!?」
ティリアはショックを受けている。
(自覚がなかったんですねティリア様)
気を張って王太子妃教育を受けていた頃とは違い、今のティリアはチョロ過ぎるきらいがあった。
「でもライル君にしてみれば、身内が起こした不始末でもあるしね。納得いかないだろうけど、そこは割り切って頑張ってね」
「身内の不始末ですか?」
「そうそう。君のお父さんのせいで、世界はとんでもない事態になっちゃってるんだし。グローツ子爵家の加護が完全に消されるくらいには、お偉いさんは怒り心頭だよ?」
「グローツ子爵家の加護?」
ライルが初めて聞いた言葉だった。
「グローツ子爵家の人間って、君以外は凄く強かったでしょ?」
「はい。特に父上と兄上は、恐ろしく強い騎士でした」
「でもそれって本人の地力じゃないの。加護の力でかさ増しされてただけ」
「まさか……」
しかしライルには思う所があった。ワイバーンカーニバルで戦ったビルダーが「お前の兄の強さは胡散臭い」と言っていたからだ。
「加護の力を失った君のお兄さんだけど、新米騎士っぽい子に一発でのされてたよ」
「兄上が負けたんですか!?」
思わず声を荒げてしまった。兄のザイル・グローツは現役最強で、国内では敵なしだったからだ。
「加護の力は、それだけ大きかったって事。どうしても信じられないなら、調べてみてもいいんじゃない? グローツ子爵家ってロクな家じゃないみたいだから、結構悲惨な事になってるかもしれないけど」
傲慢な父、若い男と遊び歩く母、他人を見下す長男、女性問題を度々起こす不真面目な3男、使用人達をイビる4男。
他家に婿入りしている叔父達についても、良い噂は全くと言っていい程聞かない。むしろ良くない噂は、いくらでもあったが。
(確かにロクな家じゃない)
それでも無理が通っていたのは、グローツ子爵家縁の者達が強者だったからだ。その力が失われたとなれば、家を維持出来なくなるのは自明の理だった。
(使用人の皆は大丈夫だろうか?)
家族はしたたかな人間ばかりだ。どうにか生きていくだろう。ライルが気にしているのは、グローツ子爵家で働く使用人達の行く末だった。
「アリサさん。グローツ子爵家は存続出来そうでしたか?」
「んー。私見を言わせてもらうけど、それは厳しいんじゃない? 私が調べた限りだと、控えめに言ってもサイテーな人間の集まりだったみたいだし」
ライルは溜息を吐いて、沈痛な面持ちになった。
「どうしたの? 何か気になる事でもある?」
「使用人の皆が心配で」
「性格までイケメン!?」
「使用人の皆は、血の繋がりはありませんが俺の家族なんです」
アリサはライルの肩をガッシと掴む。
「魔物討伐で稼げばいいじゃん!」
「お金ですか? 金品なんて送っても突き返されますよ」
ライルは使用人達との付き合いが長い。金品を受け取らないであろう事は、手に取るように分かる。
アリサは「だったら」と言って、ライルに告げる。
「倒した魔物のレア素材を売りまくって豪邸建てて、使用人を皆呼んじゃえばいいじゃない。ね?」
「そんなに上手くいきますか?」
「上手くいくって。魔女の私が付いてるんだから、ドーンと構えておきなさい」
ライルは途端に不安になってきた。するとアリサは「あら?」と言って、目を細めてティリアを注視する。
「ティリアちゃんの魔力って、よく見ると面白い事になってるのね」
「私ですか?」
ティリアは不思議そうな顔をしている。
「アリサ様。私は魔力を全て喪失しておりますが?」
「そうみたいね。蘇生魔法使ったんでしょ?」
「そのような事まで分かるのですか?」
「分かるよ。だって蘇生魔法使える人って、すっごく綺麗な魔力の器してるもん」
ライルにとっても興味深い話だった。
「ティリアちゃんの器は、蘇生魔法を使った衝撃で穴が開いてる感じね。魔力が抜けて全く溜まらないから、魔力喪失状態になってるの」
ティリアは真剣な顔で聞き入っている。
「でも、その穴から漏れた魔力が、何故かライル君に送られているみたい」
「「そうなんですか?」」
二人の声が重なった。
「貴方達ってシンクロしてるの?」
「「違います」」
「ふふふっ。面白いわね。魔力が他人にバイパス供給されてる事例なんて初めて。魔導研究者としての腕が鳴るってね」
どことなく危ない雰囲気を醸し出すアリサだった。
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