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43話 真夜中の逃亡者

 深夜、ライルは飛び起きた。


 家に張っていた結界に接触した輩がいたからだ。「結界に触れた者は感知魔法のターゲットになる」そういったトラップを、ライルは仕掛けていた。


 そして結界に触れたであろう人物が、もの凄い速さで家から遠ざかっていくのがライルには分かる。


「ティリア様っ!?」


 ティリアの部屋へと向かい、ドンドンと扉を叩く。


「無事ですかティリア様! 敵襲です! 起きてください!」

「敵襲っ!?」


 ティリアも急いで起きたようで、ドアを開けて出てきた時は、白銀の髪が乱れていた。


「俺は今から敵を追いますので、ティリア様は家から絶対に出ないでください」

「駄目よ! そんなのライルが危険じゃない!」


 ティリアは追わないように懇願するが、だからと言って敵を放置しておくわけにもいかない。見逃せば、ティリアが怯えながら暮らす羽目になるからだ。


「深追いはしませんから大丈夫です」

「ライル!」

「この家にいれば安全です。ティリア様は、くれぐれもご自愛ください」


 ライルは家に張ってる結界魔法とティリアに掛けている防御魔法を更に強化し、すぐに出て行こうとする。


「朝までには戻ります」

「待って! ライル待って! ねえっ!」


 後ろ髪を引かれる思いで、ライルは家を飛び出した。


(向こうだな)


 結界に触れた者には、追跡魔法で追えるマーキングが掛かるようにしている。ライルが張った結界に仕掛けた魔導トラップだ。


(絶対に捕らえる!)


「《身体能力強化(フィジカルブースト)》」


 ライルは全速で夜の街を駆ける。川を飛び越え3つの路地を抜け、恐るべき速度で街の外へと向かって逃げる敵を追う。


(時間は、そう長くはもたない。それまでに追いつけるか?)


 体力は持つだろうが、問題は追跡魔法の有効時間だ。仮に30分もこのまま付かず離れずの状況が続けば、追跡魔法の効果が切れてまんまと逃げられてしまうだろう。

 ゆえにライルは、強引な手段を使う事に決めた。


(ティリア様を守る為だ)


 辛い思いをしてきたティリアが、やっと手に入れた平穏な生活。それを脅かす存在など、ライルは是が非でも許せない。


(見えた!)


 数百メートル先に黒い点何かがある。あれが敵襲を仕掛けて来た犯人だ。


(多少の負傷は覚悟しろよ)


 ライルは走りながら印を切り、《射程延長(ロングスナイプ)》の魔法を唱える。更に追加で魔法を唱え、


「《氷槍(アイスジャベリン)》」


 虚空に現れた氷の槍を掴み、全力で投擲した。逃亡者の足を目掛けてグングン迫る完璧な一撃。しかし、


(消えただとっ!?)


 氷の槍は、相手に当たる寸前で蒸発した。

 それが魔導具によるものなのか魔法によるものなのかは分からないが、効果が無効化されたのは確かだった。


「《風刃(ウィンドカッター)》」


 消滅。


「《火矢(ファイヤーアロー)》」


 こちらも消滅。相手に届く直前で、魔法はことごとく消えてしまう。


(逃げられる!?)


 焦りが思考を支配し始めたその時、頭の中が妙に冷めていくのを感じた。自身の行動を高みから俯瞰しているような、そんな妙な感覚だ。だからだろうか、ライルは冷静になる事が出来た。


(敵の姿を視界に捉えておきながら、むざむざ逃がすなど有り得ない。だったらどうする? そんなもの決まっている――)


「消せるものなら消してみろ!」


(際限なく魔法を叩き込めばいいだけだ!)


 物量勝負。それがライルの出した結論だった。

 

 10の魔法が消されるなら11の魔法を放てばいい。

 100の魔法が無効化されるなら、101の魔法を叩き込めばいい。

 圧倒的な物量こそが正義だ。


「《印詠省略(ロジックカット)》《魔法混合創成(クロスマジック)》《硬化(ハードニング)》」


 魔法の発動に呼応して、体内で魔力が膨れ上がる。


「逃がさない!」


 ライルは立ち止まり、遠ざかる影を見据えて魔法を放つ。


「《氷柱(アイシクル)》」


 逃亡者の行く手を阻む位置に氷柱が現れる。《硬化(ハーデニング)》を追加した為に、消されるまで多少時間が掛かるようだ。消されはするが、それで構わなかった。瞬時に消されないのであればライルの勝ちだからだ。


「《氷柱(アイシクル)》《氷柱(アイシクル)》《氷柱(アイシクル)》《氷柱(アイシクル)》《氷柱(アイシクル)》《氷柱(アイシクル)》《氷柱(アイシクル)》《氷柱(アイシクル)》《氷柱(アイシクル)》《氷柱(アイシクル)》……《氷柱(アイシクル)》」


 逃亡者は無数の氷柱に逃げ道を塞がれる。いくらかは消滅させたようだが、ライルの魔法は止まらない。やがて逃亡者は氷柱を消す事を諦め、堂々とした足取りでライルに近寄って来た。


「ハァーイ。ライル君。はじめまして」


 場にそぐわない軽い挨拶だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一体何者!? 確かに軽いな(笑)
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