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04話 無能力者となったライル



 数日が経過していた。


 ソードスキルを全て失った事で、婚約者であるミリーナ・フローレンスの護衛を務める件は白紙となっていた。


「ソードスキルどころか天啓までも消失するとはな! 所詮は無能者だったという事か! この役立たずが!」


 グローツ子爵は、執務室の机を乱暴に叩く。


《剣戟受け流し》の天啓を授かった者は、パリイの修得が容易になる。《薙ぎ払い》の天啓を授かった者は、目の覚めるような一閃(スラッシュ)の修得が容易になる。


 通常の騎士であれば1つの天啓を授かり、それに対応するソードスキルの修得を目指していくのが慣例だ。


 それゆえにライルが授かった《剣技超越者(ソードマスター)》の天啓は異常過ぎると言って良い。


 あらゆるソードスキルが修得可能な者など、世界広しと言えどライルしか存在しなかったからだ。


 しかし、それはもう過去の話だ。一切のソードスキルが使えなくなった現在のライルは、下級騎士相当の実力と見なされている。


「申し訳ありません父上」


 頭を下げるが、それでグローツ子爵の怒りが収まる事は無い。18歳という若さを考慮すれば、下級騎士としてなら及第点だ。だが騎士の名門であるグローツ子爵家の者としては、明らかに力不足だった。


「これを見ろ!」


 激高して2枚の書状を突き付ける。書状はフローレンス公爵家から今朝届いたものだ。1枚目には、ライルとミリーナの婚約を破棄するとの旨が記されていた。


 こうなる事を予期していたライルは、特に何も感じない。だが2枚目に目を通した時、驚愕に目を見開いた。


『ライル・グローツはティリア・フローレンスの護衛騎士として不適格である』


(ティリア様の護衛から……外される?)


 理解した時、ライルは全身から一気に力が抜けていくのを感じた。


「恥をかかせおって!」


 ライルは陰で「偽りの大陸覇者」と揶揄されるようになっていた。パンドラの箱が開いたにも関わらず、期待されていたような「希望の光」が世に顕現しなかったからだ。


『ライル・グローツは、箱を開けてはいけない者だったのでは?』


 国内では憶測と共に、そんな噂が広がっていた。口さがない者は「箱を開けるに相応しくない愚者が箱を開けてしまった。だから神罰でソードスキルを奪われたのだ」とまで吹聴している。


 ライルの評判を落とす極めつけは、今朝届いた書状だ。大陸覇者闘技会の優勝者が護衛任務を解任されるなど、前代未聞だった。


 ミリーナから婚約を破棄された件と併せて、グローツ子爵家の醜聞として瞬く間に広まるだろう。


「くそっ!」


 どれだけ家名に傷が付いても、それを挽回する手立てが無い。その現状が、グローツ子爵を苛立たせる。


「1週間だけ待ってやる。ソードスキルの1つでも使えるようになってみせろ」

「……はい」


「可能性を示さねば、グローツ子爵家にお前の籍は無いものと思え」

「分かりました」


 反論は無駄だと知っているライルは、項垂れながら執務室を出た。フラフラとした足取りで庭へと向かう。


「よう無能者」

「兄上?」


 ライルを呼び止めたのは、王国近衛騎士団の副団長を務める5歳年上の嫡男だ。強大な魔力だけでなく、卓越した剣の腕も併せ持っている。


「『最強であること』が我が子爵家の誇りだ。お前はそれを傷付けた。分かっているのか?」

「申し訳ありません」


 この国では貴族の造反を防ぐ為、魔力が強過ぎる者は高位貴族家を継げないようになっている。この制度があるが故に、グローツ子爵家は何代にも渡って陞爵(しょうしゃく)を拒んでいた。


 高位貴族となってしまえば、最も強き者が嫡男となるグローツ子爵家の伝統を変えなければならないからだ。


「お前は所詮、紛い物の騎士だ」


 ソードスキルを使うには魔力が必要となるが、ライルの魔力は少量だった。これではいくら剣技超越者(ソードマスター)の天啓があろうとも、本領を発揮する事は出来ない。ソードスキルの使用回数が限られてしまうからだ。


 しかし裏を返せば、短時間の瞬発力勝負であれば戦える。長時間の戦いは無理だとしても、膨大なソードスキルの中から瞬時に最適な選択をする事で、ライルは試合に勝ち続けてきた。


 だがそれは「魔力の少なさを誤魔化す為の姑息な手段」として、兄の目には映っていたようだが。


「天啓もソードスキルも失うとはな。紛い物の騎士だからこそ神罰を受けたのだ。俺が近衛騎士団団長になる頃には、お前は騎士資格の返上を迫られているだろうよ」


 グローツ子爵家の中で最も才能ある者は、王都の近衛騎士団に出仕して名を上げる。その後にグローツ子爵家を継ぐのが習わしだ。


 それ以外の者は、下級や中級の騎士となって護衛任務を経験してから、他家へと婿入りをする。


 だが中には騎士に向かない者もいる。それらはグローツ子爵家から容赦なく籍を抜かれ、成人すると同時に平民に落とされてきた。


「お前には平民が相応しい。覚悟しておくんだな」

「……はい」


 嫡男である兄は、傲慢な自信家だが腕は確かだ。近衛騎士団の副団長という職務上、大陸覇者闘技会には出られなかったが、「出場していれば優勝したのは俺だ」と言ってはばからない。


「兄上。それでは失礼します」


 ライルは庭で鍛錬を始めたが、何日経とうともソードスキルが使えるようにはならなかった。


 そしてライルが仕えるティリアが王太子から婚約を破棄されて、その後釜にライルの元婚約者ミリーナが据えられた事を知る。

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