37話 祖国の訪問者(3)(ざまぁ回)
「陛下。発言よろしいでしょうか?」
「よい。申せ」
ザイルはアリサへと向き直る。
「先程から黙って聞いておれば虚言の数々。魔女の言葉は聞くに堪えんな」
「本当の事しか言ってないけど?」
ザイルは明らかに喧嘩腰だ。
「貴方の父親がライル君を斬ったんだよね? ライル君は一度死んじゃったから、掃除失敗のペナルティを受けるはずよ。そうなったら本来の力を完全には取り戻せないだろうし」
「愚弟の弱さは元からだ」
しかしアリサは、ザイルの言葉に耳を貸さない。
「『ろ過』の途中で死んじゃったから、瘴気は世界中に散っちゃってるし。とんでもない事をしてくれたわね」
「まだ言うか!」
「全工程が終了しないと、箱の再使用も出来ないのよ。どうしてくれんの?」
「どうもこうもあるか! 魔女の虚言など聞く必要はない!」
アリサは「フーン」と言って、ザイルをじっくりと見る。
「どうした? 俺に惚れたか?」
「惚れるわけないでしょうが! 貴方って、ライル君のお兄さんでしょ? だったらもの凄く強かったんじゃない?」
「俺は、この国で近衛騎士団の副団長をやっているからな」
ザイルは誇らし気に答えるが、アリサの目は冷めていた。
「へぇ。まだ副団長の身分でいられるんだ?」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味だけど? 分からないなら教えてあげよっか?」
「言ってみろ」
「さっきからすっごい上から目線ね。超偉そうにさぁ。私、俺様男って大嫌い」
アリサは嫌悪の目を向ける。
「貴方さぁ。どうして自分が強かったのか考えた事ない?」
「誇りあるグローツ子爵家の男だからだ」
「その誇りあるグローツ子爵家は、どうしてそんなに強い男ばかりいたの?」
「血統と才能に決まってるだろ。俺の強さが国内最強なのが何よりの証だ」
「自信過剰にナル男属性とか、最悪のダブルコンボね。寒気がしてくるから、そういうの勘弁してよ」
「口の減らない魔女が!」
青筋を立てるザイルから目を逸らし、アリサは「寒い寒い」と言いながら自身の腕をさする。
「大体さぁ。貴方の隣にいる人って、貴方の上役じゃないの? そんな状況で『俺が最強だ!』なんて良く言えるわね。もっと目上の人を立てないと駄目でしょ」
「いらん世話だ」
「そうね。もうすぐ退団するもんね?」
「何だと?」
「貴方が大事にしてる血統、つまり貴方の祖先について、良かったら教えてあげましょうか?」
「ふん。言ってみろ」
アリサは中空に魔法陣を描き、腕を振り下ろした。
すると、空間一杯に様々な情報が表示される。
「これは?」
「貴方の家の家系図に、個人の魔力量とか主な職業なんかも併せて表示した物よ。気が済むまで見てみるといいわ」
鼻で笑っていたザイルは、やがて瞬きすら忘れて凝視する。
「どう? それが貴方が大事にしている血統よ」
「馬鹿な……」
「200年も遡れば、貴方の家系が高貴な血筋でもなければ特別な血統でもないのが分かるでしょ? グローツ子爵家の祖先は普通の小作人みたいだし。名門貴族と違って、貴方の家には古い家系図なんて置いてないんじゃないの?」
「馬鹿な! そんなはずはない!」
ザイルは叫ぶ。何度も何度もラインを辿ってみるが、自身に近い系譜には間違いがない。ゆえに、遠い祖先の系譜も間違っているとは思えなかった。
遠い祖先の系譜だけを書き換えるなど、この場においては無意味な事でしかないからだ。
「私のオリジナル魔法なんだけどね。この魔法は過去の情報を辿る事が出来るの。色々知れて便利でしょう?」
ザイルは何も答えない。突き付けられた衝撃が大き過ぎて、言葉を発せられないからだ。
それなりに力のある武人の家系は、血筋を辿れば名のある人物に行き着く。多少の例外はあるが、普通の小作人が武人として成り上がるのは至難の業だろう。
「グローツ子爵家の男達は強かったんでしょうね」
アリサは「強かった」と過去形で告げて、ザイルに厳しい目を向ける。
「貴方達グローツ子爵家の男が強者だったのは、血筋が良かったからでも才能があったからでもないわ。ライル君を守る為に加護が与えられていたからよ」
アリサは厳しい表情で話を続ける。
「ライル君は弱かったでしょう? その弱い彼を守れるように、彼が生まれてくるはずの家には、何代にも渡って絶大な加護が与えられていたのよ。それなのに貴方達は何をやったの? ライル君を『殺した』『廃籍した』ってさ」
ザイルは唇を噛んでアリサを睨む。
「睨みたいのは私の方よ。御門違いもいいところね」
アリサは何かを唱えて、魔法で木の枝を出現させる。右手を振ると、宙に浮いた木の枝は瞬時に加工されて2本の木剣となった。
「はい。どうぞ」
木剣は浮遊しながら、ザイルと若い近衛騎士の手元へ移動した。
「ライル君を守る為に絶大な加護が与えられていた。それがグローツ子爵家よ。そのライル君にした仕打ちを考えれば、貴方達に与えられていた加護がどうなるかなんて、言われなくても分かるよね?」
ザイルは狼狽えているが、隣にいる近衛騎士団長は冷静だった。急激に弱体化した最近のザイルについて、納得がいったからだ。
「貴方も薄々気付いてたんじゃない? 隣の上役さんも分かってるみたいだし。せっかくだから、そこの若い騎士さんと木剣で打ち合ってみなさい。加護を無くした貴方の、本当の実力がハッキリするはずだから」
「ザイル。やってみろ」
「陛下!?」
国王の言葉に逆らえるはずもなく、ザイルと若い近衛騎士は、木剣を構えて向かい合った。
「始めい!」
勝負は即刻終わった。一合すら剣を合わせず、ザイルの脇腹に木剣がメリ込んだからだ。若い近衛騎士は、ザイルの余りの弱さに目を丸くしている。
「分かったでしょ? これが嘘偽りのない貴方の実力よ」
アリサは容赦なく真実を告げた。




