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35話 祖国の訪問者(1)

 ここは祖国の王城内にある謁見の間だ。


「ハァーイ!」


 国内の重鎮が立ち並ぶ中、突如として侵入者が現れた。

 魅惑的な肢体をしている妙齢の女で、腰まである長い黒髪が特徴的だ。


「何奴だ!」


 近衛達が女を一斉に取り囲む。近衛騎士団長と副騎士団長は、国王の前を塞ぐように前へ出た。


「そんなに警戒しないでよ。私は敵じゃないってば」


 カラカラと笑って手を振った。


「怪しい女め! ひっ捕らえろ!」

「ワオ! いきなり実力行使? 別に構わないけどさ」


 女は慌てずに両手を広げて魔法を唱える。


「《魔力障壁(マジックウォール)》」


 透明の壁が女を取り囲んだ。 

 すると近衛達は触れる事はおろか、近付く事さえ出来なくなる。


「くっ! 魔法を撃て!」

「無駄よ」


 その言葉通りに、宮廷魔術師が放った魔法は障壁で弾かれた。


「敵じゃないって言ってるでしょ。話くらい聞きなさい」

「魔女は人を操ると言うではないか! 話など聞けるものか!」


「人を操るなんて根も葉もない噂なのになぁ」

「魔女の言葉など信じられるものか!」

「そりゃあ私は魔女だけどさぁ」


 女は近衛騎士団長との問答を続ける。


「よい。話を聞こう」

「陛下!?」

「お前達は下がれ」


「しかし」

「いいから下がれ。そこの魔女が余を害そうとするのであれば、とっくにやっておるわ」


 魔女への物理攻撃や魔法攻撃は、全て弾かれるだけだった。それはつまり、絶望的なまでに力の差があるという事だ。


「さて魔女殿。話を伺おうか」

「ええ。貴方が話の分かる人で良かったわ」


 魔女はウインクをする。


「不敬な!」


 いきり立つ近衛騎士を国王が手で制す。


「ふーん。不敬ねぇ。それを言うなら、私なんてそこにいる王様より偉いのよ?」

「陛下を侮辱するかっ!」


「だって私は、王様の遠い祖先の親分やってたんだもん。王様の父親の父親の父親の父親の……何十代前になるのかは知らないけどね。OK?」


 そんな事を言われても、信じられるはずもない。魔女は20歳前後の容姿だからだ。理解に苦しむ国王は、目を白黒させながら唸る。


「貴女は何者だ? 余に奇怪な事を告げるのは、魔女の戯れによるものか?」

「そうねぇ。『次元渡りの魔女』とか『時渡りの魔女』って聞いた事あるでしょ? それが私」


 国王は真横を向いて助言を求めたが、宰相は首を横に振った。


「知らんな。そのような魔女の話は、我が国に伝わっておらん。王族として様々な伝承を学んできた余でも知らぬ事だ」

「はぁあああああ?」


 ふんぞり返っていた魔女が、素っ頓狂な声を出した。


「この国の始祖ってゼレクよね?」

「如何にも。建国王ゼレクは余の祖先であり、尊敬すべき偉人だ」

「そんな大層な奴じゃないって。かなりいい加減な男だからね?」


 魔女は「それにしても」と言って、ハァと息を吐いた。


「子孫に何も伝えていないとはね。あのダメ男に期待したのが間違いだったわ。ゼレクは所詮ゼレクって事か」


 小さく首を振った。


「私はパンドラの箱の守護者アリサよ。パンドラの箱は知ってるでしょ? この国でずっと管理してるんだからさ」


 パンドラの箱の守護者という言葉に、国王の眉根が訝し気に動いた。だがそれ以上の感情は顔に出さず、努めて平静を装う。


「パンドラの箱は、我が国だけの物ではない」

「はぁあああああ? それってどういう事?」


「大陸各地の国で、5年毎に管理国を変えておるのでな」

「誰がそんなルールを決めたのよ!」


「建国王ゼレク様だ」

「はぁあああああ?」


 アリサは頭を抱える。


「あんのダメ男がぁぁ! 管理が面倒だから、5年毎の持ち回り制にしたのね。くだらない事ばっかり考えて、ほんっと信じらんない!」


 憤慨しながら爪を噛んだ。


「頭痛くなってきたわ。ねえ。ちょっと色々説明してくれない? 現状は一体どうなってるの?」

「それを聞きたいのは余の方だ」


「いいわ。私と貴方達には、かなりの齟齬があるみたいだし。情報の擦り合わせといきましょうか。パンドラの箱がどんな物か教えてあげるから、先に貴方達が知ってる情報を私に教えて」


 国王は考えながら、ゆっくりと口を開く。


「パンドラの箱は、異世界から次元を渡ってきた箱だ。そして箱の底には希望の光が眠っている。ここまでは相違ないか?」

「合ってるわ。そのまま続けて」


「大陸各地の国で5年毎に管理国を変更しておる。そして5年毎に開かれる大陸覇者闘技会の優勝者が、箱を開ける権利を得るのだ。この掟を定めたのは、我が祖先である建国王ゼレク様だ」


「間違った解釈でデタラメな事やってたのね。それで?」

「今年は箱を開ける者が現れた」

「でしょうね。預言でそうなってるんだから」


「箱を開けたのは、ライル・グローツという18歳の騎士だ。グローツ子爵家の男で、《剣技超越者(ソードマスター)》の天啓を授かっていた」


「本当に? だとしたらライル君って色々と凄いのね。それで、箱を開けた彼は今どこにいるの?」


「陛下。発言よろしいでしょうか?」

「よい。申せ」


 進み出たのはグローツ子爵家の嫡男、近衛騎士団副団長のザイル・グローツだ。


「愚弟のライルは、グローツ子爵家から廃籍された。どこにいるかなど知らん」

「はぁあああああ? 廃籍ってどうしてよ! 功労者には報いるものでしょ!」


「功労者だと? あの男は神罰で全ての力を失って、グローツ子爵家に泥を塗った愚か者だ。むしろ殺されても文句は言えん。現に父上は、愚弟を剣で斬り捨てたのだからな」


「まさか殺したのっ!?」

「殺したはずだが、死んで生き返った。ティリア様……いや、平民落ちした女の蘇生魔法でな」


 アリサは「信じられない」と言って、ザイルを凝視する。


「殺したのは間違いないの?」

「ああ。死人相手でなければ、蘇生魔法は発動しないからな」

「ふーん。ふざけた事してくれたわね」


 アリサの魔力が一気に膨れ上がった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 古の魔女様は大層お怒りです!
[気になる点] 魔女さんはライルさん達の味方かな?
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