31話 とんでもないポーションの素材
毒薬草に回復魔法を掛ける仕事は、ライルが何度やっても上手くいかなかった。
「もっと魔力を抑えられんのか? ふざけて適当にやってみんかい」
「そのつもりでやってますけど」
「邪念を増やして、余計な事を考えながら回復魔法を掛けるんじゃ」
「それは……難しいですね」
「真面目な奴じゃのう」
ゼンじいは「ふーむ。おお、そうじゃ!」と言ってポンと手を打った。
「『愛しいティリア』の事でも考えながら、てきとうに回復魔法を掛けてみい」
「ゼンさんっ!!!」
ライルは大声で叫ぶ。
(ティリア様には聞かれなかったか!?)
急いで周囲を確認するが、ティリアは少し離れた場所で帳簿付けに集中している。どうやら聞こえていないようだったので、ライルはホッとして息を吐いた。
「ティリアの姿も目に入らんくらいに集中しておったのか。ふざけて適当にやれと言ったじゃろうが」
「すみませんでした」
「分かればいい」
しかしゼンじいはニヤニヤしている。
「ゼンさん。もしかして、さっきは俺を揶揄ったんですか?」
ライルは氷の目線でゼンじいを見据える。
「わ、悪かった。持病の癪がエライ事になるんで、睨むのは止めてくれんか? ゴホッゴホッ」
ワザとらしく咳をしていると、席を外していたヴェイナーが腕輪を持ってやってきた。
「これ着けてみたら?」
それは魔力封じの腕輪だった。ビルダーとの戦いでライルが身に着けていた、外向きの魔力を封じる魔導具だ。
ライルは「やってみます」と言って腕輪を装着する。
「そんな物で上手くいけば、儲けものだがなぁ」
ゼンじいは半信半疑だった。魔力封じの腕輪を着けると、誰であろうと外向きの魔力が完全シャットアウトされるからだ。
「ではやってみます《回復》」
唱え終ると、毒薬草は眩いばかりの光を放ち始めた。
「おおっ! 白く輝いておる! なんと素晴らしい!」
ゼンじいは感嘆の声を上げた。ライルも身に覚えがある光に感動している。
(あの時の優しい魔力に似ている)
ティリアが蘇生魔法を使った時の魔力に酷似していた。
「まさかこんな現象が起こるとはなぁ。魔力封じの腕輪を通り抜けて『こされた魔力』は、滑らかで質が高いのかもしれん」
「それって珍しいの?」
「どの文献にも載っておらんからな。ライルの膨大な魔力は、腕輪の許容限界点をもオーバーフローして、いくらか漏れてしまうのじゃろうな」
ヴェイナーは「フィルターみたいなものか」と、納得して頷いた。
「これ程の品質なら、ポーションの素材どころかハイポーションの素材としても使えるじゃろうな」
「アルケミスト業界に革命が起きそうね」
ポーションの素材がハイポーションの素材に化けるのであれば、ハイポーション作成時の費用対効果が一気に跳ね上がる。錬金術のようなものだ。
「市場を席捲するじゃろうな」
「それじゃあ駄目ね。この話は無かった事にしましょうか」
静かに頷くゼンじいと、難しい顔をするヴェイナーだった。
「どうして駄目なんですか?」
ライルは率直な疑問を口にする。
「ハイポーションの素材相場が崩れるからさ。素材屋に恨まれるだけで済めばいいけど、アンタを脅してでも作らせようとする輩も出てくるかもね。その場合はティリアちゃんが攫われて、脅しの材料に使われる可能性もあるわ」
「それは……到底許容出来ませんね」
「でしょう?」
ポーション素材にヒールを掛ける仕事は失敗に終わり、しぶしぶゼンじいが引き継いだ。
「ライル。少し気分転換でもしてきたら? お嬢様も貸してあげるからさ」
「ひゃっ!?」
ティリアは奇怪な声を上げた。集中しながら帳簿付けをしていたところを、ヴェイナーが後ろから抱え上げたからだ。
「ティリアちゃん軽過ぎ。もっとしっかり食べないと駄目よ?」
「は、はい。気を付けます」
ヴェイナーはティリアの頭を撫でた後、ライルへと引き渡す。
「ゆっくり休憩してきなさい」
「はい。では行きましょうかティリア様」
「ええ」
ライルはギルドを出て、裏手の開けた空き地に向かった。
石の上に上着を敷いて、ティリアと共に並んで座る。
「ティリア様。ギルドはどうですか? 辛かったりしませんか?」
「とても楽しくて充実してるわ。覚えなければいけない事も沢山あって、毎日がとても新鮮なの」
冒険者ギルドは魔物を倒すだけではない。討伐依頼や護衛の依頼は言うに及ばず、決闘代理、影武者、素材採集などもある。
魔法使いや神官が所属していれば、攻撃魔法や回復魔法の行使依頼や、探査、真偽判定、魔法陣の作成、魔法研究の補助、魔法講師としての派遣依頼もある。
ヴェイナーやティリアなどの冒険者をサポートする人間は、料理、清掃、来客対応、仕入れや部材の調達、冒険者達からの要望の精査実行もある。
依頼書、注文書、請求書の取り纏めや、帳簿付けなどの金銭絡みの仕事もあれば、冒険者の予定を組んだり、依頼者との交渉をしたりといった事までこなさなければならない。
今までは補佐も置かずに、ヴェイナーが1人でやっていたが、そもそも作業量的に異常だった。
「そろそろ戻りましょうか」
「そうね」
2人が休憩を終えて立ち上がった時、目の前に訪問者が現れた。




