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27話 夜空の下で

ライルの過去編「神罰を受けた護衛騎士」の各話を、物語冒頭に変更予定です。よろしくお願いします。

 ライルはティリアの前まで歩いて来ると、地面に片膝を突いて頭を垂れる。

 この辺りは人がまばらになっており、二人には誰も注目していない。


「ティリア様。試合に勝利する事が出来ました」

「お疲れ様」


 ティリアが右手を伸ばすと、ライルは驚いた顔でティリアを見上げた。


「そ、そうね。ごめんなさい」


 護衛騎士だった頃のライルは、試合で勝利する度にティリアの手の甲にキスをしていたからだ。


「こういう事は、もうしなくて良かったのにね」

「ティリア様」

「何?」


 ライルはティリアの指先にそっと触れて、手の甲へキスを落とす。


「今日の勝利をティリア様に捧げます」

「う、嬉しく思います。これからも貴方の勝利を願いましょう」


 赤くなりながらライルの労をねぎらった。

 ライルはティリアの手を離し、ゆっくりと立ち上がる。


「でも私は勝利よりも、ライルが無事に帰って来てくれた事の方が嬉しいわ。怪我をするんじゃないかと思って心配していたのよ」


「ありがとうございます。俺には勿体ない御言葉です」

「大変な試合だったわね。ビルダー様は、とても強かったもの」


「はい。ですが、強者と戦って勝てたのは大きな自信に繋がりました。色々と今後の課題も見えた事ですし、これからはより一層力を入れて、精進していきたいと思います」


 ティリアは小さく息を吐いた。


「程々にしておかないと駄目よライル? 貴方が修練中に倒れたと侍女から聞かされる度に、私はいつも苦しい思いをしてきたんだから」

「……善処します」


 ライルは苦い顔をして答える。


「ライル。そろそろ帰りましょうか」

「はい」


 夕日は沈み、辺りはすっかり暗くなっている。ライルはティリアをエスコートしながら、夜道をゆっくりと進んで行った。

 街の中心部から外れるにつれ、少しずつ人通りも減っていく。


「足元にお気を付けください」

「ええ。ありがとう」


 ふとライルは、自身の腕に添えられたティリアの手が気になった。


(簡単に折れてしまいそうだ)


 白く美しい手だが、ほっそりしていて不安になる。


「ティリア様」

「ん?」


 アメジストの瞳に見つめられて、ライルはどうしようもなく息が詰まった。


「しょ、食事は十分に召し上がられましたか?」

「え? ええ。貴方と一緒に街の食事を楽しんだでしょう?」


 ティリアは不思議そうな顔をしている。


「俺は思うのですが、ティリア様の食事の量はかなり少ないのではありませんか?」

「そうかしら? しっかり食べていると思うけれど」


 今のティリアは血色も良い。それにギルドで睡眠を取ったからだろうか、体調も良さそうだ。しかしギルドマスターのヴェイナーも言っていた通り、ティリアが痩せ気味なのは間違いない。


「街の女性は、ティリア様よりもずっと多く食べるみたいですよ。ティリア様も街の娘として過ごされていくのであれば、これからは、もっと食事の量を増やさねばならないのではありませんか?」


 ティリアは人差し指を口に当てて考える。


「そうね。分かったわライル。明日からはもう少し頑張って、食事を多く摂るように心掛けてみるね」

「はい。それがよろしいかと」


 ライルは簡単に言いくるめてしまう。だからこそライルは、信じ過ぎるティリアに不安を感じてしまうわけだが。


「ティリア様」


 とりあえず話題を変える事にした。


「今日の謝肉祭はいかがでしたか?」

「楽しかったわ」

「そうですか。楽しめたのなら幸いです」


「ライルはどうだったの?」

「俺も楽しかったです。今こうして、ティリア様と話しているのも楽しいですし」


 そうやってティリアに笑い掛けると、ライルは何かを思い出したようにハッとする。


「見せたいものがあるんです」

「私に? 何かしら?」


 ライルは魔力封じの腕輪を外し、魔法の詠唱を始める。両手で素早く印を切ると、様々な魔法を上空に放っていった。


 炎・雷・水の魔法を様々な形状や色に変え、夜空一面に魔法の花を咲かせていく。


「わぁっ!」


 ティリアは子供のように目を輝かせて、感嘆の声を上げた。


「凄いわライル。何て綺麗な花火なの」

「お褒めに預り光栄です。ティリア様から頂いた力は、こんなにも素晴らしいと伝えたかったんです」

「ふふっ。そんな風に言われると照れてしまうわね」


 はにかむようにティリアは笑う。


「素敵ね。本当に綺麗だわ」

「素晴らしい思い出は、一生記憶に残ります」

「それなら今この時の思い出は、私の記憶にいつまでも残り続けるわ」


(俺も、今この時の想いを一生忘れません)


 ティリアは夜空の下でも輝くように美しい。そんな少女の姿を愛おし気に見つめながら、ライルは幸せな時間に酔いしれていた。


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