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26話 胡散臭いザイル・グローツ

 ビルダーはガクリと膝を突く。


『しょ、勝者ライル! ギルド《鷹の眼(ホークアイ)》のライル様が勝ちました!』


 大手ギルドから雇われていた司会進行役の男が、拡声魔法を使ってヤケクソ気味に叫ぶ。すると大広場は熱狂に包まれ、観衆は口々にライルを称えていった。


「はぁ」


 司会進行役の男は、大広場から離れた場所で静かにボヤく。


「筋書きと全然違うんだが。どうしたもんかね」


 葉巻に火を付け、ゆっくりと煙をくゆらせる。男が雇われたのは、ライルが無様に負けた姿をこき下ろし、ワイバーン討伐の虚偽申告を衆目の前で糾弾する為だった。


「こうなったのは俺のせいじゃないし、仕方ないわな」


 ライルの実力が疑いようのないものだと証明された今、男の役目は既に終わっている。


「あー、やられたやられた」


 頭をガシガシと掻きながら、男は街外れへと消えて行った。


 △


 立ち上がったビルダーは、スッキリした顔をしている。


「疑って悪かったなライル。お前の力が本物だってのは分かった」

「凄く楽しい試合でした。ありがとうございました」


「楽しい試合か。敵わねぇな。俺は全力でやってたんだが」

「俺も全力でやってましたよ。貴方と互角に戦えて嬉しかったです」


「慰めは要らねぇよ。大体、お前が魔法を使ってたら、俺は相手にならなかっただろ?」

「……それはどうでしょうか?」


 ライルは言葉を濁した。


 魔力封じの腕輪は「外向きの魔力」を封じる物だ。《身体能力強化(フィジカルブースト)》の魔法を自分自身に掛けるような「内向きの魔力」には効果がない。


 外向きの魔法は使っていないが、内向きの魔法は使っている為、ライルはビルダーへの返答に困ったのだ。


「謙遜するな。その腕に着けてる魔力封じの腕輪は、飾りじゃねぇんだろ?」

「はい」


「腕輪なんか着けずに魔法を使われてたら、最初から俺に勝ち目なんてなかったさ」


 ライルは曖昧に頷いた。


「とにかく俺の完敗だ。今度会う時は、もう少しマシな戦いが出来るように鍛えてくるから、よければ再戦も考えておいてくれ」


「その時はよろしくお願いします」

「今年のワイバーン討伐は、忘れられない思い出になりそうだ」

「俺もいい勉強になりました」


 するとビルダーは、ニッと笑って観衆の方を振り向いた。


「俺は完敗した! 他にライルに挑戦したい奴はいるか?」


 大声で伝えたが、誰一人として名乗り出ない。


「ライル。お前の実力は認められたみたいだぜ」

「ありがとうございます」


 するとビルダーは真顔になる。


「お前の剣技を見ていて気になったんだが、グローツの剣に似ているな」

「グローツの剣?」


 ライルの表情の変化から、ビルダーは何かを読み取る。


「お前って、あのライル・グローツなのか?」

「はい。生家からは廃籍されましたが」


「そうか。お前がライル・グローツか。俺は魔物討伐ばかりやってたから、大陸最強男の顔なんて知らなかったんだ」


 しみじみと語る。


「ザイル・グローツは、お前の兄だな?」

「兄上を知っているんですか?」


「剣の腕前も含めてな。俺はアイツと試合をやって引き分けたんだ」

「兄上は強いですから。祖国では兄上に勝てる騎士はいませんし」


 しかしビルダーは鼻で笑う。


「違うな。お前が大陸最強だと言われても俺は納得出来るが、ザイル・グローツが俺と同レベルだの、お前より強いだのと言われても、俺は絶対納得出来ねぇ」

「何故ですか?」


 兄のザイルが強い騎士であるのは、紛れもない事実だ。


「アイツは確かに強い。だがアイツ並に胡散臭いものを、俺は他に見た事が無い」

「兄上が胡散臭い?」


「剣を打ち合ったら、相手がどれだけの時間を剣に費やしてきたのか分かるだろ? お前が死に物狂いで修練を積んできた事だって、俺には分るんだよ。お前だって、俺の剣を受けて似たような感想を抱いたはずだ」


 ライルは首肯する。


「だがザイルと打ち合っても、その剣に俺は何も感じなかった。努力の欠片も感じられない空虚な剣だ。そんなのが俺と同レベルの強さだなんて有り得るか?」

「それは兄上が天才だからではないですか?」


 ライルは兄の事を「努力を必要としない天賦の才の持ち主だ」と思っている。


「俺も天才だって散々言われてきた。打ち合えばどんな奴かは分かるんだよ。アイツは天才でも何でもない。只の凡夫だ」


 断言されても、ライルとしては腑に落ちない。


「それでは兄上の強さが説明出来ません」

「だから胡散臭いのさ。まあ、グローツの家を出たお前には、もう関係ない話だろうがな」


 困惑しているライルに向かって、ビルダーは右手を差し出した。そのまま固い握手を交わすと、ビルダーは「じゃあな」と言って踵を返して去って行く。


 ライルはビルダーとのやり取りをしばらく反芻(はんすう)すると、待っているティリアの元へと向かった。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんか俄然ライルの兄ちゃんに興味が湧きますね。 一体何やら…
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