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24話 魔法剣士ライル

 メイン会場として使われているだけあって、街の大広場はかなりの広さだ。闘いを期待する観衆は、少しずつ後退して中心部にスペースを開けていく。


「ちょっと待ったライル! やる前にこれ着けな!」


 観衆を掻き分けてやってきたヴェイナーは、金色の腕輪をライルの左腕に通した。


「これで全力出しても大丈夫よ」

「これは、一体何の魔導具でしょうか?」


「魔力を外に出せなくなる(・・・・・・・・)腕輪よ。アンタが本気出したら相手が死ぬからさ」

「ヴェイナーさん。お心遣い感謝します」


 ライルの不穏な言葉に、冒険者達が若干動揺する。


「ブチのめしてきなさい」

「はい」


 大広場中央に向かって歩きながら、ライルは悠然と詠唱した。


「《印詠省略(ロジックカット)》」


 たったそれだけで、魔法使いらしき者達がざわついた。

 分かる者には分かる超高難度の古代魔法だからだ。


「では、どなたからでもどうぞ」

「じゃあ俺からやらせてもらおうか」


 威風堂々と出てきたのは金髪30代の大男ビルダーだった。

 鍛え上げられた身体から放たれる膂力は計り知れない。


『おおおおおお!』


 冒険者達が一斉に盛り上がる。


『ではお二人とも、準備はいいですか?』

「はい」

「ああ」

『それでは試合を始めてください!』


 だがビルダーは大剣を腰に差したまま、戦う素振りを見せない。


「お前は一体なんだ?」

「俺ですか? 俺は《鷹の眼(ホークアイ)》所属のライルと言います。今日からBランクになった冒険者です」


「俺はSランクの戦士でビルダーって者だ。この国ではそこそこ名が知られてる」

「ビルダー! 名前はガッツリ知られてるぞ!」


 ビルダーの同門らしき男から声が飛ぶ。


「ワイバーンを殲滅させたらしいが、どんな手品だ?」

「魔法です」


「魔法なわけねぇだろうが! 魔導トラップを大量に使ったってもっぱらの噂だぞ?」

「そんな高価な物は使ってませんよ。俺が使ったのは魔法だけです」


「魔法は誰に師事したんだ? この国には、あんな馬鹿げた事が出来る魔法使いなんていねーんだぜ?」


「師はおりません。強いて言うなら『はじめよう家庭の魔法』の著者の方でしょうか?」


 至極真面目に答えるが、ビルダーのこめかみがピクピクと動く。


「はっ。茶化して誤魔化そうってか? なあ、お前は回復魔法は使えるか?」

「おそらくですが、使えます」


(俺の力ではなく、ティリア様の御力ですが)


「じゃあ大丈夫だな?」

「何がでしょうか?」

「ヤバイと思ったら、自分に回復魔法を使えって事だっ!」


 ビルダーは大剣を構える。


「痛い目に遭いたくなきゃ『嘘でした』って言え! 最後まで言わないつもりなら、怪我しても文句言うなよ!」


 すると外野から、ライルに向かって声が飛ぶ。


「謝っとけって。下手すりゃ死ぬぞぉ!」

「ビルダーさんはSだからなぁ。怒らせたらマジでヤバイし」


 ライルは酔っ払い達の声を無視する。そして腰に差した剣を抜いて、しっかりと正眼に構えた。


魔法使いが(・・・・・)剣を使うだと? とことん舐めてくれるじゃねぇかよ!」


 だがライルは動じない。


(これが俺の進む道だ)


 ソードスキルの力に頼り過ぎたライルは、ソードスキルを失って無力となった。魔法の力だけを極めていけば、それを失った時にまた無力となってしまいかねない。


(同じ轍を踏む訳にはいかない)


 だからこそライルは、剣と魔法で生きて行こうと決めた。もしどちらかの力を失っても、ティリアを守っていけるように。


『始めてください!』


 頃合いを見計らい、進行役の男が戦闘を促す。

 ライルは剣を両手で握り締めると、魔法を唱えた。


「《身体能力強化(フィジカルブースト)》」

「はぁあああああ! 《速撃連斬(オーバークイック)!》」


 ビルダーが放つソードスキルは高速の2連撃だ。


(見える!)


 軌道を見切ってビルダーの初撃を弾き飛ばす。ライルの足が半歩分だけ後ろに押されたが、続く2撃目の斬撃は、その場で完全に受け切った。


「なんだとっ!?」


(ははっ)


 ライルは薄く笑っていた。驚きを隠せないビルダーの顔とは対照的だ。


(ソードスキルが使えなくても十分やれる)


 ビルダーの速さと膂力は、ライルの父や兄に勝るとも劣らない。仮に父に殺された当時のライルであれば、ビルダーの攻撃を受け切る事など出来なかっただろう。


 だがライルは真っ向から受け止めた。それはつまり《身体能力強化(フィジカルブースト)》の魔法を使った状態であれば、一流の剣士として戦えるという事に他ならない。


(俺の剣は通用する)


 ライルは幼い頃から剣の修練を続けてきた。弱いままではティリアを守れないと知っていたから、努力を続けてきたのだ。


 倒れるまで素振りをした事もあれば、余りの過酷さに立ったまま気絶した事もある。そしてその習慣は今でも変わっていない。例え血反吐を吐こうとも、剣の修練だけは止めなかった。


 その地道な努力が実った形だ。今のライルは《身体能力強化(フィジカルブースト)》の魔法を使えば、ソードスキルに頼らなくとも剣を思った通りに操れる。


 パリイのソードスキルを使えた頃のライルは、相手の剣を半自動で弾いていた。だが今のライルはソードスキルを使わずとも、同じような技を繰り出せている。パリイが使えないのであれば、自力で相手の剣を弾けばいいだけだからだ。


「ライルと言ったな……お前は何だ? 剣士なのか? 魔法使いなのか?」

「俺は魔導超越者(マジックマスター)の剣士です」


 この日、異色とも言える魔法剣士が誕生した。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりスキルは消えても体は覚えてたか! マジで最強やん! あとはティリアの真価よねぇ〜(笑)
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