22話 女戦士ルーシー・カトルレイア(別視点)
私はルーシー・カトルレイア18歳。淡い赤毛のショートでサファイアブルーの瞳。どちらかと言えば、容姿は整っている方かな。
伯爵家の次女として生まれたけど、どうしても家に馴染めなかったんだよね。そんなこんなで、今は冒険者やってる。
パンは小さく千切って食べなさい(まどろっこしいんだって)
淑女は走ってはいけません(だって走った方が速いじゃん)
詩を書いてください(つ・ま・ん・な・い!)
それでも教育係は「淑女とはこうあるべき」だの「貴族としての矜持は」だのって言って説教してくるし。
プッツンしちゃって、書き置き残して家を飛び出したんだ。
そんな昔を唐突に思い出したのは、私の目の前にティリアちゃんがいるからだ。
「ティリアちゃんって、どこの貴族? お忍びで来たんなら街を案内したげよっか? スリルがあって面白い場所もあるよ?」
「えっと、その……」
1コ下の後輩がガンガン攻めるけど、ティリアちゃんは戸惑ってるみたい。こんなに距離感無視する人間なんて、今までいなかったんだろうね。
「あの、私は貴族ではありません」
「あはははは。そんなの誰も信じないって」
先輩がズガンと事実を突き付ける。あれ、おかしいな? 何気に私の時との差が凄い。
私が先輩に自己紹介した時は「あんたが貴族? 馬鹿も休み休み言え」とか言ってたのに。うわぁ、思い出したらなんかモヤっとしてくる。
なんて事を考えてたら、ティリアちゃんと親交を深める流れになった。
「じゃあ座って。ティリアちゃん」
奥の部屋へ行き、後輩がニコニコしながら椅子を勧める。
「失礼いたします」
(おおっ!)
思わず拍手を贈りそうになる。高位貴族はやっぱり違うね。椅子に座っただけなのに、もの凄く綺麗な所作だった。
「同じ貴族なのに……野生児のルーシー先輩と全然違う」
「あんたは一言多いんだよ!」
確かに私は野生児だけども! 私も本物の所作に感心したけども!
まあ、私が野生児扱いされるのは日常茶飯事なので、ぶっちゃけ許してあげるけどさ。
「じゃあ自己紹介ね。私は――」
そんなこんなで話が進んで行くと、後輩がスイーツと紅茶を並べ終わった。
「さあ、どうぞティリアお嬢様。存分にお召し上がりくださいませ」
どうやら後輩は、変な遊びに目覚めたらしい。
「お気遣いありがとうございます。ですが、あの……先程も申しました通り、私は貴族ではありません」
「えっ? 貴族じゃないって本当だったの? もしかして王族とか?」
「いえ、違います。私は廃籍されましたので、貴族籍ではないのです」
『ええぇっ!?』
皆の声が揃った。こんなに性格良さそうな子が廃籍ってのが信じられない。私でさえ大丈夫だったからだ。
「野生児の先輩だって廃籍なんてされてないのに……」
「そこに直れ!」
私も同じ事考えたけどさぁ!
「ティリアちゃんって、もしかして『月』だったりしない?」
「月とは何でしょうか?」
先輩の発言でキョトンとしてる。それがまた可愛い。
「ああっ! 西の国の『月と太陽』ですね! 月の令嬢の名前って、確かティリアでしたよね?」
後輩の説明で私も思い出した。西の国には、それぞれ月と太陽に例えられる公爵令嬢姉妹がいるらしい。超美人姉妹として近隣諸国では有名だ。
「姉のティリアと妹のミリーナね。もしかしてティリアちゃんって、公爵家の長女なの?」
「は、はい。廃籍される前はフローレンス公爵家におりました」
私の質問に戸惑いながら答えてくれた。なぜ名前が知られているのか、本人は分かっていないみたいだけど。
「私は――」
そう言って語られたティリアちゃんの過去は、幸せとは言い難いものだった。
「ティリアちゃんは精一杯やったよ。浮気者とも婚約破棄出来たんだし良かったじゃん」
「……ルーシーさん」
ティリアちゃんは目に涙を浮かべてる。
「先輩もたまには良い事言いますね。もしかして野生の勘ってやつ?」
指摘するだけ無駄なので、もう黙っておく。
「でもライル君が他の女にそっけない理由が分かったなぁ」
すっごいウキウキしながら、後輩はティリアちゃんへとにじり寄る。
「ライル君とはどんな関係? ぶっちゃけ彼の事どう思ってるの?」
「ラ、ライルは幼馴染です。護衛として傍にいてくれますので、私は嬉しく思っております」
「うんうん。それで?」
「私が廃籍される時も、苦労を厭わずついて来てくれました」
「それも嬉しく思ってるの?」
「は、はい」
「で、他には? もっとあるよね?」
「あ、あの」
ティリアちゃんは何も喋れなくなってしまった。ああ可愛い。ライル君が羨まし過ぎる。
「ケーキでも食べよっか」
先輩の一言でケーキを食べ始め、一息ついて皆満足したのか解散となった。今はティリアちゃんと2人きりの状況だ。
「ティリアちゃん。疲れがとれなかったりしない?」
図星だったのか、少し眉根を寄せている。
後輩から野生児と言われる私でさえ、市井の生活を始めた頃はそれなりにキツかったくらいだからね。
「ライルには黙っていてもらえませんか?」
「いいよ」
心配かけたくないんだろうし。
「もし良かったら、これ使ってみない?」
香草をティリアちゃんに渡した。
「寝る時に炊いてみて。凄く疲れが取れるから。冒険者でも使ってる人が多いんだよ」
「ありがとうございます。ルーシーさん」
ティリアちゃんは、お辞儀をして部屋を出て行った。




