21話 ライルに求められるもの
「千体討伐したんだから、最低でもSランクにしろって思うけどねぇ。Sランク冒険者がいれば、ギルドが受ける恩恵も大きいしさ」
新規に発生したダンジョン等については、Sランク以上の冒険者が所属するギルドにしかダンジョン探索権利がない。
「しょうがねぇって。ウチのギルドは弱小だしよ。総括協会だって大手ギルドから『特例認めんな!』って突き上げくらったんだろうさ」
乾いた豆を口に放り込みながら、無精ひげを生やした男は言った。
「まあね。大手ギルドにしてみれば、ウチにSランク冒険者が所属しちゃったら面白くないだろうし」
「そうなんですか?」
「他所は大金払って、Sランク冒険者に所属してもらってるからね。まあウチにはSランク冒険者なんていないから関係ないけど」
ギルドの収入はギルドメンバーからの上納金だ。ギルド内に強い冒険者が増える程、大金が舞い込んでくるチャンスが増える。
「強い冒険者って、サポート無しでも勝手に稼いでくれるから、何処のギルドも喉から手が出るくらいに欲しいのよ。例えばアンタがワイバーン討伐したのだって、あたしら何にもやってないのに最優秀ギルドの褒賞金が貰えるし」
「何言ってんだ姐さん! 俺達だってワイバーンの運搬やったじゃねぇかよ!」
「そんなもん冒険者の仕事じゃないんだよ!」
ヴェイナーは怒鳴る。
「ちげぇねぇ」
『ははははは!』
ギルドの片隅で笑いが起こった。
「馬鹿ばっかりだけど、助け合っていくのが此処の方針。だからアンタが来てくれて、ウチのギルドは大助かりってわけ」
「喜んでもらえて幸いです」
するとヴェイナーは、ふっと真顔になる。
「これからどんな冒険者を目指すべきか、アンタはしっかり考えて行かないと駄目よ」
とは言っても、ライルが望むのはティリアが困らない程度の安定した生活だけだ。無茶をして大金を稼ぐつもりなど毛頭ない。
「俺は程々の冒険者としてやっていければいいかなと思っています」
「それが許されるといいんだけどさ」
ヴェイナーはライルの目をじっと見つめる。
「どういう事でしょうか?」
「力を持つ者には、それ相応の役割が求められるという事じゃよ」
どこかからともなく現れたゼンじいが、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。
「魔導超越者としての力が広く知れ渡ったとして、お前が雑魚モンスターばかり狩っておったら問題になるかもしれんからな」
世界には凶悪なモンスターもいれば、人に害をなす天災級のモンスターもいる。強力な天啓を持つ冒険者には、そういったモンスターを討伐する義務が課せられる場合もあるからだ。
「まあとにかく、アンタは死なないように頑張りな」
「魔導超越者といえど、新米冒険者である事には変わりないからな」
「はい。助言ありがとうございます」
そうしてしばらく話していると、女性冒険者達から解放されたティリアが、ギルドの奥からゆっくりと現れた。




