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02話 大陸最強の護衛騎士

 ティリアが婚約を破棄される3日前。


 ライルは迫り来る剣をギリギリまでひきつけ、全身全霊を込めてスキルを放つ。


「リジェクトソード!」


 人の限界を超えた鋭い一閃が、相手の剣を弾き飛ばした。


『勝者ライル・グローツ!』


 審判の拡声スキルで試合終了が告げられると、観客席から地鳴りのような歓声が上がる。


 大陸最強の騎士が誕生した瞬間であった。勝者は剣を高く掲げ、敗者は踵を返して去っていく。


「静粛に!」


 未だ興奮冷めやらぬ中、宰相が声を張り上げた。


「これより授与式を執り行う。ライル・グローツ此処へ」

「はっ!」


 ライルは貴賓席まで進み出ると、国王の前で片膝を着いて頭を垂れる。


「今回の働き、まことに見事であった。大陸覇者の栄誉を我が国の騎士に授けられる事、余は大変嬉しく思う」

「勿体ないお言葉でございます」


 各国の筆頭騎士が大陸中から集い、祖国の威信を賭けて競い合うのが大陸覇者闘技会だ。


 誉れ高き今年の優勝者は、若干18歳にして開催国の代表に選ばれたライル・グローツ子爵令息であった。


 ライルが授かった天啓は、あらゆる剣技を使いこなせる《剣技超越者(ソードマスター)》。これは過去の英雄達ですら縁のなかった代物だ。


「褒賞をここへ」


 国王の一言で、手のひら大の小箱が盆に載せられて運ばれてくる。


「面を上げよ。パンドラの箱を受け取るがよい」

「謹んで頂戴いたします」


 ライルは豪華な装飾が施された小箱を手に取り、ゆっくりと上蓋に手を掛けた。


 パンドラの箱は、異世界から次元を渡ってきたとされる奇妙な小箱だ。最も強き者だけが開ける事を許され、箱の底には希望の光があると言い伝えられている。


 だが真偽の程は定かではない。箱が出現してから既に500年にも及んでいるが、未だ開けられた前例がないからだ。


 ゆえに「パンドラの箱を開けるに相応しい者を選定する」という大会の開催名目も、今では半ば有名無実化していた。


『今年も箱は開かないだろう』


 誰もがそう予想していた。しかし、


『おおおおおお!』


 会場は狂騒に包まれた。

 観衆の予想に反して、箱が静かに開いていったからだ。


『きゃぁああああああ!』

『うああああああああ!』


 突如として膨大な量の霧が噴き出した。黒い霧は会場どころか王都全体を瞬く間に覆ってしまう。


 呪われると騒ぐ者、我先に逃げ出そうとする者、恐怖に顔を歪める者など、その様相は様々だった。


 しかしそんな観衆をあざ笑うかの如く、黒い霧は段々と薄まっていく。そしてしばらく後、何事もなかったかのように忽然と消えてしまった。


 △


 王城の大ホールでは、祝賀会が開催されている。


「優勝して箱まで開けてしまうとはな。お前は我がグローツ子爵家の誉れだ」


 上機嫌でライルに話し掛けているのは、父親であるグローツ子爵だ。グローツ子爵は、数年前まで王国近衛騎士団の団長を務めていた猛者である。


「本当に素晴らしい御子息をお持ちだ」

「貴家は安泰でしょうなぁ」

「羨ましい限りです」


 グラスを片手に貴族達がこぞって祝辞を述べる。


「いやしかし、箱から黒い霧が出てきた時は焦りましたな」

「全くです」


「まあ良くも悪くも、それ以外は何も起こらず拍子抜けしましたがね」

「いいじゃないですか。酒の肴になったのですから」

「ははははは」


 しかし無害だと思われていた黒い霧が、後に世界を揺るがす事となる。

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