16話 ワイバーンの襲来
翌日の朝、ライルはギルドを訪れた。
「来たわねライル」
「お世話になりますヴェイナーさん」
ヴェイナーはギルドメンバー達に向けてパンパンと手を叩く。
「はい注目! 今日から仲間になったライルよ。これから仲良くしてあげて」
「皆さん。よろしくお願いします」
ライルは慇懃に頭を下げた。
「おう! しっかりやれよボウズ」
「美形じゃんっ!?」
「魔力測定器ぶっ壊したんだって? スッゲェなぁ」
中にはライルの転落人生を揶揄してくる者もいたが、概ね歓迎ムードだった。
「じゃあこれがギルドのメンバーズカードね。しばらくは仮の冒険者カードとしての役割も兼ねてるから、なくさないように」
「ありがとうございます」
ライルは白色のカードを受け取った。ギルドに所属している冒険者は、ギルドメンバーズカードと冒険者カードを所持する事になる。
正式な冒険者カードは後日送付されてくる為、今のライルは仮の冒険者という扱いだ。
「ザクザク稼いでねライル。ふふふふっ」
ヴェイナーは不穏な空気を醸し出した後、真顔になった。
「それでアンタは、これからどうするつもり? 上位の魔物討伐でもサクッとやっとく?」
「いえ。まずは軽い依頼をこなして、冒険者としての経験を積みたいのですが」
魔物と戦った事もあるにはあるが、公爵令嬢の護衛騎士だったライルの実戦経験は、実はそんなに多くない。
「ふーん。そう。魔導超越者様は控え目なのね」
「すみません。俺はティリア様を残して死ぬわけにはいかないんです」
「そうねぇ。じゃあ、経験豊富なギルメンにでも相談して――」
「おい!」
1人の冒険者がギルドに駆け込んで来た。
「全ギルド招集だ! ワイバーンの群れが来たぞ!」
「マジか! ヒャッホー!」
「久しぶりだなぁ」
「ようやく来たか。腕がなるぜ」
ギルド内は、蜂の巣を突いたようなお祭り騒ぎとなった。
ヴェイナーはヤレヤレと言って腰に手を当てる。
「少しは落ち着きな!」
「んなこと言ってもよぉ。最弱ギルドの汚名を返上するチャンスなんだぜ姉さん」
「毎年毎年馬鹿にしやがるからな。今年こそは見返してやろうぜ!」
「ドンケツ脱出してやらぁ!」
威勢のいい声がそこかしこで巻き起こる。
ヴェイナーは「言われなくても分かってるよ!」と言って一同を見渡した。
「今日はギルド《鷹の眼》の名を知らしめる日だ! 街の奴等にはもう『お荷物ギルド』なんて呼ばせないからね! あたしも今日は倒れるまでやるつもりだから、アンタ等も気合入れなよ!」
『おおおおおおおおおお!』
ライルは、この狂騒に1人置いていかれている。
「ヴェイナーさん。この騒ぎは一体何ですか?」
「ああ、アンタは西の国出身だから知らないのね。この街の上空は、ワイバーンの住処から産卵場所までの通り道になってるのさ。だからこの時期は、空飛ぶワイバーンがわんさか上空を飛んで行くってわけ。それをウチらみたいな冒険者ギルドや宮廷魔術師達が、総出で撃ち落としていくんだよ」
目をギラギラとさせながらヴェイナーは語る。
「撃ち落とし損ねたワイバーンは、産卵場所で卵を産むからね。卵が孵れば、将来どうなるか分かるだろう? だから皆必死でワイバーンと戦うのさ」
しかしライルはどうしても腑に落ちない。
「その割には、皆さん喜んでるみたいですけど?」
「まあ優秀ギルドや優秀者には、国から特別ボーナスが出るからね。それに《射程延長》の魔法を掛けてもらったりもするからさ。普段と違った戦い方が色々試せるから、単純に皆楽しみにしていたのよ」
「ワイバーンと戦うんですよね? 危険じゃないんですか?」
「近接戦闘じゃないからね。あくまでも遠距離で戦うだけ。それにこの時期のワイバーンは産卵優先だから、あたし達の事なんて眼中にないわ」
ヴェイナーは「つまり」と言いつつ指を振る。
「こちらから攻撃するだけのボーナスタイムって事よ。まあ鱗が硬過ぎるから、あんまり攻撃は通らないけどね。でもアンタの強力な魔法なら、上手くいけば3体は撃ち落とせると思うわ」
「3体って多いんですか?」
「多いわよ。1人で3体もやれたら最優秀賞取れるんだからね。ウチのギルドは去年、屈辱の0体討伐だったしさ。だからアンタは、魔法をありったけ撃ちまくって最優秀賞を奪取しなさい」
ヴェイナーはビシッと指を突き付ける。
「魔法は何を使ってもいいんですか?」
「OKよ。あたしが許可するから、遠慮せずにバンバンぶち込んでやりな」
ライルは魔法の勉強を始めたばかりだが、修得速度は驚異的なまでに速い。既に魔法のレパートリーは10を超えている。
「分かりました」
「アンタが活躍すれば、ティリアちゃんもきっと喜んでくれるわ」
ティリアが喜ぶ顔を想像しただけで、ライルの気分は高揚していった。