13話 魔導超越者の誕生
「ゼンじい! ちょっと来て!」
ヴェイナーは室内に入って2階へと駆け上がる。そして慌てた様子で駆け下りて来ると、その後ろには1人の小柄な老人を連れていた。
「急に何じゃヴェイナー? わしゃ忙しいんじゃが?」
「何が忙しいだ! 賭け札で遊んでただけでしょうが!」
「ん? バレとったか」
「アンタはもっと仕事しろ! それより大変だって。あれなんだけどさ」
ヴェイナーは空を指差すが、そこには何も無かった。
「雲があるのう」
「ちゃんと見ろ! 魔力測定器が無くなってるでしょ!」
「ありゃ、本当にのうなっとるわ」
「この子が消したんだって!」
ヴェイナーはライルを掴み、グイッと老人の方へ押し出した。
「ん? どこかで見たような顔じゃな」
「そのやり取りはもうやったから。この子は今年の大陸覇者闘技会の優勝者で、あのライル・グローツ」
老人は「なんとまあ」と言って、ライルをしげしげと見る。
「で、このライルが《火球》で魔力測定器を消し飛ばしたんだよ」
「はぁっ? そんな訳あるかい。《火球》でアレを消せる魔法使いなんぞおらんわ」
「いるでしょうが!」
「どこにおる?」
「ここ!」
「どれじゃ?」
「だからコレだって言ってるでしょ!」
コレ扱いされたライルは、再度ズイッと押し出される。
「とにかくさ、ライルの天啓をサクッと調べてくんない?」
「天啓探査なぞ5、6歳児相手にやるもんじゃろうが」
「いいからやってよ」
ゼンじいは、ギャンブル好きが高じて神官をクビになった男だ。だがモグリの神官に身を落としたとはいえ、人の天啓を見る力までは失われていない。
「やってもいいが、結構キツイからなぁ。今後2ヶ月間は毎朝のメニューにスモークサーモンを追加してもらうぞ」
「2ヶ月は無理。2週間でいいなら検討してあげる」
「けっ。話にならんわ。出直して来い小娘が」
「ギルドマスターに向かって小娘とはねぇ。調子に乗ってんの?」
「すまんかった! 持病が悪化するんで、その『殺っちまった直後』みたいな目は止めてくれんか? 2週間で手を打つから。な? な?」
ヴェイナーが頷くと、ゼンじいはコホンと咳払いをする。
「《天啓探査》」
ライルに手を向けて魔法を唱えた。
「なんと……」
「ちょっと、どうしたのゼンじい? まさか心臓止まってんじゃないでしょうね? ねえゼンじいってば!」
ヴェイナーが揺さぶると、ゼンじいは真顔で唸った。
「マジックマスターじゃ。マジックマスターと出ておる」
「はぁ? マジックマスターって何それ?」
初めて聞く天啓に首を傾げるヴェイナーだったが、ゼンじいはとんでもない事を告げる。
「ライルは《魔導超越者》。つまりは魔法を極めし者じゃよ。おそらくは世界唯一の天啓じゃろうな」
「ええええええ!」
ヴェイナーの驚く声が遠くまで響いた。
「ライル。貴方に良い知らせと悪い知らせがあるわ。どっちから聞きたい?」
「そ、それでは良い知らせの方からお願いします」
「おめでとう。ギルド《鷹の眼》は諸手を挙げてアンタを歓迎するわ」
「あ、ありがとうございます」
ヴェイナーに詰め寄られて、思わず礼を述べてしまった。
「それで、悪い知らせというのは?」
「アンタはウチのギルドから抜けられない。さっき記入してもらった紙には、そういった類の呪いが掛かっていたってわけ。ふふふふふっ」
ヴェイナーは笑いながら更に詰め寄る。
「嘘吐けぃ小娘が。騙されるんじゃないぞライル。手印も押しとらんペラ紙1枚に、んな効果あるかい」
「ちょっ!? バラさないでよゼンじいっ!」
ツッコミを入れられたヴェイナーは、ゼンじいを鋭く睨む。
「まあ冗談はさておき、ウチのギルドで働いてもらいたいのはガチだから」
「冗談じゃと? 9割方本気で言ってたように見えたがなぁ」
「ゼンじい。ポーション用素材にヒール掛ける仕事を取れるだけ取ってきてやろうか? とりま3年くらい部屋に篭れば終わるからさ」
「ほんにすまんかった! ポーションの原料造りはキツイんじゃ。持病の癪が悪化するんで勘弁してくれんか? ゴホッゴホッ!」
わざとらしく咳をするゼンじいだった。