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11話 ライルは最弱ギルドを訪問する

 聞き込みで手近な冒険者ギルドを探し当て、ライルは入り口の扉を押し開けた。


 テーブルで酒を飲んでいる男もいれば、素材の売買について商談を持ち掛けている商人もいる。数十人規模のギルドのようだった。


「すみません」


 受付と思しき女に声を掛ける。


「ん? 何?」


 カウンターにいる金髪碧眼の若い女が、蓮っ葉な感じでライルを見上げた。


「冒険者の仕事について、お伺いしたいのですが」

「ん? ん? んんっ?」


 身綺麗な女は、ライルを上から下まで舐め回すように見た。


「あたし、アンタの事どっかで見たような気がするんだけど?」

「俺はライルと言います。以前はライル・グローツという名前でしたけど」

「ライル・グローツぅううううううう!?」


 女の声で、室内が一気に騒がしくなる。


「おいおいマジかよ? ライル・グローツって、西の国のライル・グローツか?」

「大陸最強騎士の?」

「大陸最強『だった騎士』だろ?」

「はははは」


 馬鹿にするような声もあったが、罵倒に慣れているライルは気にしなかった。


「こりゃ珍しいお客さんね。ま、ウチのギルドは、そういう訳アリだろうと、気・に・し・な・い。けどさ」


 女は軽い調子で指を振る。


「そりゃ、そんな事言ってる姐さんが一番の訳アリだもんなぁ」

「はははは。言えてる」


「アンタ達煩いよ! 暇してる余裕があるみたいだし、今月の報酬から少しブッコ抜いてやろうか?」


「勘弁してくれよぉ。これ以上報酬下げられたらやっていけねーって」

「ちげぇねぇ。ははは」


「だったら少し黙っときな。ほら散れ散れ。仕事しろ」

「そろそろ真面目にやるか。狩りにでも行ってくるわ」


 騒ぎが収まると、女は一枚の紙を差し出した。


「ウチのギルドと関わるつもりなら、これ書いてくれる?」

「仮登録書? これに俺の情報を書くんですか?」


 女は「どこのギルドだって同じようにやってるよ」と言って笑う。冒険者ギルドに危険な話を持ち込もうとする輩は多い。その為の自衛手段だった。


「仮にアンタがヤバイ奴でも、こうやって情報を握っておけば対応しやすいからね」

「なるほど」


 世の中には、書類に対しても効果を発揮する真偽判定魔法があるからだ。ライルは納得した上で、渡された紙にスラスラと必要事項を記入していった。


「終わりました」

「ん。どれどれ」


 女は真偽判定魔導具のルーペを使って目を通していく。だが読み進める内に、その表情が険しくなっていった。


「虚偽記載はないみたいだけどさ」

「はい」


「ソードスキルは、本当に何も使えないの?」

「しばらく前に、全て使えなくなりました」

「そう」


 女は顎に手を当てて、書類に再度目を走らせていく。


「特記事項に『天啓を授かったのは10歳』って書いてあるけど、これも間違いない?」


 天啓という特殊能力は、5歳時に授かるのが通例だ。


「5歳では天啓なしだったんですけど、俺は10歳で剣技超越者(ソードマスター)の天啓を授かったんです」


「10歳で授かるなんて珍しいね。そんなの初めて聞いたわ」

「その天啓も、今はもうありませんが」


 祖国の王都では「神罰を受けて全てを奪われた護衛騎士」との噂が広がっている。


「グローツ子爵家を廃籍されたの?」

「はい」

「元貴族なら魔法が使えそうだけど、何か得意な魔法はある?」


「大したものは使えないです。拳大くらいの大きさなら《火球(ファイヤーボール)》を出せますけど」


「ふーん。魔法は使い物にならなそうね。でも大陸最強の騎士だったわけだし、剣の腕は凄いんでしょ?」


 ライルは申し訳なさそうな顔をする。


「ソードスキルが使えない俺は、下級騎士並の実力なんです」

「そう。使える魔法は《火球(ファイヤーボール)》の『ダブルマイナス』で、剣の腕が下級騎士レベルかぁ」


 女は難しい顔で「うーん」と唸る。


「それでもアンタは、冒険者になりたいの?」

「稼げるなら冒険者になりたいです」


 返答を聞いて女は再度唸った。


「正直に言わせてもらうけど、冒険者一本でやっていくのは厳しいわ。冒険者ランク的にもEってとこだし、食べていくだけで精一杯ね」

「……そうですか」


 ライルは落胆を隠さない。


「その顔を活かした仕事の方が向いてんじゃない? アンタなら、お貴族様とデートするだけで大金稼げそうよ? そういう職業ギルドもあるから、あたしから紹介してもいいけど?」

「すみません。勘弁してください」


 ライルが本気で狼狽えたので、女はアッサリと引き下がる。


「そうねぇ。じゃあダメ元で冒険者になってみたら?」

「でも俺の場合、食べていくだけで精一杯なんですよね?」


「まあね。でも伸び代がどれだけあるかなんて、実際にやってみなきゃ分かんないもんよ。あたしがアンタの立場なら、試しに冒険者になってみるわ。やってみて無理そうなら、トンズラすりゃいいんだし」


 女は何でもない事のように軽く言った。


「もし冒険者をやるつもりなら、ウチのギルドに入りなさいな。打撃測定か魔力測定で最低値を超えればいいだけだから簡単よ。登録条件はウチが一番緩いから、今のアンタでも問題なく登録出来るわ」


 更に女は「どこかで集めた素材を売るにも、ギルドメンバーになっておけば何かと便利だからさ」との情報を付け加える。


「でもいいんですか? 俺の冒険者ランクは推定Eランクなんですよね?」

「まあ、他所のギルドなら門前払いでしょうね。でもアンタが本気で冒険者をやってみるつもりなら、あたしは歓迎する」

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