3.大和真也のコバルト文庫もの
これはもう「ジュゼ・シリーズ」に尽きる。
と言うか、文庫化されていない小説ってのもあるんですがね。
数作はそれ以外もあるんだけど。
とりあえずジュゼ。
1.フォックスさんにウインクを
2.眠り姫にキス!
3.回らない風車
4.水曜日には雨が降る
5.アダ
6.黄昏時には夢を見る
7.坂の向こうの茜空
http://mapu.raindrop.jp/j/jguide.html
このサイトが実にこのシリーズについてよくまとめてらっさる。
引用。
>地球と地球上のある研究所に作られたミクロコスモス(小規模疑似宇宙)が舞台。
地球とミクロコスモスはパラレル=リンクしている。どのミクロコスモスにも自分がいる。
研究所のミクロコスモスは実験場としても利用されている。軍事利用されるに至り、規制の動き有り。
『ジュゼ』はミクロコスモスの中のひとつ。実は『ジュゼ』には秘密があって……
この『ジュゼ』とミクロコスモスの存続を巡る若者たちのSF青春ストーリー(なんか違う)。
この設定はデビュー作「カッチン」から来ていて、全体の過去話である「回らない風車」の中では「カッチンゲーム」という名で出てくるんだな。
Wikiによると、1~5までは割ときちんきちんとした間隔で出しているんだけど、6.7はちょいと空く。
まあ、この数年の活動で「切られた」と思われるんですな。
というのも、「単行本未収録作品」の中にある
・リトレイク誘拐話
・ラウルク殺人事件
・イデラクロ爆弾魔
・ルストクロ遭難譚
・トリクロル偏執狂
もジュゼ・シリーズの短編なんだけど、これは本当にまとまっていない。
ちなみにこのタイトルの韻を踏んだ様なのは作者のクセだと思われる。
というのも、ともかくこの作者はこのシリーズの人名をことごとく回文にしているんだな。
「こともりもとこ」
「しがたかし」
「しかたにたかし」
「みずいいづみ」等々。
姓名が揃っている日本人名で例外なのは、3.のヒロインちひろ嬢だけかと。
で。
当時ですな。
この「回らない風車」を買おうかどううかで何度迷ったか、という記憶があってですな。
そこから「何かひっかかる」と思いつつ、既刊の1.2をチャリ走らせて探し回りましたよ……
新井素子より確実にマイナーでしたからな。
1.は異世界に「連れて行かれて」という、当時よく見たパタン。
今は「異世界転生」だけど、当時のジュブナイルでは「連れて行かれた」「巻き込まれた」というパタンだったんだよなあ。
新井素子にも「扉を開けて」っー話がある。
巻き込まれ型。
だから「必要としている先導役」が居る場合が多かった。
そこに出てくる「水井いづみ」まあ全体のヒロインなんだと思われるけど、基本は群像劇。
ついでに言うと、舞台は名古屋だ。
まあこれは作者が名古屋の大学に通っていたから、と思われるんだけどな。
ただなあ!
これは昔もうすぼんやりと思ってはいたけど、
「ミクロコスモスと山下達郎とゼラズニイが共存する世界」
という奴がやっぱり違和感ありありだったんだよな。
ミクロコスモスを様々に転用できる舞台なのに、読者の80年代と同じ具体的なミュージシャンとかSF作家とか出てくるのが謎だったんだわ。
こういうずれ感というのは、キャラにも現れていてなー。
どう見てもロリロリ趣味の挿絵でなおかつ性格も明らかにロリ趣味に入っている3.ヒロインちひろ嬢なのに、SF研の人が読む様なハヤカワのSFだかファンタジーを普通に読めてしまうとか、恋人を追いかけてジュゼで子供も身籠もってしまうとか、何か違和感が当時も言葉にできないけどずりずりと存在したんだよなー。
ちなみにワタシはその「違和感」があるとともかく知りたくなるという癖があってだな。
そのせいでこの本は二度買いしている訳だ。
後で書くが、スターゲイザーシリーズなんか、二度手放して三度買ってる。
ところでこのひとも微妙にカニバリズム入ってると思われるんだよな。
ミクロコスモスの地球の一つジュゼのネイティブ住人はお菓子の材料になるという。
だいたい3.の冒頭でジュゼ人だけど地球の富豪の養女になっているというちひろ嬢は
「腎臓をクッキーにされてるんだ」
だし、友人は
「片肺取られかけた」
という物騒加減。
まあ実際は地球で育つジュゼ人は毒素が溜まって食えない訳だけど、当初のその養女にした狙いが「デザートの材料」というのがえぐい。
で、ジュゼ人は死ぬ? とド・ラ・ルゥという何かヨーグルトの様な味のキノコのような? にょろにょろの様なものになってしまうというんだよな。
新井素子とは違うけど、そういうとこにカニバリズム入ってる感だけど、これは当時の流行の様なものだったんかいな?
個人的には5までは何とか記憶に残ってるんだけど、6.7.はどうも印象に残ってない。
で。
その「異世界転移」的な1.は「何をしたかったのか」が当時は判らなかったんだけど。
まあ正直、どの話も「物語的には」破綻してると思う。
主人公いづみは人違いでジュゼに連れてこられて、次の帰りの転移ができるまで色々お使いとかしつつ向こうであれこれ戦闘とかに加わって、またその途中で「帰れるよー」というとこで日常に戻って終わり。
そういう囲いはあるんだけど、その内側での展開が尻切れトンボのまま「時間が来たよー」という。
これは5.でも同じことが言えるんだよな。
2.は直接的な続編二本で、この主人公が無性にジュゼの生活が恋しくて結局行くと決めるまでの話とか、1.で出てきた「狐」氏の冒険とか。
何というか、会話や流れが「暇を持て余した理系大学生おたく」世界のまんまというところなんだよな。
そんで当時のSFやアニメ・マンガ好きにおける二人称「お宅」が無闇に使われている。
今読むとかなりゲシュタルト崩壊するくらい出てる。
と言うか、当時こうSF・アニメ好きの間での呼びかけ二人称がこれだったことから、「オタク」っー言葉が生まれたんだよな。
新井素子も初期作品ではよく使っている訳だから、この時代のある層が好んで使っていたんだよな。
つかまあ、自分もだけど。
ちなみにこの全体ヒロインのはずのいづみさん、まあよく煙草吸う。
当時ですから、とは思ったけど、それでも「狐」氏に
「お腹の子供に良くないよ」(←いずれ妊娠することもあるだろうから、という言い方がだいたいこれで通じたと思ってくれい)
と言われても止められない、と言ってるんだよな。
まあそういう時代さ。
3.はジュゼ出身で地球で育てられた「ちひろ」視点。
彼氏がジュゼの司政官補だかになったということで、名古屋でうだうだ。
その後ジュゼに行ってジュゼ人のなれの果てが何なのかというの見るという感じの。
4.は1.で出てきた「狐」氏、本名信一君がどうやってこの世界に巻き込まれたか、という顛末。
ナヴィと名乗る少女の動きに巻き込まれて~とやっているうちに彼の住んでたミクロコスモス世界が消されてしまったという。
ちなみに彼が「狐」なのはロンメルらしい。
この3.4はストーリーがきちんとしているのでまあまだ読みやすい。
んだが、4.から視点が青年だったり、女性ではない方向にどんどん行きがち。
5.はミクロコスモスの応用で、剣と魔法の世界。―――に、1.からよく出ているイリヤという「僕」呼びの女性視点。
彼女もどっかのミクロコスモス出身。おおもとの地球のスタッフの一人が気に入って連れてきた設定。
……1.で自分で「ブラッディ・リィと呼ばれている」は、まあ若さですな……
あと、作者のそのテの世界が好きだからやっちまった、という感じだ。
正直この話も結末は無い。
というか、剣と魔法っぽいことをやっていたけど、唐突に戻されて、その地球が取り壊されたよ、と保護者に言われててイリヤが嘆いて髪を切った、という結末。
これも話としては破綻してる。
ところで。
この時代にSFとかにはまった人々にとっては割とゲームではなくおおもとのそういう「剣と魔法」話を読んでいることがある。
特にSF研に居た場合!
(いやこれは偏見だけど。ちなみにワタシはあかん。RPG、ドラクエとか拒否感が激しくて、未だに魔法使う話を書くのに忌避感があるのは、この辺りの読者層の閉鎖感のせいがでかい。何せ、グイン・サーガでも剣と魔法的な1~5はまずは飛ばして、6からの政治ものになって慣らしてからつまり何だったんだ、と前に戻る形でな)
6.7.は研究所系SFで、まあ作者の馴染みの深い世界を使っているなあ、という感じはした。
……なのだが本当にこの2作は記憶に無いんだよ!
そんで7.でこのシリーズの文庫は終わり。
短編集も出ない。
これは何十年か経った後に読み返したら気付いたんだけど。
「あ、このひと読み手のことさして考えていないわ」
と思った訳だ。
いや、当人はそのつもりだったとしてもだよ。言いたいことが先に立ちすぎているというか。
発想は面白いし、世界観はあるんだけど、如何せん「結局どうしたいのか」が見えないまま打ち切られか、お休みにしてしまってそのまま、という感じで。
まあ仕方ねえよな、と思う。
実際6.7は内容思い出せないくらいだもの。