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正志 その4

だが、牢屋へと続く階段を降りることはなかった。


牢屋にいた人々は、お互い支え合いながら既に大広間まで出てきていた。

おそらく、牢屋にいたすべての人々が(そろ)っているだろう。


「あなたは……。」


牢屋に閉じ込められていた女性の一人が俺のことを見つけ、今にも消え入りそうな声で(つぶや)く。


「……領主は死にました。どうか落ち着いてあなた方の帰るべき場所へとお帰り下さい。」


俺は、必要最低限のことだけを伝える。

それ以上何かを言うことはできなかった。


俺は、何もしていないのだから……。


俺がしたことをあえて挙げるとするなら牢屋の鍵を開けたことくらいだ。

故に、それ以上何かを言うことも、何かをすることも俺にはできなかった。


牢屋にいた人々は、俺に感謝し軽く会釈をして行ってくれる人もいた。


牢屋の人々が全て出て行くのを見送り、念のためにともう一度牢屋の方を確認しに行ったが、逃げ遅れた人はいないようだった。


この村の一番大きな問題はこれで解決しただろう。


あとは村人個人の問題だ。

今後村人が不安を抱えなくていいように、領主が亡くなったこととこれからは自由に生きていけることを伝えれば俺はこの村から出て行ってもいいだろう。


俺は帰宅する。


愛する妻のいる家へと。




領主が亡くなり、牢屋の人々が解放された日から一夜が明ける。


今日も俺の妻は可愛い。

事件も一段落ついたため、最高の気分だ。


今日は村に行って村人たちに真実を打ち明ける。

それで俺の役目は終了だ。


妻の作ってくれた朝食を食べながら、そんなことを考えている時だった。


――コンコン。


玄関のドアをノックする音が聞こえる。


「はい。」


ノックには妻が答え、玄関のドアを開ける。


「おはようございます。」


そこに立っていたのは、前に村の広場で話した少年だった。


「君は……。」


「父ちゃんたちが、村の広場に来て欲しいって言ってるんだ。だから、もう少ししたら来てもらえる?」


少年は俺の言葉には一切反応せず、用件だけを口にする。


村人たちには話しておくべきこともあるし、むしろ丁度いいかもしれない。


「わかった。もう少ししたら行くよ。」


「お願い。約束だからね。」


少年はそれだけを伝え、すぐに村の方へと戻って行った。


村人が俺に対してどんな用事があるのかというのは気になるが、こちら側からの用もあるし、そんなものは行けば分かるだろう。


上手くいけば交流を図れるかもしれない。

これは風向きがいい方に向いているのだろう。




出掛け際に愛する妻と抱擁、キスをし、家を出る。


広場までは少し離れている程度で、なんの問題もなく歩ける距離だ。


広場に着くと、たくさんの村人たちがいた。


村人全員で祭りでもするのだろうか?

となると、そのめでたい行事に俺も呼んでくれたということだろうか。

村人たちには歓迎されていないと思っていたが、祝い事は賑やかな方がいい。

中々粋なことをしてくれるじゃないか。


「こんにちは!」


俺は、極力明るい声で挨拶をする。


村人たちの視線が一斉に俺の方を向く。


きっと歓迎の言葉でももらえるのだろうと思ったが、それどころか挨拶すらも返ってこなかった。


代わりに聞こえてきたのは……。


――ゴン!


そんな音だった。


音のする場所に視線を向けたかったが、それはできなかった。


なぜなら、それは外ではなく内側から聞こえた音だったからだ。


――頭の中から響いた音。

いや、頭を殴られた音だった。


意識が沈んでいく……。

いや、沈んでいると感じることもできない程にぷっつりと途切れた。


その後のことはよく分からない。


ただ、真っ暗だったはずの視界には赤やオレンジの色がチラついたような気がしたことと、体が(ひど)く熱かったような気がする。

後頭部もジンジンと痛かった。

いや、体中に後頭部と同じような痛みを感じたような気もする。


それで終わり。


それ以上は、何もなかった――――。

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