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正志 その2

「――なんだ……これ……。」


起床し、早速苦労して植えた植物たちに水をやろうとした時にそれに気が付いた。


昨日やっとの思いで植えた植物たちは荒らされており、昨日の苦労は全て水の泡となってしまっていた。


もしかすると、夜の間に野生の動物でも入り込んで荒らされてしまったのかもしれない。

確かにその辺の対策はしていなかった。

まさか野生の動物がこの辺にいるとは思っていなかったし、荒らされてしまうことになるとも思っていなかったからだ。


「朝ごはん、できてますよ?」


妻の声だ。

俺の様子を見て声を掛けたのかもしれない


「ああ、ありがとう。すぐ頂くよ。」


「はい、用意しておきますね。」




食事を終え、支度も整えた。


「それじゃあ、出掛けてくる。」


「はい、お気を付けて。」


庭の植物たちに関しては残念だったが、もともとはこの村の調査のために間接的にでも役立つと思い始めたことだ。

昨日とは時間をずらし、昼食を終えてから出掛けることにした。


昨日よりも家から離れた場所。


そこで少年を見つける。

周りに別の子供はいない。

なにやら一人でボール遊びをしている様子だ。


「こんにちは。」

声を掛ける。


昨日会った大人の女性よりも話しやすいかもしれないと思ったが、なにやら少年はギョッとした様子で返答が得られない。

突然声を掛けられたため驚いたのだろう。


「一人で遊んでるのかな?」


「そ、そうだけど……なんか用?」


少年はようやく返事をする。


「いや、なにしてるのかな?と思ってね。」


「――べ、別にいいだろ。なにしてても……。」


「そうだね。もしよければ……少しお話ししてもいいかな?」


「な、なんだよ……。」


「まだ引っ越してきたばかりでこの村のことがよく分からないんだ。もしよければ、教えてくれないかな?」


「べ、別に教えることなんかないよ……。」


「今、お父さんやお母さんは一緒にいないの?」


「父ちゃんは仕事だし、母ちゃんは家にいる。妹も一緒だよ。」


「そうなんだ……。それで一人で遊んでたんだね?」


「そうだよ。」


「お父さんは何のお仕事してるの?」


「何でそんなこと言わなきゃいけないんだよ。」


「もしかしてお父さんのこと嫌いなの?」


「べ、別にそうじゃないよ。何してるかは知らない。でも、領主さんのところで働いてるよ。」


「そうなんだ。」


「そうだよ。」


「実は俺はね……この村で大変な事が起きてるって聞いてやってきたんだ。」


「そうなの?でもこの村で大変な事なんてなにもないよ。」


「この村が大好きなんだね。でもそれなら、俺は君の味方だよ。だから何か少しでもおかしいなって思うことがあったり……異常な事、間違ってることがあったら、教えてもらえないかな……?」


「俺の味方なの?」


「ああ、君だけじゃなくてみんなの……。そうだな……実は俺は、正義の味方なんだ。」


「そうなんだ……。でも何も知らないよ?この村は平和だし、なにもおかしいことも知らない。お父さんやお母さんも平和でいい村って言ってるし、変なことは何もないと思う。」


「そうか……。わかった。ありがとう。何か困ったことがあったら俺になんでもいってよ。」


「わかった……。」

少年の返事を聞き、その場を後にする。




その後も村の中を散歩してみたが、特に情報は得られなかった。


少年は、何もおかしなことはないと言っていた。

だが、それにしては妙な違和感を感じる。

その違和感の正体が分からないまま家へと帰宅した。




家に到着する。


外はまだ明るい。

これならもう一度家庭菜園に挑戦してみてもいいかもしれない。


早速土を整え、種を植える。


今度は動物に荒らされないようにと、急場凌(きゅうばしの)ぎ程度ではあるが案山子(かかし)を作ってみる。

案山子(かかし)には反射板を仕込み、動物が近寄りづらいように細工をした。


全て終わる頃には日は完全に沈んでしまっていた。


妻の作ってくれた夕食を食べ、眠ることにする。




「起きて、ねぇ、起きて。」


妻の声だ。

朝だろうか?


いや、外はまだ暗い。


朝ではないだろう。


だが、暗いというには違和感が……。


「――ん……どうした?」


「大変なの。火が、火事が……。」


妻はどう言葉にしていいか分からない様子だ。


だが、火事という言葉に嫌な予感がし、すぐに庭に向かう。




燃えている。


植えた植物に関しては、まだ芽も出ていないため燃えていないが、動物除(どうぶつよ)けのためにと置いた案山子(かかし)が全身を炎に包まれ燃えていた。


妻は窓からの炎の明かりによって目が覚めたのだろう。


このまま放って置けば案山子の火は家に燃え移ってしまうかもしれない。

すぐに家の中にある蛇口にホースを繋ぎ、水を吹きかける。


案山子(かかし)は二体置いた。


家に近い方の案山子(かかし)から鎮火(ちんか)していく。


案山子の足元から頭にかけて水を掛ける。

下は土で燃えるものもないため、案山子の炎さえ消すことができれば、他に燃えるものはない。


それでも、人間大のものを消化するにはそれなりに時間がかかった。


ようやく火を消し終え、二体目の案山子(かかし)の火を消し始める頃には、二体目の案山子(かかし)の原型はほぼなくなり、案山子(かかし)そのものも倒れてしまっていた。


なんとか火を消すことに成功し、家への引火も避けられた。


でも、一体なぜこんなことに……。


他に消し忘れた火がないか、火を発するようなものがないかを確認した後、再び風呂に入り、消化のために流した汗を洗い流しベッドに入る。


火事による興奮のためか、その原因を考えていたためか、なかなか寝付くことができなかったが、昼間の疲れのおかげもあったのか、そろそろ日も出ようという頃になんとか眠りに就くことができた。




今日は領主の家に向かうことにする。


燃えてしまった庭のことは残念だが、今は続いておかしなことが起こる村についての調査と、その村の原因となっている領主について調べることを優先した方がいいだろう。


夜中のことがあったため、起きるのが遅くなってしまった。


だが、このまま支度をして領主の家に行ったとしても夕方頃には話を聞くことができるだろう。


夜遅くとなってしまえば失礼に当たるかもしれないが、夕方であれば悪くはないだろう。


俺は支度を済ませて領主の屋敷へと向かう。




領主の屋敷は思っていたよりも落ち着いた(たたず)まいをしていた。


門の前には兵士が待ち構えている。


そう思っていたのだが、実際にはそこにはただ入り口があるのみだった。


入り口、その扉の前に立ち扉を叩く。


――コンコン。


「すみません。」


声を掛け、少し待つが返事がない。


これだけ大きな屋敷だ。

聞こえないのかもしれない。


――コンコン!


「すみませーん!」


少し強めにノックし、さらに大きな声で呼びかけてみる。


やはり返事がない。


もしや誰もいないのかもしれない。


もう一度声を掛けて返事がなければ出直そう。

そう思い、最後のノックを行う。


――コンコン!


「――っ!?」


だが、実際には声を出すことはなかった。


ノックをした際に扉が開いたのだ。


内側から開けられたというわけではなく、開いてしまった。

もともとちゃんと閉まり切っていなかった扉が、何度かのノックにより開いてしまったのだろう。


他人の家に勝手に入るというのは本来であれば気が引けるが、俺は調査も()ねてここにきている。

これはちょうどいいかもしれない。


俺は、屋敷の中へと入ることにした。




広い屋敷だった。


もちろん、外から見た際にそれなりに広い屋敷だというのは分かっていたが、それにしても広い。


外から見た際には、三階建ての建物なのかもしれないと思っていたが、どうやらそういうわけではなく、天井が高い。

この天井の高さが広い屋敷をより広いものとして認識させている。


壁側には剣を持った鎧が立っており、壁には金でできた盾などが飾られている。

それも一つ二つではなく、数えきれないほどだ。

それは、この屋敷の主がそれだけの財力があることを象徴するようでもあった。


部屋数は大した数はないようだ。

必要最低限なのだろう。


二階へと続く階段もあるが、二階部分はこの屋敷全体から見ればさほど広くないようで、一室分の空間のみしか存在しない。

おそらく、寝室でもあるのだろう。


まずは、一階にある適当な扉を慎重に開く。


中は薄暗くなっており、人はいない。


扉の外の通路と比較すると、部屋の中の温度は低かった。


肉やら野菜、穀物などが大量に置かれている。

食糧庫だろう。


だが、あまりにも量が多い。


この量では仮に一人で毎日満腹まで食べても軽く三年は持つだろう。


当然、食べるものがそんなに長期の保存が可能なわけはなく、余った分は廃棄(はいき)するしかなくなるだろう。

それほどまでに無駄な貯蔵がされている。


村人たちから搾取したものなのかもしれない。

数百人単位の人間がいればこの量も納得はできるが、そういうわけでもないだろう。


食糧庫を出て次の部屋を探す。


他の部屋に関しても、おそらくは生活に必要な部屋だと思われる。


そうであれば、一番広いと思われる大広間へと向かうのが最も効率が良いだろう。

のんびりと調査している時間はない。

いつ家主(やぬし)が帰ってくるかもわからないのだから。




大広間は簡単に見つけることができた。


それも当然だ。


入り口からまっすぐに、そして一番奥にある扉。

そこが大広間だった。


そこは、王様でも相手にするのであれば、謁見の間とでも言っていいのかもしれない。

それほどまでに豪華で、財の限りを尽くした装飾が(ほどこ)されていた。


その財源は果たしてどこにあるのだろう?


例えば、この村の村人全てから全ての財を搾取(さくしゅ)しても足りないだろう。


この小さな村の、決して贅沢(ぜいたく)をしていない村人たちから全てを搾取してもこの屋敷の装飾全てには到底及ばない。


では、それを長期に渡って搾取し続けたらどうだろう?


それでもだ。


それでも足りない。


何千何万年の単位で搾取(さくしゅ)し続ければそれに足りることもあるかもしれないが、そんなことをし続ければこの規模に至る前に搾取(さくしゅ)される側が潰れてしまうだろう。


そうであれば、何か別の財源があるはずだ。

別の何かから(もう)けを出している。

あるいは、搾取(さくしゅ)をしているというわけだ。


そんなことを考えながら大広間の中をぐるりと見渡す。


そして発見する。


一部分だけ装飾が(ほどこ)されていない部分を見つける。

そこは、一見すればただの壁だった。


だが、壁にしては周囲と雰囲気が違い過ぎる。


そこをよくよく見ると境目(さかいめ)が存在し、動くようになっていることが分かる。

しかし、動かし方が……開け方が分からない。


さらにその壁の周辺を見る。

その周りの装飾を見ると明らかに(つか)んでくれとでも言わんばかりの装飾がある。


それを(にぎ)り、(ひね)る。


――――ゴゴゴゴゴ……。


開く。


やはり扉だった。


開いた先には階段がある。


それは上へ続く階段ではなく、下へ続く階段だった。


俺は、地下へと続くその階段を下りて行く。

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