領主偉蔵
この村は本当にいい村だ。
村人も優しく、みんなが私に尽くしてくれる。
おかげで私はこんなに金持ちにもなれた。
私は、この村の領主。
名を偉蔵という。
先日、村人の一人から素性のよく分からない男が村へと越してきたと報告を受けた。
私はそれを、その男が村に害のあるような人間ならばどうにかするようにと頼んだ。
私は領主としてこの村の村人たちを守らなければならない。
そのためならば全力を尽くそう。
それが、私に尽くしてくれる村人たちに私がしてやれるせめてもの小さなことだろう。
「うむ、ご苦労。」
「はい、どうかお納めください。」
そう言って、村人の一人が大量の貢ぎ物を持ってくる。
いや、税と言ってもいいのかもしれない。
村人は私に対し渡すものを渡し、去って行く。
用はそれだけだったということだ。
それに、あの村人も早く本来の仕事に戻らねば、食っていけなくなってしまう。
当然のことだ。
私は私の仕事に戻るとしよう。
村人ばかりに働かせていてはこの村を維持できなくなってしまう。
私は、屋敷の中にある地下に続く階段を下りて行く。
その最深部には、固く閉められた重たい扉がいくつもある。
牢屋である。
私が必要だと判断し、そこに閉じ込めている。
だが、この牢屋の中にいる者たちにも役割はある。
牢屋の中の人間たちの多くは、村の外の人間ばかりではあるが、この村の村人だったものも閉じ込めている。
役割を与えるまではそうしてもらっている必要があるだろう。
日課である牢屋の確認を済ませ、私は屋敷の外に出ることにする。
屋敷の外に出るのは久々だ。
しばらく屋敷の中にこもる日々が続いていた。
久々に浴びる外の日差しが眩しい。
その明るい日差しは心まで晴れやかなものにしてくれる。
せっかくだ。
これまた久々に村にでも行き、村人の様子でも見てみることにしよう。
村の広場。
ここは、主に子供たちの遊び場として使われることが多い。
「あ、領主さんだ!こんにちは!」
早速子供の一人が声を掛けてくる。
「うむ、こんにちは。元気に遊んでいるかな?」
「はい!ボールで遊んでました!」
「そうか。元気でよろしい。でも、遊んでばかりではなく、お父さんやお母さんのお手伝いもしなければいけないよ?」
「はーい!」
元気な返事だ。
「あ、領主様。申し訳ございません。私の子供が……。」
子供の母親が、私に声を掛けている自分の子供に気付き、謝罪をしてくる。
「うむ、元気のいい子供ではないか。」
「はい、ありがとうございます。この子も領主様のために働けるよう躾けておりますので……。」
「まぁ、そう固くならなくてもよい。お前たち親子には期待しているぞ。」
「はい、ありがとうございます!」
そう言って自分の子供を連れ、その母親は去って行く。
今日もこの村はいい村だ。
だが、一つ気になることがある。
先日報告を受けた素性の分からない男のことだ。
話によると、この広場からは少し離れた所に住んでいるらしいが、様子を見に行ってみることにしよう。
久々の外出にしては大分歩かされてしまった。
素性の分からない例の男の家の周りには他の家はない。
おかしなことがあるとすれば、庭がめちゃくちゃになっていることだ。
不注意で火事でも起こしたのかもしれない。
長居されては村に何か問題を運んでくるやもしれない。
外から見る限り、その庭を修復する気などもないのだろう。
これは有無を言わさず早めに村から追い出すようにした方がいいに違いない。
何か問題があってからでは遅いのだ。
早速屋敷に戻り、その男を村から排除するよう、村人に通達する準備を始めることにしよう。