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一平くん

それは、ある日の出来事だった。


何の前触れもなく、僕の住んでいる村にとある男がやってきた。


その見知らぬ男は、何かを主張していた。

この村は間違っているだとか、異常だとか、とにかくこの村は色々なことがおかしいので、正さなければいけないらしい。


自分のことを正義の味方だと主張していたその男は、そのようなことを口にしていた。


でも、この村はもともと平和だし、何か正さなければいけないようなことがあるようには僕は思えなかった……。




僕の名前は一平。


何の変哲もない、どこにでもいる少年だ。

生まれた時からこの村にいて、この村で育った。

お父さんやお母さんも健在で、妹が一人いる。

何不自由なく生きてきたし、これからも他の人と同じように生きて、同じように生活していくんだと思う。


そんな僕の平和な日常が、たった一人のあの男のせいで壊されるなんていうのはごめんだ。


突然やって来たあの男は、僕たちを助けに来たと言っていた。


あの男の話によると、僕たちはひどい扱いを受けていて、利用されているとのことだった。


でも、その村の住人である僕はそんなことを考えたこともなかったし、村の他のみんなも同じだ。


だからきっと、あの男の中で正しいことというのがあって、この村をあの男の思い通りにしようとしているのだと思う。


正しさや正義というものを振りかざして、自分のわがままを叶えに来たのだろう。


自分の正義に溺れているというやつだ。




そしてそのことを裏付けるように、あの男は村に来て早々、怪しい行動を始めていた。


「おい、あいつ何してると思う?」

友達のえいた君が口を開く。


「わからないけど……庭を掘り返して、何かを埋めてる?」

僕はえいた君と同じように小声で答える。


僕たちは、例の男が村にやって来てそのまま住み始めた家のすぐ近くにいた。

といっても、男と友達になるためなどではなく、何をしているのか見に来ただけなので、木の陰に隠れている僕たちの姿は男には見えないだろう。


「ほら、もういいから帰りましょ?危ないわよ?ママやパパたちも近寄っちゃダメって行ってたでしょ?」

びーこちゃんだ。


僕たちは、僕を含めた三人でここに来た。


「ええ、いいじゃん。もうちょっとだけ……せめて何してるか分かるまででいいからさ。」


「ダメよ。なにかあったらパパとママに怒られちゃう。だから早く帰りましょう?それに、何をしてるかは分からないけど、ずっとああしていて怪しいことをしてることだけは分かったでしょ?」


「びーこは本当にうるさいやつだな。分かったよ。帰るよ。」


えいた君は渋々びーこに従う。


僕も二人が帰るのならば帰るしかない。




結局、男は何をしているかは分からなかった。

ただ、庭を掘り返して、庭に何かを埋めていた。

僕たちはなんだかんだで長い時間木の陰に隠れていたけれど、分かったのはそれだけだった。

というよりも、男がしていたのがそれだけだった。


「ただいまー。」


「あら、一平?おかえり。なにしてたの?」


「――え?んっと……ちょっとね。」


「そう。」


僕が家に着く頃には、外は赤い景色を暗くし始めていた。


お母さんは夕飯の支度をしてくれていて、家の外からでも美味しそうな匂いがしてきたので、家にいることはすぐに分かった。


「お兄ちゃんおかえりー!」


「ああ、ただいま。」


妹が飛びついてくる。


「お外で何してたの?」


「ふっふっふ……聞きたいか?」


「聞きたーい!」


「ええ、でもどうしよっかなー言っちゃおっかなー。」

わざと焦らしてみる。

というよりも、どう答えていいものか分からないから結果的に焦らしてしまうことになった。


「もう、イジワルしないで教えてよー!」


妹は少し怒った様子だ。


「そうだな……怪しいやつを調査してきたんだ。」

なんとか言えることだけを妹に言う。


「怪しいやつ?」


「そう、怪しいやつ。どうだ?かっこいいだろ?」


「うん、かっこいい!」

妹は目を輝かせてそんな風に答えてくれた。




「ただいまー。」

お父さんだ。


「あら、おかえりなさい。」


「ああ、ただいま。」


「もうご飯の支度ができるわ。座って待っててもらえるかしら?」


「ああ、分かった。」


それを聞き、僕も妹との何気ない会話を中断して妹を連れて、ご飯を食べるための椅子に座る。


「さぁ、お待たせ。召し上がれ。」


お母さんのオーケーサインが出る。


「それじゃあ……。」


「はい、いただきまーす。」

そんな号令と共に四人で温かい食事にありつく。




――ドンドンドン!!


僕が温かいスープを飲んでいた時だった。

誰かが家のドアを叩く音が聞こえて驚く。


お母さんが立ち上がる。


「いい、お前は座ってろ。」

お父さんがそれを止めて、自分が玄関に向かう。


お父さんが玄関の扉を開く。


よくは見えないけれど、玄関のドアを叩いたのはびーこちゃんのお父さんだと思う。

真剣に話をしているように見える。




びーこちゃんのお父さんとの話が終わり、お父さんが戻ってくる。


「なんだったの……?」

お母さんが聞く。


「ああ、ちょっとな……。今日この後外に出てくる。」


「どうかしたの?」

僕はついつい聞いてしまった。


「ああ……。」


「僕も付いて行っていい?」

なんだかお父さんの様子がおかしくて、そう聞いてしまった。


「いや……ダメだ。」


「ええ、いいじゃん。連れてってよー!」

普段ならお父さんが言うならと諦めていたけれど、今日はなぜだかもう一度聞いてしまった。


お父さんは僕の顔をじっと見る。

何かを考えているようにも見える。


「…………わかった。」

お父さんは答えた。


その顔は諦めたようにも見えたし、まるでこれはこれで丁度いいかもしれないといったように納得したような顔にも見えた。


ご飯も食べ終わり、僕は部屋でゆっくりする。

お父さんはまだ出掛ける様子はない。


「お兄ちゃーん!」

妹が座っている僕に飛びついてきて、そのまま膝の上に座る。


「どうしたんだ?」


「ううん、なんでもないけど、こうしたいと思ったのー。」

妹は、特に理由もなく甘えたかったらしい。




「…………一平、一平、行くぞ?」

お父さんの声だ。


僕は妹と何か話をしていた気もするけれど、途中で寝てしまったようでよく覚えていない。

僕のすぐ隣で妹も寝ている。


僕はお父さんの行くという言葉の意味がよく分からなかったけれど、ぼうっとした頭でなんとか考え、夕飯を食べている時に話したことを思い出した。


「うん、わかった……。」

そう答える。


「やっぱりやめておくか?」

お父さんが僕に聞く。


「ううん、行く。」


「わかった。」


僕は目をこすり起き上がる。

そのままお父さんの後を追って外に出た。




外は暗かった。


夜になったばかりとか、そろそろ朝が来そうな感じではなくて、すごく遅い時間なのが分かる。

昼間では想像もできないくらい静かで、村の中は僕たちだけしかいないのではないかと思うほどだった。


そうして静かな夜の村をしばらく歩き、目的地に着く。


そこは、例の男の家だった。

近くには他の大人たちもいる。

男の人ばかりだったけれど、少しだけ女の人もいる。


「ほら、一平お前もこれを。」


そう言ってお父さんに渡されたのはスコップだった。


「それでは、そろそろ始めようと思います。」

そう言ったのはびーこちゃんのお父さんだった。


村の人たちが十分に集まったのを確認して言ったようだ。

びーこちゃんのお父さんの声に続いて、お父さんやほかの村の人たちもおー!という声をあげて早速行動を始める。




たくさんの村の大人たちで例の男が何かを埋めた場所を掘り返し始める。


人数も多いため、あっという間に土を掘り返すことができた。

でも、そこには何かが埋まっていることはなく、ただただ荒らされた土だけが残るだけとなった。


「なにもないようですね。」

村人の誰かが言う。


「ああ、これだけ掘り返して何もないならまだ埋めていなかったのかもしれない。」


「そうですね。それならそれでよかったのではないでしょうか?」


「確かに、だが、また改めて調べる必要があるかもしれない。」


「そうですね。」


「びーこにもまた何か見かけたら伝えるように言っておきます。」


「わかりました。それではお願いします。」


「はい。」

村の大人たちは真剣な顔で何かを話し合っていたけれど、どうやら今はそんなに悪いことがあったわけではないらしい。


きっとこれは良かったんだと思う。


「それじゃあ、一平、帰るか。」


「うん。」


僕はお父さんに連れられて家に帰る。


とにかく眠かったので、家に帰ってからはすぐに眠ることができた。


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