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透過する想いと、歪曲する運命  作者: ケト
第二章 衝撃が続く運命
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18話 オリエンテーション

――目の前に立つそうのすぐ横には、もう一人、見たことの無い男子生徒が立っていた。


「想、どうしたの? 謎の球体について議論でもしたくなった?」

「アレも激しく気になったけどさ。実は、みことに紹介したいんだ。俺の、人生初の友達をな!」

「――早っ! わたしも、気になる女の子がいるんだけどね。自己紹介が思い浮かばなくて」


 想の嬉しそうな顔を見て、まるで自分のことのように嬉しく思う命。

 その友達とやらをじっと見つめると、なぜか一瞬で顔を赤くして、目を伏せた。


「……『照れる』の逆って何だと思う?」

「顔を赤くするから、『青ざめる』とかじゃないか?」

「なるほど。わたしの顔は青ざめるほどひどい、と……」


 すると、その友達は顔を上げ、何やら怪訝そうな表情をしていた。


「青ざめる? 何言ってんだよ。お前……いや、君が、その……すっげぇ可愛い、から……って、何言わせんだよ!」

「いや、あんたが勝手に――ん? 可愛い?」

「命が? ってことは……本当が見えるのか? それともお前、趣味が超絶悪いのか?」

「ちょっと想、説明してよ!」


 うぬぼれたくは無いが、自分は一般的に美少女と呼ばれる類いのようなのだ。しかも、国宝級と形容されるほどに。

 視覚をもねじ曲げてしまうため、人からは国宝級美少女の逆に見えてしまうのだが……それを、この男子は可愛いと言ったのだ。

 想の言うとおり、本当の姿が見えているのか、あるいは排泄物を可愛いと言うような、趣味の悪いやつなのか。


「彼はね、『周波数が人と異なる体質』らしいんだ」

「それ、わたしが教えられてた嘘の体質じゃん……ってことは、普通の周波数を持つ人を見聞きできない、あるいは見聞きしづらいとか?」

「声も、姿も、カメラの焦点が合わなくてぼやけるイメージなんだってさ。それは自分も、他人も。驚くことに、身に付けたモノもぼやけるんだって。一番困るのは存在感が薄いところらしいよ」

「良いなぁ。わたし、空気になりたいって、ずっと思ってたから」

「俺も、透明になりたいって……あ、それは叶ったな」

「お前ら、さっきから何を言って……こんな体質のどこが良いんだよ!」


 命にはその友達がはっきりと見えるし、声も聞こえる。

 だが、言われてみると耳栓を付けていない耳では、声の聞こえ方が薄い気がする。


「聞こえるけど……まるで、勉強に集中しているときに声をかけられたみたいな……認識しづらい見た目と声と存在ってことなのか」

「でも、よく見れば見えるし、よく聞けば聞こえるんだから。まだマシだよね」

「マシ? だから、何を言ってるんだ?」


「ちなみにあなた。わたしの声は、はっきり聞こえるの?」

「あぁ。あんたの声と、相棒の声はよく聞こえるぞ?」

「相棒って?」

「うん……この人も俺が人生初の友達らしくて。『相棒と呼ばせてくれ!』って」


 呼び方は置いておくとして。拡声機能を通した想の声がはっきりと聞こえるのはわかる。

 そして、わたしの肉声も聞こえる……しかも、ねじ曲がってもいないようだ。


「もしかすると、『周波数が合わない』がねじ曲げられて、ただ『周波数が合う』になってるってことかな?」

「そうかもな。てことは、お前の本当を見聞きできる運命的な存在なんじゃないか?」

「わたしにとっても第一運命人ってことか……わたし、あの女の子の方が良かったなぁ。ところでさ、この『薄井うすいくん』て、どこの誰なわけ?」


 くりっとした目と大きい口はいつもニヤけている印象を受ける、想の友達。

 何かやらかしそうだけど、どこか憎めない。そんな見た目と雰囲気の、でもその他は特徴の無い男子だった。


「同じクラスの薄井くん。名前と体質以外はまだ知らないんだ」

「ふ-ん。よくそれで友達になれたね」


 その見た目から存在感が桁外れな想は、彼にとって、あらゆる焦点が合うのだろう。

 一方で、事実を見聞きできる想は、周波数など関係無くはっきりと見聞きできる。

 どちらかというと強い運命を感じたのは彼の方かもしれない。


「あのさ、勝手に薄井くんとか呼ばないでくれよな。俺、名前だけは薄くないんだ」

「あ、ごめん。じゃあ、本当の名前は?」

「おぉ。俺は、い……」

「あ、もうオリエンテーション開始の五分前だよ? 教室戻った方が良いね」

「俺、タイミングも絶妙にずれてるんだよな……」


 そう嘆く彼の肩を叩くと、二人は一緒に教室を出て行った。




――「では、オリエンテーションを始めます。まず初めに『学校生活のこと』を説明します」


 モニターの前に立つのは、先ほどと同じ、担任の先生と思われる男性。

 成人男性の平均身長よりも少し低めであろうその男性は、おそらく、父と同い年くらいだろうか。

 だが、一見すると少女にも見える童顔で、その表情からは一切の感情を感じ取ることができない。


 まだ何も説明が始まっていないのだが、教室はいきなりざわつき始めていた。


 『え? この人、担任だよね?』『自己紹介まで名乗りもしないつもりか?』『実は、本当の担任は球体だったりして?』

 主に男子が、思い思いの疑問を口にしていた。


「あぁ、失礼しました。わたしが誰か気になりますよね?」


 教室のざわつきが一瞬で止むと、先生は続けた。


「一年壱クラスの先生です。よろしくお願いいたします。それでは……」

「先生! お名前とかは教えていただけないのでしょうか?」


 先生の発言に、堪らず一人の生徒が質問をした。それは、枕投げジ・エンドの蓮だった。

 『ナイス! ジ・エンド!』

 教室内の誰もがジ・エンドを支持した瞬間だった。


「わたしのことは『先生』と呼んでください。それ以上の情報は不要だと思われますが?」

「でも……もしも先生が複数名集まっていたら、どの先生を呼んだかわからなくなってしまいますよね?」


 食い下がるジ・エンド。


「みなさんの顔と声で、わたしはわかりますよ? でも、そうですね。そんなときは『一年壱クラスの先生』と呼んでください。では、この話はこれでジ・エンドです」


 まるで機械のように一切の抑揚が無い先生だが、ユーモアはあるらしい。

 ジ・エンドも、グループ名を使ってもらえたからか、どこか満足げな表情で枕投げ……ではなく質問を終えた。



「では、説明を始めます」


 先生から説明のあった『学校生活のこと』。

 教室内は終始ざわついていた。


 まず、この高校の校則はたった一つ、『高校の情報を一切口外しないこと』それだけだった。

 これまで都市伝説としか知られていないのも、長い間、誰もがこの校則を守ってきたからなのだろう。

 もしも破ったのなら、学校だけでなく日本からも追放されるかもしれない。

 その瞬間、誰もがお口チャックスキルの習得を誓った。


 その他、どこの学校でも普通にあると思われる『学級委員』『生徒会』などの役割が、この高校には存在しないこと。

 体育が無く、代わりに自主的運動の義務が課せられること。

 恋愛、アルバイト、社会勉強はどうぞご自由に、とのこと。

 そして、年に二度の全国模試でクラス最下位となった生徒は、問答無用で転校させられること。つまり、年に二回、一学年で三人ずつ、生徒の転出入があるらしいのだ。


 かなりの大事おおごとが先生から機械的に説明された。

 生徒からの活発な質疑を含めても、その時間は予定どおり二十分で終わった。




「それでは、自己紹介に移ります。みなさん、やけに長く時間を取っていると感じたことでしょう。おそらく、みなさんがイメージしているやり方とは異なりますので……まずは、わたしが見本を示しましょう」


 一年壱クラスの先生、という情報以外のことを教えてくれるのだろうか。

 そもそも、普通とは異なる自己紹介とは何なのか。教室内はザワザワした後に静まり返った。


 先生が大型モニターにタッチすると、そこには先生の写真が大きく映し出された。

 今よりずっと若い頃の先生が、真っ白いスーツを着て立っている。そしてその傍らには、超絶美人な女性が豪華なドレスを着て先生と腕を組んでいた。

 『これ、結婚式の写真じゃないか!?』『先生、幸せそうに笑ってるぞ?』『やーん、先生、美少年じゃん!』『奥さんめちゃくちゃ美人だぞ!?』


 教室内が大きくざわついた。誰もが、目の前の機械のような男性と、幸せそうに満面の笑みを浮かべた男性とを見比べていた。

 一番前の男子生徒は、二人の姿を何往復もして、首を痛めたようだ。

 

 そして、その写真の左横には自己紹介が表示されていた。

 『氏名:一年壱クラスの先生』『趣味:人間観察』『特技:記憶すること』『好きな女性のタイプ:妻』『楽しかった思い出:高校一年生のときの女装バーベキュー』『死にかけた思い出:妻が原因で鼻から一リットルの出血をしたとき』


「こんな感じです。プレゼンのようなものですね。何か質問はありますか?」


 静寂のすぐ後に、またも爆発するようにざわついた。

 『自己紹介スライドが表示されるってことか!?』『俺、こんな紹介文書いた覚え無いぞ?』『写真だって撮ってないよ?』『ていうか、女装バーベキューってなんだ?』『奥さんが原因の鼻血も気になるな』

 誰も手を挙げずに、思い思いの疑問を口にしていた。


「はい。では、ざわざわ質問に答えましょう。まず、紹介文と写真ですが。今回、みなさんを最もよく知る人物に提供してもらいました。ご両親、あるいはおじいさま、おばあさま。あるいは近所の八百屋のご主人などなど」


 『全然知らなかったぞ?』『そう言えば最近、写真撮る機会が多かったような……』『八百屋の主人? 両親を上回る事情通でもいるのか?』


「モニターに表示されたら、その場に起立してください。写真と紹介文を表示していきます。情報量は人それぞれで、三分かかる方もいれば、十秒で終わってしまう方もいます。持ち時間は三分としますので、残りの時間は質問に充てます。では、早速一人目から……」

「先生!」


 またもやジ・エンドが挙手をした。どうやら活発な性格のようだ。


「はい、不動堂ふどうどうくん」

「先生の自己紹介に質問してもよろしいでしょうか?」


 『たしかに気になるぞ?』『不要な情報って言われて終わりそうだけどな』『ていうか、蓮の名字って不動堂なんだな』


「良いでしょう」


 『良いんかい!』全員の思い(つっこみ)が一致した瞬間だった。


「じゃ、じゃあ。まずは女装……」

「女装バーベキューとはその名の通り、女装をしてバーベキューをしたものです。ちなみにわたしは、女騎士の格好をしました。マントがウエディングドレス風でとても素敵でしたね。なぜ女装をしたのか、それは話すと長くなりますが……友達との間では隠し事無く、さらには新たなる一面を発見するため、とでも言っておきましょうか」


 『女騎士か……先生の見た目ならあり寄りのありだな』『わたし、その写真も見たい!』


「次に、鼻血の件です。断言しますが、わたしは『ど健全な男子』です。ということで、あとはご想像にお任せします。これで、あなたの投げる予定だったしつもんは全てでしょうか?」


 ジ・エンドが頷くのを見ると、


「では、五十音順に進めます」


 先生はまたもモニターにタッチし、一人目の生徒の自己紹介を表示させた。


 何やらにやけた表情の男子生徒の写真に、紹介文は『氏名:稲葉いなば士朗しろう』とだけ表示されていた。

 一人目は、想の人生初の友達だった。

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