表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/134

#099

「俺はここで待ってるから、皆で持って行ってあげて。」


 楓はペットボトルが大量に入った袋を渡しました。楓が3袋、沙織が2袋で合計5袋に分けてあり、それぞれに持つことが出来ます。

 彩音が手にした袋を開いて中を確認します。


「普通のスポーツドリンクだよ。」


「……スポーツドリンク?」


「体液に近い成分の成分で作られていて、運動した時の水分補給に適した飲み物だよ。」


 楓は抵抗なく説明を加えてくれます。彩音たちも運動はしますが、用意された飲み物を口にするだけで詳しくは知りませんでした。


「……冷やしていなくても大丈夫なのですか?」


「あまり冷た過ぎない方がいい。今日はそれほど暑くないから、ちょうどいいんじゃなかな。」


 彩音は、手に持っている袋と保冷トラックの差に戸惑っていました。保冷トラックで用意されていた物も飲み物だったのですが、規模が大きく違っていました。


「あんなトラックで振舞うよりも、九条さんたちが直接手渡しすることに意味があるんだ。『頑張れ』とか言って、気持ちを込めることに価値がある。」


「……手渡しすることに意味があるんですか?」


「そうですわ。お一人お一人に手渡しすることで、彩音さんの気持ちが伝わるんです。」


「そういうものなのですね。」


 沙織が優しい笑顔で言ってくれた後、彩音は袋の中にあるペットボトルに視線を落としました。すると、頭の中に話し声が聞こえてきます。


『ソフィア様のされていることって形ばかりで、お気持ちが全然込められていませんわ。』


『ほら、ソフィア様はあちらにお座りのままです。執事に届けさせて終わりなんて、私たちのことをバカにしているんです。』


 彩音は慌ててキョロキョロと周囲を見回しました。青ざめた顔色で突然の行動に、皆は何が起こったのか分からずに驚いていました。


「……どうかされましたか?」


 澪と悠花が心配して彩音に声をかけてきました。この二人には聞こえていなかったことになります。


「彩音さん、大丈夫ですか?」


 沙織も不安げな様子で彩音を見ていました。


「……バカになどしていませんでした。……私は知らなかったのです。ただ知らなかっただけなのです。」


「えっ!?」


 脈絡のない話になってしまい、周囲は困惑していました。沙織も何の話なのか理解が追いついていません。

 彩音だけに聞こえていた会話では『ソフィア』と呼ばれていました。ソフィアだった時に言われていた陰口が、頭の中に響いていたのです。


 彩音は、鼓動が早くなり、息苦しさを感じていました。急に襲ってきた不安と向き合うことが出来ていな状態です。

 すると、沙織が彩音の手を握ってきました。


「……大丈夫です。……ちゃんと分かっております。」


 沙織が優しく言ってくれます。

 そして、澪、悠花、千和も寄り添ってくれていました。


「九条さんに知らないことが多いなんて、今更言わなくても分かってることなんだから、そんなに怯えなくても大丈夫だって。」


「えっ、そ、そんなつもりで言ったわけではありませんよ、彩音様。……楓さん、変なことを言わないでください。」


 雰囲気を台無しにしたことで、楓は皆から睨まれてしまいました。


「違うのか?」


「も、もちろんです……。そ、そんなことは、思っておりませんわ。」


「その割には、動揺してるみたいだけど?」


「動揺なんてしておりません!」


 沙織は楓に反論した瞬間、『あれ?』という顔を見せます。このやり取りに何かを感じている様子でした。


 それでも、彩音は今の自分がソフィアとは違うことが実感できていました。周りには間違いを正してくれる人がいてくれて、支えてくれる人もいる。


――あなたが歩けなかった道を、私は必ず歩いてみせます。


 彩音は気持ちを落ち着けることが出来ました。


「……沙織さん、ありがとうございます。……ですが、彩音『様』とお呼びになっておりましたわよ。」


「あっ!」


 思わず呼んでしまっていたことに気付きました。そのことを聞き逃していなかった彩音に皆は驚いてしまいます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ