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#097

「これがお金の代わりになってるから、切符は必要ないんだ。」


 珍しそうにカードを凝視していたかと思えば、今度は怒った顔になってしまいました。


「……これが良かったです。」


「言うと思った。でも、順番があるから、こっちは次だな。」


 これで終わりではなく、『上り』と『下り』の区分から種別で停車駅が違うこと、電光掲示板の見方の説明が続きます。

 いつの間にか小さな子どもたちが一緒になって楓の話を聞いていました。楓が丁寧に説明してくれているので、お母さんたちが便乗してしまいます。


「……あとは、慣れるしかないな。とりあえず、これだけ知っておけば何とかなるだろ?」


 待ち合わせ時間には余裕を持って出発していたが、このままだと遅刻してしまうかもしれないので切り上げることになりました。


「はい。まだ私たちだけでは難しいことが分かりました。」


「そうですわね。きっと迷子になると思います。」


「予想以上に複雑でしたので、今日一日では覚えきれません。」


 お嬢様らしく、余裕たっぷりの態度で諦めてしまいます。今までの時間でも楓は疲れてしまうくらいに説明していました。


「……そんなことを言ってると、紅葉に笑われるぞ。」


 紅葉は電車に乗って九条邸まで来ていたので、一人でも電車に乗れることの証明は終わっていました。


「わたし、笑ったりしないよ!」


 三人は紅葉を囲んで楓に向き合っていました。妹にも裏切られてしまった楓は、それ以上の反論が許されなくなってしまいます。

 ただ、トラブル続きだった中では、こんな時間も悪くありません。



「あっ、彩音さ……ん、おはようございます。」


「申し訳ございません。お待たせしてしまいましたか?」


 歩いてい近付いてきた三人を千和と沙織が見つけました。躊躇いがちな『さん』付けには不慣れな感じがしています。


「本当に電車に乗って来られたんですか?」


「ええ、もちろんですわ。大変勉強になりました。」


 満足気な表情の女性陣とは違い、楓は疲れた様子を見せていました。千和が小声で楓に『お疲れ様です。』と声をかけます。


「あっ、差し入れを買ってくるのを忘れてしまいました。」


「いいよ。俺が買いに行ってくるから、皆は応援してて。……紅葉も見ててくれると助かる。」


 楓は、わざと買いに寄りませんでした。この状況でコンビニ買い物講習までしていては体力が持ちません。


「そんな、お一人では大変です。私もご一緒させていただきますわ。」


 彩音が力強く宣言しましたが、一人で行くよりも大変なことになってしまいます。例え持ちきれない量になって、二度足を運ぶことになっても拒否したくなります。


「いや、一人で大丈夫。……それよりも、陸上部って何人いるんだ?」


「……えっと、30人くらいは在籍しているはずです。」


 生徒会会長として、真面目に部の活動内容も把握している沙織が即座に答えてくれました。


「結構いるな。……まぁ、いいか。」


「あの、わたしがご一緒しましょうか?……コンビニの場所も分かっていますし、少しご相談したいこともあるので。」


 沙織の突然の申し出には驚きました。楓との対面は2回目ですが、彩音たちも驚いた顔をしており、何を相談したいのか知っている様子はありません。


「俺に相談?」


「はい。あれから理事長も学園に出てこなくなって、生徒会で検討していることがあるんです。そのことでお聞きしたいことがあるんです。」


「ふーん、別に構わないけど……。倉本さんは、コンビニで買い物したことはある?」


「フフッ、大丈夫です。普通に何度もありますわ。」


「じゃぁ、行こうか。」


 彩音はムッとしていました。沙織の相談事も気にはなりましたが、楓があっさりと沙織の同行を認めてしまったのです。

 もちろん楓に他意はありませんでしたが、彩音は断られてしまっているので納得いきませんでした。

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