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#095

「楓様。こちら、差し入れをご購入される際にお使いくださいませ。」


「えっ!?……楓様って?止めてくださいよ。そんな呼び方。」


 タエは封筒を楓に差し出したまま、何も言い返すことはありませんでした。

 彩音たちの財布に現金を多く入れたままにしたり、保冷トラックを目立つところに配置したことが、わざと楓は気付きました。


「……俺は、考えを変えるつもりはありませんからね。」


「正当な働きには、相応の報酬が与えられるものだ。」


「働いているつもりはありません。友人のために、俺が出来ることをしているだけです。」


「それでも気が変わったら、いつでも言ってくれよ。」


「……理由がありません。」


「理由ならあるさ。」


「えっ!?」


「わたしは楓君と知り合ってしまったんだ。知らなければ、何も動き出すことはなかった。この機会をお互い逃してしまうのは、もったいないと思わないか?」


「…………そろそろ出発します。」


 楓は、彩音たちに声をかけて出発することにしました。浩太郎と話していると気持ちが揺らいでしまい、楓の決心が鈍りそうになりました。


「それでは、気を取り直して出発しましょう!」


「それは俺のセリフだよ。」


 駅まで歩いて行き、そこからは電車移動となります。

 九条家、鳴川家、仲里家、それぞれのご令嬢が徒歩で駅に向かう姿が貴重な場面だったのかもしれませんが、それなりに注目を集めていました。


 日傘を差して優雅に歩く三人を見て、感動して目頭を押させているお婆ちゃんまでいます。


「……やっぱり、この辺では有名人なんだな。でも、大袈裟過ぎないか?」


「あら、昔はよく三人でお散歩をしたりもしていたんですよ。」


「散歩?……この三人で?」


「はい。ですから、その頃のことを覚えてくださっているのかもしれませんね。」


「……何かあったのか?」


「お散歩の途中で、誘拐されかけてしまったんです。」


「誘拐!?」


 『されかけた』のであれば誘拐未遂ではありますが、大事件でした。楓は身近な人物で、そんな経験をしている友人はいません。


「はい。大きな事件として扱われたので、それからは外で自由に遊ぶことは禁止になってしまいました。こんな風に私たちだけでお出かけするのも久しぶりなんです。」


「はぁ、大変だったんだな。」


「ですが、楓さんもおっしゃっていましたけど、それぞれに苦労があるものだと知りましたから、平気ですわ。」


 彩音たち三人は面々の笑顔で楓に言いました。

 それは、楓が浩太郎から信頼されて外出を任されたことの証明であり、無言のプレッシャーになっています。


 彩音は紅葉と手をつないであるいていましたが、時折すれ違う人と挨拶を交わしたり、澪や悠花も笑顔で挨拶をしたりして楽しそうにしていました。

 周辺住人が、三人に対して好意的に接してくれていることが分かります。


「……まぁ、ズレたのは本人だけの責任じゃなくて、過去に起こったことが原因でもあったわけだ。」


「『?』……何かおっしゃいましたか?」


「いや、楽しそうで何よりだよ。」


 彩音は、首を傾げながら『ありがとうございます。』とだけ答えました。

 ここまでは平和な時間で問題なく過ごせていましたが、駅に到着してからが楓の仕事となります。


「……切符の買い方って、知ってる?」


 三人は同時に首を横に振ります。横一列に並んで、それぞれに興味を持ったものをキョロキョロと見回していました。


「路線図の見方と料金表って、知ってる?」


 当然知るはずがありませんでした。楓は、紅葉に電車の乗り方を教えた時のことを思い出しています。

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