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#082

 まるでソフィアの最期を知っていて、彩音が同じ道を進まないように抗っていることを知っているような言葉でした。


――楓さんは、私たちの前世のことも分かっているんでしょうか?


 そして、このことを伝えるために楓は来たと言っています。彩音は、楓の言葉に込められた意味を考えていました。


「……あの、楓さんは、どこまでのことを……。」


 そこで彩音の部屋をノックする音が割り込んできて、彩音の質問は途切れてしまいます。質問を遮ったのは浩太郎でした。


「楓君が来ていると聞いたんだが、少しいいかな?」


「あっ、はい。どうぞ。」


 浩太郎が話したかったのは楓です。

 彩音の部屋に入ってしまっていることを注意されるかもしれないと考えて、楓は少し身構えてしまいました。


「おぉ、良かった。ちょうど楓君に連絡をしようと思っていたんだ。」


「……何かありましたか?」


「すまないが、あの理事長が来る日、楓君にも同席してもらいたいんだよ。……いいかな?」


「えっ!?……俺も一緒にですか?」


 楓は予想外の提案に驚いていましたが、浩太郎は『そうだ。』といって笑顔を見せていました。

 ついさっきまで理事長のことを話していたので、修学旅行の件であることは間違いありませんが、楓が同席する必要性が全く理解出来ません。


「でも、俺がいる意味があるんですか?……以前怒らせてるから、あの理事長には嫌われてると思いますよ。」


「あの理事長に好かれる必要などないよ。それに楓君が同席する意味はあると私は考えている。」


「はぁ、社長がそう言うのなら、俺は別に構いませんけど……。」


 楓は浩太郎に答えながら、彩音を見ます。

 彩音が同意しているか確認したかったのですが、もちろん反対することはなく頷くことで意思表示をしていました。


「では、決まりだな。日時は彩音に聞いておいてくれ。……ジャマをして悪かったね。帰りは車で送らせるから、ゆっくりしていってくれ。」


 彩音と楓は、それまで話していた内容を忘れてしまったかのように茫然としています。そして、部屋から出て行こうとする浩太郎は立ち止まって振り返りました。


「……楓君が言っていたことが役に立ったよ。ありがとう。」


 自分の用事を済ませた浩太郎は、それだけを言い残して戻って行きました。



「……相変わらず強引な父で申し訳ございません。」


「いや、それは構わないけど、何で俺が一緒にいる必要があるのか分からないから気になるね。」


「それは、私も気になります。」


「俺の言葉が、社長の役に立ったらしいけど……。」


「楓さんにお心当たりはないのですか?」


「……ない。」


 浩太郎は一時的に帰宅していただけらしく、すぐに再び出かけて行ったらしく質問することもできません。浩太郎の登場前後で二人の雰囲気はすっかり変わってしまいました。


「まぁ、あまり悩んでも仕方ないってことだ。」


「はい。」


 彩音も楓に聞きたかったことがあったはずですが、気が抜けてしまって忘れています。

 楓との話や浩太郎の登場で慌ただしく過ぎていく時間でしたが、彩音は自分に味方してくれる存在を実感できています。前世から一緒だった悠花と澪もいてくれ、千和や渉美とも友達になれています。因縁があったかもしれない倉本沙織も、敵対することはありませんでした。


――悪く考えることばかりではダメですね。……今は、こんなにもお味方くださる人がいるんですから!


 立ち止まることなく進んで行くことで、彩音の状況は変化しているはずなのです。

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