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#076

「私って、嫌な人間に見えているんでしょうか?」


「はぁ?突然どうした?」


「……申し訳ありません。……少し気になってしまいました。」


 処刑されるソフィアを見て歓喜していた人たち。前世の記憶と結びつける時、その人たちの中に楓がいなかったことは否定できませんでした。


「父も強引で、楓さんはご迷惑ではありませんか?」


「迷惑に思ってるのなら、ちゃんと断ってる。……強引なのは間違いないけどね。でも、気にすることじゃない。」


「私、知らなかったんです。こういう生活が普通だと思っていて、周りを見ることなんてありませんでした。楓さんには、ズレてるって言われてしまいましたけど、何がズレているのか分かっていなくて……。」


「俺が高校に行かないで、働きたがってることを気にしているのなら、それは九条さんには関係のない話だよ。」


「ですが、楓さんには、私が何の苦労も知らないバカ女に見えてるんじゃありませんか?」


「『バカ女』って、珍しく口が悪いね?……俺だって、別に苦労してることはないよ。」


 彩音は少しだけ感情的になっています。普段使わないような言葉で話をしてしまっていました。そのことを楓に指摘されても構わないと思っています。


「……ですが、私は父のおかげで苦労することもなく贅沢な暮らしをしています。そんなのって、嫌味なだけなんですよね?」


「俺は、別に嫌味だなんて思っていないよ。……あれだけの会社の社長が贅沢をしてない方が困るんだから。」


「……困るんですか?」


「当り前だろ?世の中は贅沢をしてくれる人がいるから成立してるんだ。それに『父親のおかげ』って思っている九条さんを嫌味な人間と思うこともない。」


 楓も珍しく彩音の目を真っ直ぐに見て話をしていました。いつもは恥ずかしがって目を逸らしてしまうことも多かったのですが、嘘偽りのないことを伝えるためです。


「それと、九条さんは勘違いをしてる。」


「勘違いですか?……私の勘違いって、何でしょうか?」


「俺は、自分の両親を尊敬しているし、紅葉がいてくれることにも感謝してるんだ。……苦労しているとは思っていない。」


「あっ。」


 彩音は、楓が『苦労している』と思うことの方が失礼だったことに気が付きました。無意識に上から目線で話をしていたのかもしれません。


「ごめんなさい。……そんなつもりではなかったんです。」


「分かってるよ。心配してくれたんだろ?」


「余計なこと、なんですよね?」


「余計なことだとも思っていない。気にしすぎだ。」


 自分の価値観でしか考えていなかったことを思い知らされました。彩音は楓を不遇な存在にしてしまったことになります。


「まぁ、確かに親は選べないとかで不幸になる人もいるけど、俺は違う。社長も強引ではあるけど、俺も楽しんでる。九条さんはズレてると思ってるけど、嫌味とは思っていない。」


「……ズレてることは否定してくれないんですね。」


「自分でもズレてることには気付いているだろ?……そのズレを修正しようとして頑張ってもいる。」


「まだ全然ダメですけど。今回も楓さんに失礼なことを言ってしまいました。」


「気にしてないって。」


 そう言って楓は少し笑っていました。彩音も『頑張っている』と認めてもらえたことが嬉しくて、笑顔を見せることができました。

 そして、和んだ雰囲気の中で楓はポツリと呟きました。


「……俺も、間違えないように頑張らないとな。」


「えっ?何かおっしゃいましたか?」


 聞き返した彩音に、『何でもないよ』とだけ残して楓は浩太郎の部屋に向かいました。

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