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#054

「……申し訳ございませんでした。父と二人きりで窮屈な時間になってしまいましたか?」


 浩太郎に電話が入ったタイミングで、楓は一旦解放されることになりました。千和と話したかったことも話せたていたので、それぞれにお茶を飲みながらの会話を楽しんでいます。


「まぁ、窮屈ではなかったけど、何を話せばいいのか……。困る状況ではあった。……でも、貴重な経験を出来たと思うことにするよ。」


「貴重な経験になるんですか?」


「そうなるだろうね。こんな大企業の社長と直接話をすることなんて、もう二度とない経験かもしれない。」


 彩音にとっては寂しい言葉に感じました。そして、『二度とない』ことになってしまっては困るのです。


「……紅葉も、あんなドレスを着ることが出来て良い思い出になったと思う。本当にありがとう。」


「そんな……、思い出なんて言い方しないでください。それに、これからも相談に乗っていただければ嬉しいのですが、他の学校のこともお聞きしたいですし……。ダメでしょうか?」


「他の学校のこと?九条さんたちには別に必要ないことだろ?……有益な情報なんて、俺も持ってないよ。」


「そんなことありませんわ。いろいろなことを知っていきたいと思っているだけなんです。」


「……例えば?」


「私たちの通っている学園は受験がないので、勉強の進み具合も知りたいです。……あとは、学校でどんな過ごし方をされているのかも教えていただきたいです。」


「そんなこと?」


 確かに『そんなこと』程度の内容でした。それでも、彩音たちにとっては今の生活が全てであり、他の学校のことも知りたいと考えていました。


「……でも、それなら俺が役に立てることは少ないと思うよ。俺も受験はしないから。」


 楓が通っている学校のことは知らなかったので、受験がないのであればエスカレーター式の学校なのかと考えてしまいました。もしかしたら、推薦入学の可能性もあります。

 彩音が何を考えているのかを察して、楓は話を続けました。


「高校には行かないんだ。」


 ここまで聞かされても、彩音には理解出来ていませんでした。自分の知識を総動員して楓の言葉の行き着く先を予想しますが、結論に辿り着けません。

 悩んでいる彩音を見て、楓は笑いながら教えます。


「……高校に行かずに、働こうと思ってる。」


 その答えは全く予想していないものでした。

 彩音は中学を卒業すれば、高校へ行くものだと当然のように考えていました。その考え自体がズレていることになるのかもしれません。


「えっと……、あの……、高校には行かないのですか?」


「そうだね。」


 悲観的に受け止められないように、楓は明るく話しました。

 彩音の誕生日パーティーで会った時も、楓は母親の代わりに働くために来ていたことを彩音は思い出しています。


「……だから、九条さんの相談相手については丁重にお断りさせてもらう。」


「あ……、はい。」


 それ以上、何を言えばいいのか分からなくなっていました。

 素直に応じてしまうような返事はしないで、これからも楓と話せるようにするつもりでしたが、突然のことに彩音は『はい』と言ってしまいます。

 いろいろな答えを想定して、対応できるように準備してきましたが、『行かない』選択肢はありませんでした。

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