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#048

 そんな和やかなはずの会話を不思議そうに千和が眺めています。

 悠花と澪は、彩音のご機嫌取りが最優先で意見することなどないと思っていました。対等な会話をしていることが不思議で仕方ありません。


 そして、この場にお茶会の参加者が全て揃ったことになりますが、まだ紹介をされていない人物が二名残っていました。

 一人は赤いドレスを着た小学生の女の子。一人は同い年くらいの男の子。どちらも全く面識がありません。会話を聞いていると、この二人が兄妹であることは何となく分かりましたが関係性が読めません。


「……あの、彩音様……。こちらの方たちは……。」


 会話に割り込むことも躊躇われましたが、このままでは増々混乱するだけになってしまいます。


「あっ、そうですわね。申し訳ございませんでした。……こちらのお二人は私の…………友人ですわ。」


 彩音が『友人』と発するまで少し間がありました。

 出会ってから今日までの時間や、様々な状況を鑑みて『友人』と呼ぶことが適切なのか迷っていた時間です。

 ただ、学園の子たちを『友人』と呼ぶ気持ちと隔たりがあります。それを表現したい願望と気恥ずかしさも混じってしまい、抑えた呼び方にはしています。


「……はぁ。」


 千和の頭の中では想像していた彩音と、目の前で起こっていることの補正作業でフル稼働しています。


「こちらは水瀬紅葉さん……、こちらは紅葉さんのお兄さんで水瀬楓さん。」


「……水瀬紅葉です。……はじめまして。」


「あっ、はい。瀧内千和です。……はじめまして、よろしくお願いします。」


 ペコっと可愛らしく頭を下げて自己紹介をする紅葉に、千和も慌てて挨拶を返しました。


「水瀬楓です。……よろしく。」


「瀧内千和です。こちらこそ、よろしくお願いいたします。」


 綺麗なドレスを着ている紅葉とは違って、楓は完全な普段着です。失礼な考えだと分かっていても、楓が彩音と友人であることが千和には信じられませんでした。


「俺みたいなのが、こんなところにいるのが意外なんだろ?」


「えっ!?……いえ、そんなことはありません。」


「いいよ、俺自身が、どうしてココにいるのか一番悩んでるんだから。一応、妹の付き添いだから気にしないで。」


 彩音は、楓と千和の会話を不思議そうな顔で聞いていました。それでも裁縫の苦労が報われて、紅葉からも『お姉ちゃん、ありがとう。』を言われてしまい、嬉しさを隠すことができていません。


「……どうして、楓さんがいることが意外なんですの?」


「えっ?そう考えるのが普通なんだ。瀧内さんが意外と思うのは正解ってこと。」


「それは、気付けない私がズレているとおっしゃりたいのですか?」


「……いいえ、違います。」


 皆が揃うまでの間、楓は浩太郎の話し相手をさせられていました。『父もお話をしたいみたいなので……。』と彩音から言われて拒否することも出来ず、楓は浩太郎と知世と向かい合わせに座らされることになりました。

 楓は、その様子を眺めていた彩音の不敵な笑みで、『ズレている』と言われたことの報復をされたのだと感じていました。


「楓さんは本日のお客様なんですから、付き添いではありません。……意外なことはないじゃないですか?」


「そうかもしれないけど、この場に男がいることも意外だろうし、俺の着てる物もコレだからね、瀧内さんは驚いてるんだ。」


「でしたら、楓さんも着替えますか?」


「いや、それも違う。」


 彩音と楓の噛み合わない会話を聞いていた千和が思わず笑ってしまいました。同時に、今までの彩音像が少しだけ崩れていく音も聞こえています。


――ちゃんと、お話をしてみないと……。


 緊張感は薄れていき、彩音から声がかかります。


「さぁ、お茶を飲みながら、ゆっくりお話をしたりする会ですので楽しく過ごしましょう。」


「はい、ありがとうございます。」


 千和も穏やかな気持ちで応じることが出来ました。

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