表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/134

#047

「彩音お嬢様、悠花様と澪様がご到着されました。」


 タエが彩音に近付き、そっと耳打ちをします。

 彩音にとっては本日の最重要事項となっている結果発表の時間がやってきました。

 かなりの時間を費やして彩音が手を加えたドレスを紅葉が選んでくれたのか、緊張の一瞬です。


 やって来るであろう方向を見て、祈るように胸の前で手を組みます。自信はありましたが、紅葉の好みまではリサーチしていません。


――あっ、赤ですわ!!


 ピンクと黄色のドレスの間に真っ赤なドレス姿を発見して、彩音は飛び上がりそうなくらいに嬉しくなっていました。少し照れくさそうに歩いて来る姿に、可愛い以外の表現が見つかりません。


「まぁ、可愛らしいお客様!」


 最初に声を出して反応したのは、知世でした。


「すごくお似合いですよ。……彩音が着ていた時よりも、似合っていると思いますわ。」


「あの時の彩音は緊張して表情が強張っていたから、可愛いと言うよりも凛々しい感じだったな。」


 彩音のドレスであることを記憶してくれていたことは嬉しかったですが、素直に喜びにくい表現をします。

 千和との会話や紅葉のドレス、最高の結果を得られていますが、流れ弾がよく当たる日になっていました。


「本当に、よくお似合いですわ。……楓さんも、そう思いませんか?」


「あぁ、本当によく似合ってる。」


 彩音と楓にも褒められてしまい、紅葉の顔はドレスと同じくらいに赤く染まってしまいます。


――今日は、本当に最高の一日ですわね。



 ただ、この時点で悠花と澪が言葉を発していないことが気になってしまいます。紅葉を見るために下げていた目線を、少しだけ上にあげて二人を見ました。


「……あのぅ、悠花さん?澪さん?……怒っていらっしゃるのですか?」


 珍しく憮然としている二人に彩音は驚かされました。

 すると、澪が彩音の前に写真を差し出します。


「えっ?……これは、このドレスを私が着ていた時の写真?」


「はい、彩音様がピアノの発表会で演奏する前を撮ったものです。」


 こんな物を持っていたことも驚かされましたが、写真を見せられたことの真意が分かっていません。


「悠花さんとも意見が合いましたが、今回の件で彩音様の不正行為が発覚いたしました。」


「……私の不正行為……、でしょうか?」


 不穏当な言葉です。

 ただ、彩音には心当たりもあるので否定することが出来ません。


「はい。紅葉さんは迷うことなく彩音様のドレスをお選びになりました。……それは、悠花さんも私も素直に負けを認めるべきことだと思っておりましたわ。」


「ええ……、ですが、あまりにも紅葉さんのお体にピッタリなんです。不自然ではないでしょうか?」


「それで私の記録から同じドレスのお写真を探して、比べてみたんです。」


「明らかに手直しをされた形跡が見つかりました。」


 ドレスのサイズだけではなく、ちょっとした飾りも紅葉に似合うように変えたりしていました。まさか当時の写真を持っていて、証拠とされることまでは予想していませんでした。


「……あのぅ……、申し訳ございませんでした……。」


 完全敗北を認める形になった謝罪を受けて、悠花と澪は笑っていました。二人も本気で彩音を責めるつもりはありません。

 こんな反応を見せてしまう彩音を見て楽しんでいるというところになります。


「本当は彩音様からドレスを預かった時に分かっておりました。」


「えっ?そうだったんですか?……ですが、どうしてお分かりになったんです?」


「……縫い目が曲がっておりましたわ。」


 澪に指摘されてしまい、彩音は恥ずかしくなってしまいます。

 短期間でかなり上達したとは言え、どうしても細かな点は誤魔化すことができませんでした。

 プロの仕立てた物ばかりを身につけている中で、曲がった縫い目は分かり易い証拠になっていました。


「彩音様が紅葉さんのためにお裁縫をされている場面を想像してしまいましたわ。」


 悠花がうっとりとした表情で語りながら、紅葉を見ていました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ