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#021

「……事前の連絡もなしに何の用なんだ?……まぁ、来てしまっているのなら仕方がない。」


 浩太郎は本当に渋々といった感じで、メイドに指示を与えました。理事長との会話を簡単に済ませるつもりで、浩太郎は帰るつもりでいた楓たちと一緒にエントランスに向かいました。


 歩ている途中、知世が浩太郎に耳打ちするように話しかけていました。浩太郎も頷きながら、知世の話を聞いています。

 彩音は、これで楓との接点を失ってしまうことの焦りと、生徒の家まで押しかけてくる理事長への苛立ちで冷静に思案することが出来ていませんでした。


「……学園の行事以外で理事長とお会いするのは、初めてかもしれませんね?」


「ええ、お顔も思い出せないくらいですもの。」


 澪と悠花は呑気に笑いながら歩いていました。廊下で話をしていた時、彩音が素直に切り出せていれば会話に混ざることができていたかもしれません。


「……それじゃぁ、俺たちは帰るよ。」


 一階の吹き抜けになっているエントランスで、楓が彩音たちに声をかけました。紅葉は『バイバイ』と手を振っています。

 メイドたちが扉を開けて、いよいよとなりました。


「あっ、ちょっとだけ待っていてくれないか?」


 そこで帰ろうとする楓たちに待ったをかけたのは浩太郎でした。楓たちは帰ろうとするたびに止められてしまうので困惑気味になっています。

 すると、開けられた扉から一人の女性が入ってきました。


 真っ赤なスーツを着た細身の女性で、後ろにはスーツ姿の若い男性を従えています。聖ユトゥルナ女学園の理事長である井戸川三弥子でした。

 年齢非公開ではあり、派手な化粧で誤魔化してはいても老いを隠すことは出来ません。おそらく還暦は過ぎているでしょう。


「……ミケーラ学園長……?」


 澪が囁きましたが、彩音も悠花も驚いています。

 久しぶりに見た顔から三人が同時に思い出せた名前は、前世で通っていた魔法学園の学園長ミケーラ・オルドーイの物だったのです。


 近くにいた楓は、澪が囁いた名前を聞いて不思議に感じていました。聖ユトゥルナ女学園と聞いていたので、理事長も外国人だと勘違いすることになりました。


「お休みのところお邪魔してしまい、誠に申し訳ございません。聖ユトゥルナ女学園理事長の井戸川三弥子と申します。」


 理事長は上品に挨拶をしました。後ろの男性は名乗りませんが、理事長と一緒に頭だけ下げます。


「彩音の父、九条浩太郎です。いつも娘がお世話になっております。」


 そして、『妻の知世です』と簡単に紹介を済ませました。


「もっと早くにご挨拶に伺いたかったのですが、お忙しいとお聞きしておりましたので遅くなってしまいました。」


 誰も待っていない訪問で歓迎ムードにはなりません。そんな空気が漂うなかでも平然と笑顔でいられる理事長のメンタルは強かったです。


「……挨拶……ですか?何か、ご用件があったのでは?」


 浩太郎も少し嫌味っぽい聞き方をします。娘が通っている学園の理事長であっても、そのあたりに容赦はありません。


「いいえ、来年になれば彩音さんも高等部へ上がられますので、ご準備をお願いしたいこともございます。……そのためのご挨拶に伺わせていただきました。」


「……準備ですか?」


 前世で関りのあった人物である理事長の言葉に彩音は警戒心が生れていました。エスカレーター式の学園で余程のことがない限り進級は出来るので、必要な準備が意味しているものが分かりませんでした。

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