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#124

「ただ、楓さんが注意されただけなんですか?」


「はい。彩音様が梯子を上ろうとした時、楓様が慌てた様子で『わたしが取ります。危ないですからお止めください。』とだけ。」


「え?」


 悠花は、メイドが『俺が取る。危ないから止めておけ。』を丁寧な口調に変換して伝えてきたのかと思いました。


「……楓さんが、そんなおっしゃり方をされたのですか?」


「聞こえたままで、お話をしております。……あの場では、それだけのことしかありませんでした。」


 と、言うことらしいのです。

 普段の話し方を詳しく知らないメイドからすれば、ただそれだけのことになります。ただ、普段の楓を知っている悠花には違和感しかありませんでした。


「楓さんが、『わたしが取ります。』と?」


「はい。」


「楓さんが、『危ないからお止めください。」と?


「……はい。」


 繰り返し確認されてしまいメイドも戸惑っていました。聞こえてきた言葉をそのまま伝えただけで、驚かれるようなことはないと考えていました。


 悠花は、未だ疑惑の目を向けられている楓を見ました。そして、皆のところに戻って楓の疑いを晴らします。


「……どうやら、本当に楓さんは『悪さ』をしていないらしいです。」


「なんだよ、『悪さ』って。」


 楓は納得いかない顔をしていましたが、とりあえず疑いが晴れたことに安堵します。その表情からは、自分が普段と違う話し方で彩音に注意したことを意識している様子もありません。


――楓さんが、無意識の中で普段と違う話し方をされた?


 彩音も涙を拭った後は落ち着きを取り戻し、紅葉に持ってきた本の話をしています。


 本当に何気ない一コマのやり取りでしかありませんでした。


――彩音さんも楓さんも、お互いに意識していない中で起こったこと。前世の記憶と同じ彩音さんの制服姿が、楓さんに影響を与えたとするなら……。


 皆がお茶を飲んで休憩している間に、悠花は澪を呼んで全てを話してみました。


「……そんな言葉遣いを本当に楓さんがしていたのでしたら、やはり関係があるのでしょうか?」


「まだ決めつけるわけにはいかないですが、楓さんのそんな言葉を聞いて彩音さんが涙を流されたとしたら、無関係とも思えません。」


「私たちに戻っている記憶は、ほんの僅かということですね。」


「そうですわね。……ですが、彩音さんの顔をご覧になってください。」


 悠花と澪は紅葉に話しかけている彩音を見ました。涙の跡は消えて、少しだけ紅くなった頬と口元が緩んでいます。


「……少し、嬉しそう?」


 言った本人の楓は無意識で覚えていない様子でしたが、楓の言葉を聞いた彩音は思い出しているかもしれません。

 それまで、制服で恥ずかしそうにしていた態度はなくなり、楓にも笑顔を向けています。


「やはり、楓さんには一緒にいてもらわないといけませんね。」


 そう言って悠花は澪を見ました。彩音が最初に楓と話をした時のことを二人は覚えていましたが、彩音は楓と前世で繋がりがあったことを示唆しています。


「ええ、楓さんの無意識の言葉は、ソフィアさんに向けた言葉と同じだったのかもしれません。」


 悠花と澪は、楓も前世で関りがあった人物として考えてみることにしました。そして、彩音は楓のことを信頼していることから、ソフィアの処刑とは関係ないと思うことにしました。

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