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#107

「……浮いてないか?」


「いいえ、これが正装ですわ。」


「他の子たちが申し訳なさそうな顔になってるけど、大丈夫?」


「皆さんも、これから理解してくださるはずです。」


 彩音たちはジャージ姿で首にタオルを巻いて、軍手もしっかり着けています。片手にゴミ拾い用火ばさみ、片手にゴミ袋で準備は万端でした。

 土曜日ではありましたが、彩音たちが参加することを聞きつけて結構な人数が集まっていました。それでも、大半の生徒は制服での参加であり、ここまで気合を入れた格好は彩音たちだけになります。


 ただし今回は発案者の柴田美鈴も巻き込まれており、同じ格好をさせられています。最初は美鈴も恥ずかしそうにしていましたが、制服の子たちの方が場違いな雰囲気に変わっていました。


「楓さんは、見学だけなんですか?」


 澪と悠花が楓に近付いてきて質問をしました。


「女子校の行事に俺が参加するのはマズいだろ?……代わりに紅葉が手伝うみたいだよ。」


「それでは紅葉さんにも、これをお渡ししますね。」


 紅葉もゴミ拾いセットを一式受け取って、参加することになります。芽衣と沙織とは別行動になっており、担当区域の分担で指示をしたり忙しそうにしていました。



「……この道具は生徒会が準備したんですか?理事長は、ずっとご不在のままですけど、千和さんご存知ですか?」


「沙織さんからお聞きしたんですが、柴田さんのお父様が準備を助けてくれたみたいですね。」


「あっ、そう言えば、先ほどお見かけしました。」


 美鈴の父親も今日はスーツ姿ではなく、ラフな服装で参加していました。生徒たちにゴミ袋や火ばさみを渡していたり、前回の失敗を挽回するために率先して動いています。


「美鈴さん、お父様と色々お話したみたいですよ。陸上部の練習の時、嬉しそうにしておりました。……彩音さんに、すごく感謝しているみたいです。」


「私は感謝されるようなことを何もしておりませんわ。ですが、こんな雰囲気は私も嬉しいです。」


 薄っすらと汗をかきながらゴミを拾って歩き回ります。首に巻いていたタオルも格好だけではなく役に立っていました。


 形だけでなく行動で示すために皆が頑張っている姿を見て、周辺の住人が驚いています。聖ユトゥルナ女学園の生徒が清掃活動をするなど、前代未聞のことでした。

 最初は、彩音たちを見ながらヒソヒソ話をしていた人たちも、自然と手伝ってくれる流れになります。


「お手伝いいただき、ありがとうございます。」


 丁寧にお礼を言われる度に、恐縮しながらも徐々に手伝ってくれる人は増えていきます。その人たちにも美鈴の父親が道具を渡していき、確実に成功する流れが出来ていました。


「楓さんがおっしゃいたように、今回だけで終わることなく、今後も継続されるといいですね。」


 彩音の言葉を聞いて、澪や悠花も同意しました。


「今回の活動は2年生の柴田さんからの発案ですので、きっと大丈夫ですわ。」


「理事長のことが、どのように決着するのか分かりませんが、学園もきっと認めてくださると思います。」


 何も問題は起こっていないはずでした。穏やかな時間だけが過ぎていき、誰もがトラブルはなかったと思っています。


「お兄ちゃん、こんなにゴミが集まったんだよ。」


「…………。」


「お兄ちゃん?……どうかしたの?」


 紅葉の呼びかけにも楓は気が付いていません。楓が珍しく何かを考え込んでいるようでした。


「お兄ちゃん?」


「楓さん、大丈夫ですか?……どうかされたのですか?」


 皆が心配そうな顔で見ている状況に気付いた楓はパッと表情を変えて、


「あぁ、ゴメン。大丈夫だ。もう終わったのか?」


 と、いつもと同じように話し始めました。

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