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#001

 ソフィア・シェリングは17歳の誕生日に処刑台の上に立たされていました。

 後ろ手に縛られており、横には剣を持った屈強な男が控えており逃げ出すこともできない状態です。


「皆さん、聞いてください!この女は、皆さんが苦しんでいる時に贅沢三昧の生活を送っていたんです!」


 一緒に処刑台の上にいた『革命の女神』が、その場の観衆に向けて大きな声で呼びかけます。この先に行われることを考えると、ソフィアの身体は小刻みに震えていました。


「『パンがなければ、お菓子を食べればいいじゃない?』……この女が無神経に口にした言葉です!」


 ソフィアが14歳の誕生日パーティーで言った言葉に間違いはありませんでした。

 食べる物がないなんて虚言としか思えないくらいに、沢山の料理やお菓子がテーブルの上に並んでいるのを見て、ソフィアが漏らした言葉だったのです。


――まぁ、流石はソフィア様でございます。

――公爵家に相応しい、ご慧眼をお持ちですね。

――愚かな民衆にも是非聞かせたいですわ。


 その時、パーティーに参加している人たちは無条件にソフィアの言葉を褒めてくれました。


――こんな簡単なことも分からないなんて、民衆は何て愚かなんでしょう。


 父であるベルナール・シェリング公爵に極限まで甘やかされて育ったソフィアは、世の中に存在するマイナスの側面を全く知りませんでした。


 ただ、処刑台の下にいる人たちの瞳は全く違う反応を見せます。怒りや憎しみを色濃く湛えてソフィアを見据えていたのです。


「皆さんのかけがえのない人生を台無しにしてきた、穢れた公爵家の女を許すことができるのでしょうか?」


 ヒステリックな観衆の叫び声が処刑台まで震わせて、気が変になりそうな恐怖をソフィアは感じていました。


――助けて……、誰か、助けて。……私が、何をしたって言うのですか?……神様、助けてください。


 だが、その願いが聞き届けられることもなく、ソフィア・シェリングは17歳の若さで処刑されてしまったのです。



□□□□□□□□



「彩音様、14歳のお誕生日、おめでとうございます。」


 九条彩音14歳の誕生パーティーで、学校の友人たちは次々と挨拶をしてきました。

 大企業の一人娘として最大限に甘やかされて育った彩音は、自宅の庭で開かれている誕生パーティーの主役として注目を集めていました。


 学校の友人をはじめとして、会社関係の人たちも参加する盛大なパーティーではありましたが、少しだけ彩音が気に入らないこともあります。


「あの大きなケーキに飾られているのは、私ですか?」


 大きなケーキの上には彩音を模したマジパンの人形が置かれていました。ピンク色のドレスを着て、天使のような羽もついています。

 この日の主役である彩音を目立たせようとして料理人が張り切っているのは分かったのですが、姿形を似せてあることで人形にも彩音の魂が宿ってしまったようで気持ち悪さがあります。


「……とても可愛らしい人形ではありませんか?」


「ええ、彩音様が本当の天使になったようで素敵ですわ。」


 幼い頃から一緒に過ごしてきていた鳴川澪と仲里悠花が言葉をかけてくれます。


「……ですが、あのようにお祈りするようなポーズでは何かに縋っているみたいではありませんか?」


 天使の彩音人形は両手を胸の前に組んで、天を仰ぎ見るような姿勢で作られていました。それは、神様にお祈りをしているようにも見えます。


「そうですわね。彩音様が何かに縋るなんてあり得ないことですわ。」


「ええ、どんなことでも思うままの彩音様には似合わないかもしれませんね。」


 何一つ不自由なことなどなく生きてきている彩音が神様にお祈りをするような場面。

 そんなことを考えていると、彩音に暗い影が襲ってくるような恐怖心が湧き上がってきます。


――せっかくの楽しい時間に、そんなことばかり考えていても仕方ありませんわ。……皆さんもお祝いしてくれているんだし。


 彩音は庭を見渡して、参加している人たちの表情を見ました。


――お祝い……、してくれている?……心から?


 そして、彩音はケーキの上に置かれた祈るようなポーズをした人形を見ました。

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