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Episode.0:始動する運命

初投稿です。

更新は週に2回、日曜日と月曜日を予定しています。

楽しんで書かせていただきます。

これを読んで同じように楽しい気分になれる方がいれば、嬉しいです。

「かぁいぃなぁ!」


 精一杯の猫なで声を使い、俺は目の前の動物に話しかけていた。

 のどをゴロゴロと鳴らし、にゃんにゃんと言っている男。それが俺である。


 ――いや、待ってくれ。こいつやばいと思った君は間違っていない。


 だがせめて、この構図に対して言い訳をさせてほしい。

 わかっているのだ。これが普通でないことくらい、嫌というほど理解している。


 実際、夏場の真っ昼間に這いつくばってにゃんにゃんしている男がいたら、俺でもドン引きをするだろう。それが街中で、しかも公衆の面前ならばなおさらだ。


 けれど、仕方がない。これ以外に良い方法を思いつかなかったのだ。


『迷子の飼い猫を探してください』


 それが本日の俺に与えられたミッションだった。


 捕まえて飼い主に届ければ、それなりの報酬がもらえる。

 報酬はそのまま生活費になるから、しくじるわけにはいかない。


 ふしゅぅっ! と敵意むき出しで威嚇してくる猫に、俺は優しく手を伸ばした。


 一瞬、「噛みつかれるかも」という考えが脳裏をよぎる。

 しかし、こうした直接的な触れ合いの中でしか、動物と仲良くなることはできない。

 多少噛みつかれたところで、その痛みも知れている。


 そんなことより、今日の食い扶持を稼ぐ方が重要だ!


「そうカリカリすんなって。ほらほら、怖くないでちゅよ~」

「ふしゃっ!」


 鋭利に伸びた爪が、さっと手の甲をえぐり取った。

 痛い。想像していたよりもずっと痛い。


「痛いなっ! 何すんだよ!」


 反射的に手を引っ込めそうになったが、気合で我慢する。

 その気になれば、脊髄反射だって思うがままだ。


 ともあれ、ワンモアチャンス。今度は全力で掴みにかかった。


「ふぎゃあ! ふぎゃああああああ!」


 想像を絶する雄叫びを上げて、猫がすさまじい抵抗を見せる。


 なんの! 負けてなるものか!


 俺はやつの身体を抱え込み、よしよしと背中を撫でてやる。

 すると、最初は嫌がって暴れていた猫が、みるみるうちに大人しくなったではないか。


 完全に落ち着いたのを確認したところで、ケージに入れて一息ついた。

 疲労感が半端ではない。


「……さぁて、帰るかね」


 こんこんとケージを叩いてやると、猫がごろにゃーんとのどを鳴らした。


 俺は昔から、動物に好かれる速度が異常に速い。祖父はこの力を天性の才能と言ってくれた。

 俺自身に特別な自覚はなかったけれど、ただ単純に、いろんな動物と仲良くなれることが嬉しかった。


 才能を見込まれて、祖父から魔術を教えてもらったことがある。

 だが、あれはダメだ。教えてもらった魔術は、動物を無理やり使役するようなものだった。


 いくら仲良くなっても、上下の関係で縛るような力は持つべきではない。

 必要があれば、その都度助けを求めればいい。


 そう言った時、祖父は苦笑いをしながらこう返してきた。


 それができる人の方が少ない。だからお前は特別なんだよ、と。


 当時は祖父の言葉の意味がよくわからなかったけど、ある程度成長してくると、なんとなくいろんなものが見えてきた。


 たとえば、そう。

 この世界の構造、とかである。多くの人は獣や魔物に対して、『従える』という概念を持つ。

 そのままでは意思の疎通ができないし、反抗されて危険な目に遭うかもしれないからだ。


 だからこそ、術師は獣を使役し、自らの手足として働かせる。

 それがいわゆる召喚術という魔術のカタチだった。


「鎖がなければ仲良くできないなんて、いったい誰が決めたんだろうな」


 何気なくつぶやいて、俺は歩道を歩き始める。手にしたケージが思ったより重い。

 依頼人のもとに届ける頃には、腕がぱんぱんになっていそうだ。


 さっさと片付けてしまおう。

 そう思うものの、仲良くなった猫と別れることに、どこか寂しさを感じていた。


 これが、俺が皇立魔導学院――通称〈真学院〉に招待される二日前のことだった。

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