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8.少年は外の世界を知る

自身の作品で初めて(ほかの作品は放り投げているので当たり前ですが)ブックマークしていただきました!!嬉しい!!

これからも精進してまいります!では続きをどうぞ。

 春になったとはいえ、まだ夜の気温は低いままだった。特にこの日は冷え込みが強く、薄手の外套しか羽織っていないアルトが震えだすまでそう時間はかからなかった。


「はくしょん!……うー、どこか空いてるお店か宿、ないかなぁ?」


 今のアルトにとって最大の問題、それが空腹だった。牢から出され、荷物をまとめてすぐに授与式を行ったため、夕食を取り損ねていたのだ。

 昔から書物を読んだり家に来た商人と話したりして情報を仕入れていたため、この国の市民街に宿や飲食店、酒場といった寒さをしのげそうな施設がいくつあるかは把握していた。ただ問題があるとすれば、それらは全て牢に入れられる前、つまり2年前の情報だということくらいか。


(エレンさんが言ってた軽食屋さんがこのあたりのはずだけど……なくなっちゃったのかな?)


 そう思いながら角を曲がると、市民街の大通りに出た。貴族街を中心に半円を描くように伸びるこの道は、国の東と西の門を結ぶ大動脈とも言え、夜遅くなったはずのこの時間でもまだまだたくさんの人が行き交っていた。

 その中でも一際目を引くのが、南門前にある冒険者ギルド『青天の剣』だ。言わずと知れた有名ギルドである。その建物にしばし目を奪われていると、曲がり角にあった店から女性が出てきてアルトに近づいてきた。


「どうしたの、坊や。親御さんとはぐれたのかい?」


 見た目は20代くらいの背の高い女性で、料理でも作っていたのか、エプロンを身に着けていた。しかしそんな中で最も目を引く外見的特徴がひとつ。

 彼女の耳は大きく、とがっていた。


(エルフだ。話には聞いてたけど、見るのは初めてだ)


 エルフ族。

 この大陸に生きる種族の中では見た目は最も人族に近く、大きな違いとしては先ほども述べた耳くらいだ。しかしその生態は人族とはかなり異なる。

 まず、人族より何倍も長い時を生きる。現在生きている中で最高齢は1500歳を超えると言われ、平均でも800は優に超える。

 また、エルフは固有の国家を持たず、平原や森林地帯に部族ごとでまとまって暮らしている。寿命が長いため集落が移動することは珍しく、大体の集落は近くの国ごとに認知され、交易などでその生計を成り立たせていた。

 そして、性別のバランスが偏っていることでも有名だ。男性のエルフはごく稀にしか生まれず、そのほとんどは女性で占められている。大体男女比が1:100といったところだろうか。そのせいかエルフの男性はほとんどがハーレムを作っている。というよりも、作らなければ子孫を残せないのだ。だがそれでも余る女性というのが出てくる。そういったエルフは人族の街に繰り出して仕事をしたり、偶然出会った他種族と結婚したりする。最も多いのは人とエルフのペアなのだが、寿命の差で相手を看取ることが多くなるため大抵は独身を貫いている。アルトの目の前に現れた女性も、街に出稼ぎにきた一人だろう。

 こういった事情から人と交流するエルフはあまりおらず、エルフの文化や食生活などはあまり解明されていない。


「い、いえ、はぐれたんじゃありません。実は食事をとれるところを探していたのですが、話に聞いていたお店が見当たらなくて」


「ふぅん、そうだったの。なんていう名前のお店か言ってくれれば、案内してあげるよ」


「本当ですか!?ありがとうございます!場所はこの辺りで、名前は『オーロンの杯』だったはずです」


 昔、ライドリッヒ家に出入りしていた商人から聞いた話では、市民街で情報を得るのであれば真っ先に行くべき場所だそうで、表向きは軽食屋を営んでいるが中では各国の情報屋や商人たちがさりげなく情報交換をしているらしい。

 2年間も牢にいたアルトにとって情報は喉から手が出るほど欲しいものであり、これから生きていくために手に入れなくてはならないものでもあった。


「……へぇ、『オーロンの杯』で、間違いないんだね?」


「はい、間違いない、と思いますけど」


 その名を聞いた途端、エルフの女性の顔から微笑が消え、眼を細めてアルトの真意を確かめるかのように問いただした。神と対話しただの何だの言っても、結局は12歳の子供。まるで叱られたかのように委縮しながらも、アルトは目をそらさずに自信をもって答えた。昔聞いた名は確かに頭に残っていた。間違いなく商人は『オーロンの杯』と言ったのだ。


「こんな小さい子がその名を口にするとは、長生きはしてみるもんだねぇ。その店はうちの姉妹店みたいなもんでね、通り1つ分向こうにあるのさ。案内してあげるよ」


 アルトのまっすぐな視線を受けてか、女性は何かを察してアルトをとある店へと案内していった。そこは、姉妹店というのもうなずけるほど外観が先ほどの角の店に似ており、中に入ってみると口ひげを蓄えた初老の男性がカウンターの向こうに立って接客していた。客の入りは4、5人といったところか。それほど混雑しているわけではない。

 ほどなくして男性がこちらに気づき、ちら、とアルトを見るとすぐに女性へと視線を移した。


「…………どういう状況ですかな?」


「…………アンタが思ってる状況で間違いないと思うよ。アタイもいまだに信じられてないんだけどね」


 苦笑しながらそうこぼす女性を驚きの目で見て、再度アルトに目を向けた。何かを探るような目つきだったが、少ししてこちらも苦笑すると、


「ホッホッ、成程。なんとも数奇な運命を辿られているお方だ。どこで聞いたかは後々伺うとして、まずはマスターにお伝えせねば」


 そう言うと、カウンターの後ろにある鏡に向けて手のひらを付けた。アルトは何の変哲もない鏡かと思っていたが、実際は離れた人物と話ができる古代遺産(アーティファクト)であり、一般市民の中では比較的知られる通信手段の一つである。

 数秒後、鏡が波打ったかと思うと、その波紋が一つの形を作り出していく。


(頭に獣の耳……獣人族?)


 この世界でエルフに次いで人族に近いとされるのが、体に獣の特徴を持つ獣人族である。

 エルフと同じく耳に大きな特徴がある。人が持つ耳の位置ではなく、頭の上に獣の耳がついているのだ。その種類は様々で、肉食魔獣「サベルティガー」のようなものだったり、小型魔獣「ホーンラビ」のようなものだったりする。

 また、大体の場合お尻の上あたり(人間でいうところの尾てい骨の位置)から尻尾が出ている。これも耳と同じ種類のもので長かったり短かったりする。他にも種族によっては、尻尾で武器を持って戦うことができるほど器用な者がいたり、手や足の爪が伸びてそれを用いて攻撃したりするなど、人族にはできない攻撃手段を持つことがある。

 性別の偏りや寿命は人間とほぼ同じであるためか、エルフに比べて人族との関係性は良好で、大体の国では獣人と人族が混ざって日常を送るのも珍しくない。


『こんな時間に呼び出されたかと思ったら、爺か。どうした?そっちで緊急の要件はなかったはずだが』


 鏡に映った獣人族の男が尋ねると、爺と呼ばれたこちらの初老の男性は微笑みながらこう答えた。


「ホッホッホ。マスター、久々に良い知らせですぞ。我らが()()()に期待の新人が加わるかもしれぬのです」


『新人?そんな話、聞いてないが……』


「アタイが連れてきたのさ。あいつが残した符丁通りの言葉を言ったもんでね、思わず連れてきちまった。まさかこんな子供だとは思わなかったけどね」


『しかも子供だと!?おい、いくつだ。まさか成人前とかじゃないよな?』


 男――マスターは必死に店内を見回しているが、どうやらカウンターの陰になっているようでアルトを見つけられていない。そこでエルフの女性が抱え、鏡にも見えるようにカウンターの椅子に座らせた。


「ほれ、この子だよ。えっと、名前は……聞いてなかったね。なんていうんだい?」


 何が何やらわからず混乱していたアルトだが、名前を聞かれたということは分かったのでとりあえずこう答えた。




「僕の名前はアルト・ライ…………、いえ、ただのアルトです」






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「そうですか、ついにアルト坊ちゃんは家を追い出されてしまいましたか」


「何を落ち着いてるのよ!こうしている間にも、市民街で寒さに震えているかもしれないのよ!?早く助けてあげなくちゃ!」


「落ち着きなされ、シェリア様。こういう時を見越して手は打ってあります。私にお任せください」


「……手を打ったって、何をしたの?」


「そうですなぁ、まずは小手調べ、と言うと坊ちゃんに失礼かもしれませんが、間違いなく保護してくれる方たちに巡り合えるようある()()()()()を授けてあるのですよ」


「魔法の言葉?」


「はい――」


 ――――角の店の店員に「オーロンの杯」の場所を聞くといい、とね。

新しい人物を考えなしに登場させては、名前を考えるのに苦労する……

他の作者さんたちは名前考えるのどうしてるんだろう?ボキャ貧な自分が恨めしい!


というわけで新キャラが4人出てきました。それぞれ、アルト君にどう絡んでいくのかお楽しみに。

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