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3.そして少年は真実にたどり着く

何やら意味深なサブタイですが、実際にたどり着くのは次話という……

 そして、あっという間に2年が過ぎた。

 その最中に、何やらアルトの周りの牢がやけに静かになったり(おかげでよく眠れた)、牢番がやけに優しくなったり(外の状況も細かく教えてくれた)、果ては食事がやけに豪華になったりした。


(でも、誰も面会には来てくれなかったなぁ……少し寂しかった)


 この2年間、アルトに面会を希望する者は本当にただの一人もいなかった。優しくなった牢番に月1回くらいの頻度で確認したのだ、間違いない。もちろんディルムットも来なかった。このことと、外――ライドリッヒ家の内部で起きていることとを合わせて彼が導き出した答えは一つ。


(父上はもう、僕に期待していないのかもしれない……)


 ライドリッヒ家では、アルトがいなくなってもまるで気にすることなく日常生活が行われており、さらに言えばあたかもアルトという人間は()()()()()()()()()かのように振舞っている者もいた、という情報を耳にして、流石のアルトも真実にたどり着かざるを得なかった。ただ、かもしれない、と曖昧な結論にしたのは、こういった情報を加味して聡明な頭脳で正しい答えにたどり着いてもなお、どこか父親を信じたかったためだろう。


 その答えは、すぐに分かるところまで来ていた。

 授与式が次の週にまで迫っていたのだ。


(何より気になるのは、僕にどんなスキルが発現するかだけど……()()()()()()()()()()()のなら、何か戦えるスキルがくればいいなぁ……)


 アルトがそう考えるのも当然だ。何故なら、授かるスキルがどのようなものかという疑問よりも上の真実を知ってしまったためである。


 それは、『スキルを授かるという考え方そのものが間違っている』ということ。



 そもそもスキルとは、持つ者の特性や一族が生業としてきた職業などに応じて適したものを授かる、という考え方が主流だが、これがまず間違っている。正しくは、それまでに培ってきた技能や能力のうち、最適なものが()()()()()()のだ。授かるものではなく、自分の手で生み出すものなのである。

 ではなぜ、神々からの授かりものなどという伝承が根付いてしまったのか。


 かつて全種族の人々は、スキルが何なのかを自覚せずに暮らしていた。これをするのが得意だとかあれをするのに自分は効率がいいだとかいうものは多少感じていたが、それがスキルによる恩恵だということは知らずにいた。


 そんな中、ある一人の男が面倒なスキルに目覚めてしまった。それが『預言者』である。

 曰く、神々からのお告げを広める、という何とも胡散臭いものであったが、実際に言われたとおりに山を掘ったら金が出たり、橋を架けるのをやめたら翌年大洪水になって無駄骨にならずに済んだりと効果のほどは確かだった。


 しかし、これだけの力を持つ者を野放しにしておくほど、社会というものは甘くはなかった。すぐさまある王国に招聘され、国に富をもたらすようにスキルを使うよう強制させられたのだ。特に自分の立場にこだわりのない男はこれを受け入れ、神父という形で国民に英知を授け、国王に莫大な富を与えた。その過程で行ったことが、他人のスキルを開示するということである。


 神からの預言であると他者が持つスキルを分からせることで、適正職業の明確化や武力の増強などに繋げていった。そのうちに別の国にもこの『預言者』を持つ者が現れ始め、みるみるうちに大陸全土で自分のスキルが何なのかを明確に知る環境が整っていった。これが、現在のスキル授与の始まりである。



(この謎のメッセージに助けられるとは思わなかったけどね……)


 アルトがこの真実を知ったのは今から1年前。



 ふと、最近武器を持っていないため見なくなった例のメッセージが気になり、どうすれば表示されるのかを追求していた時期があった。ルーティンとなっている体を鍛えること以外にも、食事を我慢してみたり、ずっと起きていたりした。すると、断食7日目にして初めて、見たことのないメッセージが表示されたのだ。


『警告:身体機能維持のためのエネルギーが不足しています』


「――ッ出た!」


 もちろんつらかったが、それ以上に嬉しかった。もしかしたらこれは定型文しか表示しないのではないか、と思っていたのだ。


(警告ってことは、少なくとも僕の体が危険だと知らせてくれてるんだ。つまり、このメッセージは僕に害を及ぼすものじゃないのかもしれない。もしかして、エネルギー不足を補う方法は?とか聞いたら答えてくれるん――)


『解1:目の前の食物を摂取すること(最有力)

 解2:牢番に回復ポーションを依頼すること(非推奨)』


(――考えるだけで出た!?)


 いきなり求めていたメッセージが出たと思ったら、今度は自分の疑問に対する答えが出たのだ、驚くのも無理はない。しかも、口に出さずとも頭の中で軽く質問するだけでよかったのだ。これまでは無心でトレーニングしていたため、何も表示されなかったのかもしれない。

 このような機能を持っていると知ってしまったアルトは、同年代に比べて極度の知りたがりだった。どこまで教えてくれるのだろう、と思ってしまうのも無理はない。

 そこからは、アルトの質問祭りだった。


(この大陸の広さは?)『解:6000万平方キロメートルです』


(この大陸の種族は何種類?)『解:7種類です』


(教会で信仰されている神様の名前は?)『解:スフィア神です』


 ――――――


 ――――


 ――


 大体1時間ほど質問しただろうか、最後に知りたいこととしてアルトが聞いたのがこの世界の核心だった。


(じゃあ、スキルって、何?)


 今までなら、アルトがこう考えればすぐに答えを示していたメイジさん(アルトが暫定的に名付けた)だったが、ここにきてピタリ、と文字の更新が止まった。さすがに難しかったか、と考えたアルトだったが、およそ1分後、予想だにしない文章が表示された。




『告:女神により解答が示されます。少々お待ちください』




「………………、へ?」


 思わず間抜けな声が出てしまったが、無理もないだろう。つまるところ、女神の言葉が聞ける、ということなのだから。


 突然メッセージが消えると、アルトの周囲が光に包まれた。

 眩しくて目をつむり、再度開くとそこにはこれまで見たこともないほど美しい女性がいた。


「初めまして、アルト様。私は女神スフィア。この大陸を管理する神にして、あなたに『言葉』を届けていた張本人……張本神?です」


 ――どうやら、神様というのは茶目っ気たっぷりの存在のようだ。

安心してください、この女神さまは堕天したり神様やめたりしません。ちゃんと神様します。

ただ、ほんのちょっぴり、頭のネジは外れてるんですけどね。

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