3.悪友
タイトルに『──センパイ、ボクがヒロインですよっ?』を追加しました。
「お前も大変だな」
「……他人事みたいに」
その言葉に隣を歩く悪友二人を睨む。うらめしそうな目も忘れずに。校門の前で歩いていた所で二人とは合流した。
学校の玄関で靴を履き替えつつ応える。始業の時間まで結構ギリギリなので、人影は疎らだ。
「実際ひとごとだ~しぃ~? そんなおっかない顔しないで~よ」
けらけらと笑いながら、その独特な口調で四宮が言う。茶髪の髪をハーフアップにした快活な少女だ。その隣では天然パーマのもじゃもじゃヘアーを軽く整えたやれやれ系長身イケメンが苦笑する。
出会った頃は陰キャラトリオを結成できたのに、こいつら裏切りやがった。
……なんで、美少女とイケメンになってんだよ!
「おい、彼氏さん。彼女さんの手綱を握れ」
「はいはい、でも必要ないだろ」
四宮は「カ、カレ……ッ~~~!」と赤面し、あたふたしている。田中の言葉通りしばらくは問題ないだろう。
……大部静かになったな。こいつらがいわゆる幼馴染みカップルになったのは高校に入学してすぐ、四月のことだ。もう二学期だと言うのに、四宮は『彼女』と呼ばれるのに慣れないらしい。まったく、初心な奴である。
「はぁ……」
一連のやり取りで少しは気が楽になったと思ったが──。
「はぁ……………」
気が重い。
「ため息ばっかだな。そんなに嫌なのか? 雪野さんの隣が」
「そういうわけではないが……」
「ようするに、周りが怖いんだろ?」
「そう、だな。──下手なことすると殺されるからな」
多少オーバーな気がしなくもないが、事実だ。ハーレムメンバーの逆鱗に触れたら──。背筋に冷たいものが走る。
そんな会話をしていると軽い足音が聞こえた。それに振り返ると、一人の少女が廊下を走ってくる。
「おはよう、東西南くん、田中くん、四宮さん」
少女はそう言って走り去る。そのまま俺達のクラスに入って行った。
……ん、少女? ズボンを履いていた気が……。
噂をすればなんとやら。
「──雪野か」
男だとわかっていても、少女と間違えてしまう。それが男の娘。
「てか、周りに男の娘が二人もいるってどんな確率だよ」
雪野とカラスを思い浮かべ、呟いてしまう。その言葉を、照れから復活した四宮が目敏く反応する。
「何のは~なしなの~? 二人って~」
「……何でもない」
悔しい。こんなバカっぽいのに俺より成績がいいとは。因みに、田中は学年トップ、四宮は二十位前後だ。俺の成績? まあまあ、とだけ答えておこう。知らぬが花。世の中には知ってはいけない事、知らない方が良い事がある、という事だ。
「はいはい、東西南に迷惑掛けないの」
「ちぇ~」
ストッパー役兼彼氏である田中の言葉に、四宮が口を尖らせる。
「でも、僕も気になるかな、“男の娘が二人”って」
うわぁ、出てきやがった。目をらんらんと輝せてやがる。
こいつは真面目な爽やかやれやれ系イケメンの皮を剥げば、おもしろそうな事大好き人間である。……皮を被っている自覚は本人にはないようだが。
ついでに一つ余談を。この時の表情が堪らなく可愛いくて普段とのギャップが良い! と、一部の女子達から人気である。
……彼女持ち。ここまでは一千歩譲って許してやろう。何故、何故なのだ! おかしくないか!? バランスおかしいだろ!!!? 俺もモテたいんだよぉぉぉぉぉぉォォォォオオ!!!!?
「じゃ、また」
「うん、ま~た後で聞かせ~てね」
教室に入り、各々の席へ向かう。何か四宮が言ってるが、無視! 無視だ! 無視!
俺の席はというと──案の定美少女達が集まっていた。より正確に言うと、隣人である雪野の周りに。
「……めんどくさ」
誰にも聞き取れない声量で口にする。
昨日の席替えは帰りのLHRに行ったので、そのまま放課だった。俺は雪野やそのハーレムメンバーに絡まれないように逃げるように帰った。あの時の視線を忘れられない。
──怖かった。只々怖かった。あれが殺気というものなのだろうか。首筋がチリチリと痛かった。
今回は逃げる事も許されない。できるのはハーレムメンバー達の逆鱗に触れないように気をつける事だけ。そのためには雪野と関わらないのが一番手っ取り早い。が、誰とも分け隔てなく接する雪野がそれを許さない。なら、どうするか。
──雑魚キャラを演じればいい、ハーレムメンバーの視界に入らないような。つまり、普段通りに過ごすという事だ。ただ問題があるとすれば、現時点でヘイトが俺に集中している事だろう。
……それはもう仕方ないか。
殺されないように行動するだけで精一杯。敵視されたりするのはある程度諦めた方がいいだろう。
……「人間で在る限り、完璧を求める者はいつかは潰れる」っておじさんも言ってたからな。今回の目標設定は、殺されないように不興を買わない事、で行くか。
……はぁ、めんどくさい。
行動方針を決めながら重い足取りで、自分の席へと向かうのだった。