カリスマ
「飛行機とかヘリコプターってさ」
昼休み。いつものように唐突にあみの雑談が始まった。
「うん」
「どこに着地するかちゃんと考えて飛んでるのかな?」
「……いや、当たり前だろ」
呆れながら答える。
「いや、そうとも限らないかもじゃない!?」
「なぜそこで食い下がるんだお前は」
「なんかこうさ、『よーし、今日は行けるところまで飛んでやるぞー!』みたいなさ、そんな飛び方をしてる人がいてもいいと思う!」
「個人用なら居るかもしれないけど、乗客の命の預かる飛行機ではぜひともやめていただきたいな」
「でもさでもさ!いわゆるカリスマ!ってそういう常識のカタにはまらない人って多くない?」
一理ある。いや一理あるにはあるが。
「パイロットのカリスマか……」
「なになに、また面白い話してるの?」
学食を食べ終えてきたのか、教室に戻ってきた沙紀が私たちの会話に混ざってくる。
「今日はパイロットのカリスマだとさ」
「おー、今日は難しそうなテーマだねぇ」
「……まぁ、いい暇つぶしにはなる」
200mlの紙パックのグレープジュースを飲みながら、食後と午後の気温のせいか、若干の眠気のある私は気怠げに答える。
「みなちゃーん、さっきーきたからってまた寝ないでよー?」
「二人でも十分だろ……」
ジュースを飲み終わった私は机に突っ伏す。
「ほらほら、ちゃんと起きて起きて、みなみ」
「ちゃんと聞いてるから続けて」
「むううぅ……ねぇねぇさっきー、パイロットのカリスマってどういうのだと思う?」
不機嫌そうにしながらも沙紀に尋ねるあみあ。
「うーん……想定外の事態にも咄嗟に判断できる、とか?」
「なるほどなるほどー」
と納得した様子で、
「つまり美容師さんで言えば、うっかりお客さんの髪をばっさり切っちゃっても危なげなくフォローできる人ってことだね!」
「いや、それはカリスマ美容師的にはやっちゃいけないミスじゃないか……?」
「えぇー……それじゃあ今日はカリスマとは何か!を考えよう!」
どやっ、となんか決めポーズを取ってる姿が容易に想像できる。
「その職業ですごいって思われてる人のことじゃないかなぁ?」
「それっぽい」
沙紀の意見に私も同意する。
「確かにそんな感じがする」
今日のテーマがものすごくあっさりと終わってしまった。
「じゃあさじゃあさ、料理界のカリスマとか―、カリスマファッションデザイナーとか言うけどさー」
「うん」
「カリスマ界のカリスマとは誰なのか!」
「……えっと……」
「なんだ、カリスマ界って」
二人とも返答に困る。
「なんかすごい人たちが集まる世界?」
「雑!」
思わず沙紀も突っ込みを入れる。
カリスマ界のカリスマ、ねぇ。
少し想像してみる。
「悪い。わからん」
ダメだ。全く想像できない。
「じゃあカリスマ界のカリスマは私ってことで」
「待ってあみちゃん、どうしてそうなるの」
「特に考えてなかった!」
「……話すときは考えてから話してくれ」
「勢いは大事!」
と自信たっぷりに言うあみあ。
それを冷ややかな目線で見る私と苦笑してみる沙紀。
「……か、会話もちゃんと着地点を決めて話そうってことで」
と話を切り上げようとしたところであみあはハッとして言った。
「今のうまくない!?着地点決まったよ!?私、会話界のカリスマになる!」
「いや、無理だから」