06 謎が謎を呼ぶ(嘘)
せっかくのお盆なのにコロナで親戚に会えない(´・ω・`)(小説関係ない)
ーー大丈夫、大丈夫よ。あなたには私がついてるから。だから安心してね。何があっても、あなたを守るから。
「……」
「せん……」
「……」
「せんぱぃ……」
「……ん?」
「先輩っ!」
「うわっ!?」
ガタンッ、と驚きのあまり仰反った勢いで椅子から落ちてしまう。
「いてて……星宮!急に耳元で叫ぶな!」
「それは先輩がぼーっとしてるからでしょうが!」
「え?」
ぼーっと?俺が?
「東道先輩。草野先輩は今日はずっとこんななんですか?」
こんなって……酷い言われようだ。
しかし、そんな東道も困ったように、
「うん、朝からずっとこんな感じだね……」
……ああ、そういえば登校中も灯里にそのことで何か言われた気がするな。
しかし、朝からってことはやっぱりアレが原因なのかな……
「草野、この間の頭痛といい、体調が悪いなら今日の部活はもう帰ってもいいぞ」
部長が言っているこの間の頭痛というのはショッピングモールでのことだろう。あれには本当に驚いた。急なことだったから、というのもあるがそれ以上に酷かったのだ。何というか、強烈な頭痛と一緒に俺の中に何か熱いものが入ってくるというか、誰かに何かを捻じ込まれるような、そんな感じだ。……決して卑猥な意味ではなくて。
「もう大丈夫ですよ。それに、そのことを言うなら部長もじゃないですか」
「まあ、そうなんだが……。私にはお前の方が辛そうに見えたぞ」
「とにかく、もう大丈夫ですから。心配をかけてしまってすみません。ぼーっとしないように気をつけます。東道と星宮も、さっきは悪かった」
星宮は笑って、東道は少し不安ながらも頷いてくれた。
東道の町案内から3日。安全確認のための実験も成功し、俺たちの文化祭準備は順調に進んでいた。まあ、あの日以来、毎日変な夢を見てしまうせいで最近ちょっとぼーっとすることが増えてはいるが、さっき部長にも言ったように体調には特に問題は無いのであまり気にしてない(あの後、心配した東道に強制的に帰らされた)。と、ここまでは順調なんだが……
「あー、クラスの出し物なんて無くなってしまえばいいのに……」
そう、クラスでの出し物である。
「ああ、そういえば私は明日の部活には来れないぞ」
「あ、はい。それは俺と東道も一緒です」
「わたしもですよぉ。はぁ」
と、こんな感じでクラスの文化祭準備も放課後となるので部活での集まりはこれからは中々難しくなってくる。
「ていうか、何で半月前から準備なんですか!?私たちより遅いじゃないですか!?バカですか!?」
星宮は天井に向かってそう叫んで、行き場の無い怒りに空を切らせた。
だが、たしかに他の学校に比べればかなり遅い方だろうが、これには理由がある。まず、文化祭の準備そのものは文化祭実行委員がやり、クラスの出し物は夏休み前にクラスで決めて、それに必要な材料を資料にまとめて実行委員に提出する。そうしたら、あとは実行委員とその顧問の先生方が学校の飾り付けとクラスの出し物の材料を発注する(夏休み中に)。といった流れだ。こうして見ると、実行委員だけが不憫に見えてしょうがないと思うが、1年に1度しか働かないのだから当然である。
「落ち着け。言ったところで変わるものでは無い。下校時間まであと20分ほどだ。それまでに今までで決まったことを整理しよう」
部長の言葉に星宮は渋々頷いた。
今までに決まったこと
①液体窒素に浸けた花を手でバラバラにする。
② 〃 で凍らせたゴムボールを地面に叩きつけて粉々にする。
③ 〃 に風船を浸けて萎ませる。
④ 〃 に浸けたティッシュを小さい容器に入れて蓋を閉じる。
と、こんなところである。
「あ、もう時間ですね」
東道の言葉にみんなで時計を見る。短い針は6時を、長い針は2分を指していた。
……もう帰る時間なのか……
「うーん」
「? どうしたの?」
いつも通り四人で帰路を辿る中、俺のあげた唸り声に東道が反応する。
「いや、何て言うか。……最近、時間の流れが早く感じるなぁ、って」
「先輩、それはあれですよ」
「どれだよ」
星宮はいつになく真剣な顔で、
「老け、ですよ」
「……」
一瞬、星宮の言っていることがわからなかった。
「いやいやいや、そんなわけないだろう?まだまだ酒も飲めないガキがそんなジャネーの法則みたいなこと……」
「でも、先輩。わたし最近思うんですよ」
「……何をだよ」
「先輩、最近静かだなって」
「静か?」
静かってどういうことだ?大人びてるってことか?
「うむ、それは私も思っていた」
「え、部長まで!?」
以前の俺を知らない東道を抜きにすれば、部長にまで言われたら俺には味方がいなくなってしまう……!
「ですよね!わたしも最初は東道先輩の前だからかっこつけてるのかなって思ってたんですけど、何かそうでもないみたいですし」
実際、かっこつけてるつもりはないが……そうか、俺は静かになったのか。……あ、でも何かちょっとかっこいいな。クールキャラみたいで。
「あ、でも草野先輩にクールキャラは似合いませんよ」
「お前はいつエスパーになったんだ?」
純粋な疑問である。
「それ!それですよ!」
と、俺のツッコミ(?)に急に反応してきた。
「先輩、前よりもそういうところが静かになりました」
……どういうところ?
「ああ、そうだな。星宮に対するツッコミが前よりも静かになったな」
あ、そういうことね。……って部長がそこまで言うってことは本当に静かになってるのか。
「そうは言われても、俺にはよくわかんないんだけどなぁ」
「自覚がないのが一番怖いでよね……」
「おい、何だその言い方は。まるで俺がどこかの老害みたいじゃないか」
「怖い……ですよね」
「やめろ」
「だ、大丈夫ですよ。はい。わたしは、その、先輩のことを見捨てたりは……はい」
「本当にやめろって!」
そういう反応をされると本当に自分が老けてるんじゃないかと心配になる。
ほんとマジで一生やらないで欲しい。
「ねぇ、草野君」
「うん?」
部長たちと別れたあと、東道は少し心配そうに話しかけてきた。その表情でだいたい内容の想像はついた。
「最近、よくぼーっとしてるけど、何か悩みとかあるの?」
「うーん、悩みって言っていいのかわからないんだけどさ」
と、想像通りの質問に用意していた応えを言う。
「最近、変な夢を見るんだ」
「変?」
「ああ、何ていうか、女の人の声が聞こえてきて……」
「う、うん、それで!?」
……何か、食い気味だな。珍しいというか何というか……。それに、目も少し何かを期待したような感じだし……。
「えっとそれで、『大丈夫、大丈夫だよ』って、そう言ってくるんだ」
「……大丈夫?」
「そう、『安心してね』って」
「うーん……」
何かお気に召さなかったのか、考え込んでいる様子である。
「それが気になって、ぼーっとしてるの?」
「ああ、耳に残って言うか、いつも頭に響いてくるって言うか」
「それって、いつから?」
「え?えーっと、東道に町を案内した日から、かな」
「うーん、わかった。ありがとう」
そう言って東道はいつの間にか着いていた家に入っていってしまった。
……本当に何なんだ……?
何か、最近星宮を無意識の内に贔屓してしまっている気がする。