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夢を見る者  作者: 暇人
嵐の前の静けさ
3/30

01 問題だらけ

 ーー何だ、この不思議な感覚は...

突然の転校生、東道夏目を見ていると不思議な気分になった。

 決して恋愛感情などではなくて、もっと別の何かを感じた。

 確かに容姿は非常に良いと言える。腰までは流石にいかないが長くて綺麗な黒髪。スラッとしたモデルのような体型でも制服越しに小さくはないと強調してくる胸。そして何よりその顔立ちは俺が覚えている限りでは一番だろう。


 そんな風に彼女を見つめていると彼女と目が合った。 

 流石に見すぎただろうか...

 そうは思っても何故か目を逸らせずにいると彼女も俺を物色するように、或いは確かめるように見ていた。

 何だ?昔どこかで会った事でもあるのか?少なくとも俺は覚えてないぞ…

 そう、確かに覚えはない。……はずなのに何処か違和感を覚えた。

 そんな事を思っていると先生が不思議そうにその転校生に声をかけた。


「どうした?知り合いでもいたか?」


 先生がそう聞くと転校生は小さく


「い、いいえ」


 と一言だけ言って一席だけ空いている席に向かった。

 ん?何で何も言われていないのに行ったんだ?

 確かに一つだけ空いているのだから自分の席だと思うのは当然だが、先生はまだ席について何も言ってないぞ?

 そんな俺の疑問を置き去りに転校生は俺の後ろの席に座り、先生は連絡事項を話し始めた。

 先生の連絡が終わると予鈴が鳴った。先生が教室を出た瞬間、一気に教室の生徒達が俺の後ろへ行く。俺は波に呑まれる前に席を立ち脱出する。


 時間を潰すためにトイレへ向かう。トイレはA組の方に取り付けられているが俺の教室はD組のため少し遠いがまあ、良い暇つぶしだろう。そうして、次の休み時間も酷い事になったので俺はまたしてもトイレに向かう。トイレの前まで来た所で背後から声をかけられた。


「あの!た、草野君!」


 俺は後ろを向くと、そこには先程までクラスメイト達に質問攻めにされていた転校生がいた。東道、だったか。何故、俺に話しかけてくるかは謎だが応えない理由も無いので返事をする。


「……何だ?」


 俺がそう聞くと東道は口を開き、何かを言おうとする。


「あの、えっとーー


「あ、東道さん!」


 東道が何か言おうとした時、さっき東道を質問攻めにしていた生徒達の一味が来た。奴らはクラスでもヒエラルキー上位、イマドキ風の言い方で言えば陽キャグループと言うやつだ。


「え、あのーー


「ねっ、もっと東道さんの事教えてよ!」


 一人の女子がそう言うと東道はそのグループに囲まれ、連れられていく。一瞬、彼女と目が合い助けようとも思ったが、俺はクラス内ヒエラルキーでは最下位だ。それ自体は特に気にしていないが彼らが自分より下だと思ってもいる俺の話を聞くだろうか。聞いたとして、要望に応えてくれるだろうか。

 …いや、ないな。

 そう判断すると俺は逃げるようにトイレに入った。

 

 それから、何事もないまま放課後となり、俺は未だクラスメイト達からしつこく話しかけられて困った顔をしている東道を目尻に教室を出る。そして、またトイレに入ってから部室へと向かう。……流石に入りすぎだろうか、いや、確実に入りすぎだな。でもまあ、いいか。さっきトイレに入った時は暇つぶしのことしか考えていなかったせいで出してなかったからな。うん、仕方ない。

 そんな事を考えているうちに到着。『物理室』と書かれた教室に入る。


「こんちは」


「あー先輩!」


 挨拶をするや否や一人の女子が俺に話しかけてくる。


「ちょっとちょっと!見て下さい!このスーパー美人を!」


 そう言ってきたのは1年の後輩、星宮鈴音(ほしみやすずね)だった。

 茶色がかった黒髪にこれまた我が愛しの妹に勝るとも劣らない整った顔立ちをした低身長の女の子。

 誰にでも気さくに、そして明るく話しかける事から1年ではそこそこの人気者らしい。


 そして、星宮の言っていた方を見てみるとそこには東道がいた。

 ……て、え?東道?

 そう思って反射的にもう一度見てみるとやはり東道だ。つい綺麗な二度見をしてしまった。


「何でも科学部に興味があるらしくて!さっきまで部活について話してました!」


 星宮が横からそう補足する。

 いや、え?いくら興味があるからって普通、初日に来るか?


 「それでは自己紹介をしましょう!」


 俺の疑問を置き去りにして星宮が言い出した。


「私は1年E組の星宮鈴音と申します。気軽に鈴音ちゃんとお呼び下さい」


「あ、私は今日転校してきた2年D組の東道夏目。よろしくね。鈴音ちゃん。」


 星宮の自己紹介に東道が……って。


「おい待て、お前今まで名乗ってなかったのに部活について話してたのかよ」


 コミュ力お化けかよ。


「まあまあ、そんなことはどうでも良いじゃないですか。それより先輩も早く自己紹介して下さい。ほら」


 星宮に急かされて、俺は小さくため息を吐きながら東道に向き直る。


「東道と同じクラスの草野逹見(くさのたつみ)だ。よろしく」


「う、うん。覚えてるよ。」


 俺の返事に東道がぎこちなく応える。

 あれ?今思えばどうしてさっき俺に話しかけた時、俺の名前を知ってたんだ?

 その疑問を晴らそうと東道に聞こうと、口を開いた。


「あ、部長!」


 その時、後ろからガラッと音のした扉の方を見てみるとそこには部長がいた。


「…その人は?」


「体験にきてくれた東道先輩です!何でも今日転校してきたばかりだそうですよ」


 部長の質問に星宮が答えると東道は立って改めて自己紹介をした。


「どうも、2年D組の東道夏目です。宜しくお願いします」


「ああ、3年A組渡瀬雄太(わたせゆうた)のだ。この部活で部長をしている。宜しくたのむ」


 渡瀬雄太先輩、この人は成績優秀、運動神経抜群で顔立ちもよく整っており何処からどう見ても完璧超人の凄い人だ。ただ...


「あ、部長!また怖い顔になってる!」


「む、本当か?」


 星宮はそう言うと近くの机に置いてあった鞄から小さい折り畳み式の手鏡を取り出し、部長に突き出す。


「もう!そんなんだから部員が増えないんです。このあいだ部長目当てで来てくれた人だって1週間で辞めちゃったじゃないですか!」


 部長は何かと星宮に弱い。惚れているとかそう言う訳ではなくて、部長曰く「星宮は間違った事は言ってない」とのこと。


 そんな事をしていると視界の端でさっきまで影になりつつあった東道がクスッと笑った。


「およ?東道先輩が笑ったぞよ?」


 そんな風に星宮が若干からかうように言う。


「あ、ごめんなさい。けど何だか良いなって思って。」


 何か良い…か…変って言うか、不思議な奴だな。


「あ、そういえばまだ聞いてなかったけどこの部活って何をするの?」


 遂にそこに触れてしまうか...ていうかさっき星宮が部活について話してたんじゃなかったのかよ。

 そう思い星宮を見るが俺の視線には微塵も気付かないまま東道にこの部活の真実を告げる。


「特に無いですよ」


「…え?」


 星宮が言ってから1、2秒後そんな言葉が聞こえた。

 ま、そうなるよな...

 そう、この科学部は今現在、部費が無ければやる事も無く、もっと言えば部員不足の完全お先真っ暗状態なのだ。


「うーん、何かね?昔はそこそこ活発で大会でも功績を挙げてたらしいんですけど、今じゃもうこの三人しかいないですから」


 星宮がそう答える。

 確かに、昔はそこそこ良い功績を挙げており、実際にこの教室の隣にある『物理準備室』にはいくつか賞やら何やらがあったりはするがここ数年のものは全く無い。


「だから、東道先輩に入ってもらえるとすっごくありがたいんです!」


 星宮が上目遣いで東道に言う。

 我が校では部活の人数の規定は四人以上であることだ。そして今は俺を含め三人しかいないため文化祭に参加できないどころか、来年までに部長はいなくなるので新たに二人は入ってこないと廃部の危機なのだ。


「う、うん。良いよ、というか元々入る予定だったから」


「え!?本当ですか!?ありがとうございます!」


「わ!」


 東道が言った瞬間、星宮は感謝しながら抱きつきに行った。

 ていうか、最初から入るつもりだったのか。なんというか、そんな簡単に決めていいものなんだろうか。


「よし!部員は揃った!これで文化祭に参加できる!後は部費を何とかして手に入れるか...それが無理なら部費無しでできるものをやる!」


 こいつ今とんでもないこと言ったぞ...


「おい、それは流石に無理があるだろ」


「無理だけに?」


 おちょくってんのか。


「そうじゃなくて!お前忘れたのか?」


 俺が聞くと東道と星宮は不思議そうな顔をしていた。


「だってお前、文化祭まであと1ヶ月だぞ?」


「「え?」」


 東道と星宮が声を合わせて言った。


「「えーーー!?」」


 いや、そんなに驚くことか?


「もうそんな時期でしたっけ!?」


「もうそんな時期だよ、あほ」


「ええぇー…」


 星宮が項垂れる。


「どうにかできないのかな?」


 東道がそう言った。

 やはり、新しい学校での文化祭だから楽しみなんだろうか。けどなあ…


「うーん…何をするにしても準備には金と時間が必要ようだからな……部費は無いし時間だって、少ない訳じゃないけど…」


 実際、時間はさして問題じゃない。元よりそんなに大したことはできないし、する気も無い。1ヶ月あれば準備は間に合うだろう。

 ……やっぱし金かなぁ…


「この学校は実績がないと部費が貰えないからな。今まで人数が足りなかったせいで大会やコンテストに出ることもできなかったから、この科学部には先輩方の残した賞しかない」


 部長がそう言った。全くもってその通りだ。先輩方の残した賞は俺たちの実績では無いので当然部費は貰えないし。

 さて、どうしたものか。


「………そうだ」


 その時、ずっと黙りっぱなしだった星宮が急に喋り始めた。


「実績!実績ですよ!」


「何だよ、急に。実績は無いぞ」


 俺がそう言うと星宮は左手を腰に、右手の人差し指を眉間に当てて「ふっふっふ」とニヒルな笑みを浮かべた。

 正直ちょっとうざい。


「無いなら作れば良いんですよ」


「は?」


 何言ってんだこいつ。

 東道と部長も不思議そうに星宮を見る。


「今は部員が四人いる!つまり、部長の言ってた大会やコンテストに出られる!ドヤァ...」


 本当に何言ってんだこいつ。


「いや、だからお前、時間が無いって言ってんだろ。あと1ヶ月だぞ?」


「………」


 沈黙。


「もう無理だ……」


「諦めんのはえーな!」


 うわっ、こいつ一気に暗くなりやがった。今の状況を分かって無かったのかよ。

 星宮もこんなんだし、さてどうしたものかな...

できればご感想、ご指摘を貰えると嬉しいです。

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